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幻想小説 流幻夢  作者: 赤城康彦
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悪趣巡遊

 しかし、どこからともなく、熊や虎、狼などの獣の群れが現れたと思えば。餓鬼どもに一斉に襲い掛かって、鋭い牙を立ててそれらを食らい出すではないか。

「地獄で餓鬼が畜生に食われる、ってか」

 源龍は吐き捨てるように言い。貴志は無言で瞑想。頭の中では惨劇が繰り広げられているのが想像される。色々と思い浮かぶ自分の頭をこのときばかりは呪った。

(地獄、餓鬼、畜生……)

 自分の頭を呪いつつ、この三つの組み合わせに何か引っ掛かるものを禁じ得なかった。

 源龍は餓鬼どもが畜生に食い荒らされてゆくのを眺めながら、食えるものを食ってゆき。貴志にも、目をつむったままでも何か食えと言う。

 言われて、そうだと貴志も無理矢理でも口の中に食べるものを放り込む。

 しかしそれにしても、畜生のなんと凄まじいことか。やせ細り腹が突き出た餓鬼どもはひとたまりもなく噛み砕かれて肉片、骨片にされてゆく。

 源龍や貴志ですら、あの畜生どもの群れには敵いそうになく。餓鬼以上に怖気を禁じ得ず。鉄格子の中にいることを感謝せざるを得なかった。

 哀れ餓鬼どもはことごとく食い散らかされて、最後のひとりが嗚咽交じりの悲鳴を上げてからはただ、獣、畜生どもが肉を、骨をかみ砕き咀嚼する音ばかりが火の玉がわずかに照らす中、にじむように耳に触れる。

「地獄、餓鬼、畜生……」

「なんだって?」

「地獄、餓鬼、畜生。次の四つ目が来るかもしれない」

「次の四つ目だと?」

 なんだそりゃと源龍は貴志に問えば。

「修羅」

「はあ?」

 貴志お得意の教養ってやつかと源龍は思ったが。修羅とは、これまた突飛なことを言うものだ。

「あの、手が六つあるっていう、あれか」

「そうだ、修羅、阿修羅が次に来るかもしれない」

「ふん、面白いじゃねえか。六本の腕をへし折ってやるぜ。……って言うか、なんで分かるんだ?」

「仏の教えを説く経典に、人や人の世の悲惨さをあらわす四つの象徴として、地獄、餓鬼、畜生、そして修羅のことが書かれているんだ。それを四悪趣という、と」

「四悪趣だと?」

「まあ、あの煙の夢で見たことを仏典なりに解釈したものだと思えば」

「いやすぎる話だな、おい」

 果たして、熊や虎、狼どもが餓鬼どもを皆殺しにして食い尽くしたかと思えば、ごごご……、と地鳴りがするではないか。

 源龍はもちろん、貴志も瞑想ばかりもしれいられないと立って槍を構える。

 しかし、酷い光景だ。いかに餓鬼どもとはいえ、畜生どもに無残に食い散らかされるのを見ると少しばかりでも哀れみを覚えるというものだった。

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