告白
商会長であるエリオットが、ディーゴの事情に一定の理解を示し、解雇を撤回してくれた。
アービスに再び受け入れられたディーゴに、メンバーは安堵し喜んだ。
しかしエスタは手放しでは喜べなかった。
前世では仕事や結婚を我慢してきたのだ。ディーゴがエスタを案じた時と同様に、彼には幸せになってもらいたいと、苦難を避けて平穏に暮らしてもらいたいという願いがあった。
そっとディーゴに近づき小さな声で確認する。
「無理にアイドルを続けなくてもいいんだよ。あなたには自分の幸せを優先してほしい」
心配するエスタに、ディーゴは微笑む。
「元々一から何かを作り出す仕事に就きたかったんです。だから今、楽しみとワクワクしかないんスよ。それに俺、みなさんと一緒にいるのが好きです!」
ディーゴの心からの笑顔と言葉に、エスタはじんと胸が熱くなった。
「あカッシュさーん。俺にも歌詞書かせてもらえませんか? 俺前世でバンド活動してたんスよ~」
「おおいいね! 書いて書いて!」
「バンドってなに~?」
数時間前までの重い空気が嘘のように、今は楽しそうに集まるメンバー達。
エスタはその光景を見て、なんだか泣きそうになってクリフの背中に隠れた。
エスタの状態を察したクリフは、背中を向けたまま「よかったな」と囁いた。
安心する背中で、少しだけ泣いた。
***
怒涛の一日となったアービス。
ディーゴは告白のあと、怪我をしていたのですぐに自室で休み、エリオットは後処理のために一度商会に戻った。
残ったメンバーとエスタが片付け作業をし終えると、すでに深夜を回っていた。
「そろそろ帰ろう」
クリフが応接室に迎えに来て声をかけた。
「もう少し待っててもらえますか? リアンに話があるから残るよう言われていて」
「リアンなら先ほど部屋に戻ったぞ」
「ええ~? 疲れちゃったのかな。じゃあこの書類だけ片付けてきます」
「……」
エスタは少し戸惑いながらもテーブルの書類を片付け始めた。
「クリフまだいる~? ちょっと来てくんな~い」
2階からルルの声が届く。
クリフは一つため息を落として応接室を出ていった。
クリフが出ていってすぐ、窓を叩く音がして振り返る。
「な、なに?」
恐る恐る窓に近づくと、リアンが窓辺に立って鍵を指差していた。
「リアン!? 休んでたんじゃーーどうして外から入ってくるんですか?」
「閉じ込められたけど窓から逃げて仕返しした」
「??」
窓から入ってきたリアンは、にっこりと笑顔を見せる。
「エスタ、今日はお疲れ様」
「あ、はい。リアンもお疲れ様でした」
「俺、かっこよかった?」
「もちろん! 最高にかっこよかったですよー」
いつもの屈託のない表情と会話に、エスタもいつも通りに答える。
ところが、直後にリアンは真顔になって目を閉じ、ゆっくりと瞼を上げてエスタを見つめた。
その瞳には熱がはらんでいて、居心地の悪さを抱く。
「俺、エスタのことが好きだ」
突然のリアンの告白。
応接室の空気が一瞬で張りつめる。
喉が詰まり、すぐには反応できなかった。
それでも、エスタは即座にマネージャーの仮面をかぶり、表情を引き締めた。




