悪趣巡遊
餓鬼どもは檻に迫り、鉄格子の隙間から細い腕を伸ばして源龍と貴志を捕らえようとするが、中はけっこう広くふたりは真ん中へんにいるので届かない。
と思えば、源龍はつかつかと歩き。伸ばされる細い腕目掛けて打龍鞭を振るった。
べき、という不快な音を立てて、細い腕が砕かれて。
「ぎぃやあぁぁぁ!」
腕を砕かれた餓鬼は苦痛に悶えて転がり回り、そこに他の餓鬼が迫り、がぶりつくではないか。
餓鬼が餓鬼を食らう、餓鬼の共食いをまた見せられて。貴志はげんなりして目を背けて。源龍は、ざまあ、と唾を吐きながら見物する。
「うう、気持ち悪い」
虎碧もたまらず目をそらす。手にした饅頭にはまだ口をつけていないが、食欲を掻き消すには十分すぎるほどのいやなものを見せられた。
しかし龍玉は平気そうに饅頭をぱくついて、一口、美味そうにご満悦の体で食している。香澄は、私はいいからと龍玉に饅頭を譲って、水の入った徳利だけだ。
「んまあ、なんて可愛い子なのかしら!」
饅頭を譲った時、龍玉は香澄に抱擁し頬ずりして、彼女なりの謝意を伝えたものだった。
「いや、あの、龍玉さん、そんな大げさな」
「いやあ、いやあ、可愛い可愛い香澄ちゃん。大好きよ」
もうにこにこの、愛情溢れんばかりの力強い抱擁で、笑顔での頬ずりだったが。さすがに香澄も戸惑い苦笑するのを禁じ得なかった。
ともあれ、そういうことで龍玉は両手に饅頭を持ち。徳利はそばに置いている。
四人は絵を前にしつつも、傍観するしかなく。その場に座りながら、傍観しつつ、何か出来ないかと思案を巡らせてはいた。
「龍お姉さん……」
餓鬼の共食いがよほど気持ち悪くて、虎碧は饅頭を龍玉に差し出した。せっかく世界樹の子どもがもってきたのだ、いただこうかしら、と思っていたが。もうそんな気もない。
「え、ほんとに! ありがとう。なんて可愛い妹なのかしら!」
龍玉は両手に饅頭をもったまま、虎碧に抱き着き。頬ずりする。
妹と言ったのは、ふたりは義姉妹の契りを交わしているからだった。他の者にまだちゃんと話していないが、縁あって出会ったふたりは、近くの聖人像の前で姉妹として共に力を合わせて生きてゆくことを誓った。
「お姉さんそんな大げさな」
虎碧は戸惑うが、龍玉はお構いなく頬ずりし。しばらくして満々の笑顔で饅頭を受け取ったが。すでに両手に持っている。
「……。そうだ」
服を着ててもよく張り出した、豊かな胸。襟を広げ服を少しはだけて、谷間もあらわにして、その谷間に挟んでみれば。饅頭はうまく納まった。




