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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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38/40

告白

 

 商会長であるエリオットが、ディーゴの事情に一定の理解を示し、解雇を撤回してくれた。

 アービスに再び受け入れられたディーゴに、メンバーは安堵し喜んだ。

 しかしエスタは手放しでは喜べなかった。

 前世では仕事や結婚を我慢してきたのだ。ディーゴがエスタを案じた時と同様に、彼には幸せになってもらいたいと、苦難を避けて平穏に暮らしてもらいたいという願いがあった。

 そっとディーゴに近づき小さな声で確認する。


「無理にアイドルを続けなくてもいいんだよ。あなたには自分の幸せを優先してほしい」


 心配するエスタに、ディーゴは微笑む。


「元々一から何かを作り出す仕事に就きたかったんです。だから今、楽しみとワクワクしかないんスよ。それに俺、みなさんと一緒にいるのが好きです!」


 ディーゴの心からの笑顔と言葉に、エスタはじんと胸が熱くなった。

 

「あカッシュさーん。俺にも歌詞書かせてもらえませんか? 俺前世でバンド活動してたんスよ~」

「おおいいね! 書いて書いて!」

「バンドってなに~?」


 数時間前までの重い空気が嘘のように、今は楽しそうに集まるメンバー達。

 エスタはその光景を見て、なんだか泣きそうになってクリフの背中に隠れた。

 エスタの状態を察したクリフは、背中を向けたまま「よかったな」と囁いた。

 安心する背中で、少しだけ泣いた。



  ***



 怒涛の一日となったアービス。

 

 ディーゴは告白のあと、怪我をしていたのですぐに自室で休み、エリオットは後処理のために一度商会に戻った。

 残ったメンバーとエスタが片付け作業をし終えると、すでに深夜を回っていた。


「そろそろ帰ろう」


 クリフが応接室に迎えに来て声をかけた。


「もう少し待っててもらえますか? リアンに話があるから残るよう言われていて」

「リアンなら先ほど部屋に戻ったぞ」

「ええ~? 疲れちゃったのかな。じゃあこの書類だけ片付けてきます」

「……」



 エスタは少し戸惑いながらもテーブルの書類を片付け始めた。


「クリフまだいる~? ちょっと来てくんな~い」


 2階からルルの声が届く。

 クリフは一つため息を落として応接室を出ていった。

 クリフが出ていってすぐ、窓を叩く音がして振り返る。


「な、なに?」


 恐る恐る窓に近づくと、リアンが窓辺に立って鍵を指差していた。


「リアン!? 休んでたんじゃーーどうして外から入ってくるんですか?」

「閉じ込められたけど窓から逃げて仕返しした」

「??」


 窓から入ってきたリアンは、にっこりと笑顔を見せる。


「エスタ、今日はお疲れ様」

「あ、はい。リアンもお疲れ様でした」

「俺、かっこよかった?」

「もちろん! 最高にかっこよかったですよー」


 いつもの屈託のない表情と会話に、エスタもいつも通りに答える。

 ところが、直後にリアンは真顔になって目を閉じ、ゆっくりと瞼を上げてエスタを見つめた。

 その瞳には熱がはらんでいて、居心地の悪さを抱く。


「俺、エスタのことが好きだ」


 突然のリアンの告白。

 応接室の空気が一瞬で張りつめる。

 喉が詰まり、すぐには反応できなかった。

 それでも、エスタは即座にマネージャーの仮面をかぶり、表情を引き締めた。


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