話し合い
コンサートが無事に終わり、ベラバイのファンに取り囲まれたエスタ。
なんとか彼女達の誤解を解き、迎えに来てくれたクリフの姿を見つけてホッと安堵した時だった。
突然背後から襲撃に合ったエスタ。
クリフに腕を引かれ事なきを得たが、エスタとクリフを庇ったディーゴが、腕に怪我を負った。
そこからは早かった。
ディーゴは救護室に運ばれ、犯人は侯爵家の騎士に取り押さえられ、駆け付けた警備隊によって連行された。
「約束したのに! 違うって言ったのに! 嘘つき裏切り者わあああああああ!!」
エスタはリアンとクリフに支えられながら、放心していた。
エスタを襲った犯人は、ロズリーの過激なファンだった。
以前、エスタに裏接待のことを訊ねた少女だった。
あの時、彼女に噂は嘘だと、安心するよう伝えた。
その時はエスタ自身も信じて疑わなかったので、言葉に嘘はなかった。
その後、エスタはマネージャーを辞めたので彼女との約束が反故になる形になった。
さらにロズリーの裏接待が現実と知り、少女はひどくショックを受けた。
そんな時、嘘をついたマネージャーが辞めたことを知り、さらには他のグループを手助けしていると知って憎悪した。
逆恨みであることに変わりはないし、襲われる理由にはならない。
女は騎士に取り押さえられ、憲兵に引き渡された。
目撃者も多く、処罰は免れないだろう。
怪我を負ったディーゴは、すぐに医師によって処置が施された。
刃は筋肉で止まっており、出血も少なく命に別状はなかった。怪我も一月もあれば治るそうだ。
アービス邸に戻ると、疲労困憊ながらもエリオットからディーゴの件を聞かされた。
そして治療を終えたディーゴ本人の希望により、アービス邸に戻ると、メンバーと共に話し合いの場が設けられた。
改装して広くなったリビング兼ダイニングで、エスタとディーゴはダイニングテーブルに迎え合わせで座っていた。
二人に配慮したのか、エリオットと他のメンバーはリビングのソファにかけたり立って様子を見守っている。
「怪我した直後で大丈夫か? 話を聞くのはもう少し落ち着いてからでもいいんだぞ?」
カッシュの心配に大丈夫だと答えるディーゴ。
クリフが「先に聞いてもいいか?」と、腕組みをしてディーゴに訊ねた。
「なぜ君がエスタを助けた? 君はエスタを恨んでいたのではなかったのか」
「……」
エスタがエリオットから聞いたのは、ディーゴが脅迫文を書いて自分を辞めさせようとしたことと、音源を盗んで責任を負わせようとしていたことの2つだ。
襲撃も一見ディーゴの仕業と思われたが、こちらは逮捕された少女の犯行であった。
「どうしてエスタに嫌がらせを?」
「……」
「大丈夫って言っておいてだんまりなら意味なくな~い?」
リアンとルルも訊ねるが、ディーゴは口を引き結んで黙ったままだ。代わってエスタが訊ねる。
「事情があるなら聞かせてほしい」
「……僕の方こそ聞きたいです」
ようやく口を開いたディーゴに、全員が耳を傾けた。
「エスタさん。なぜアイドルのマネージャーになってるんスか」
「え?」
「言ったじゃないスか。死に際に『もうアイドルは懲り懲りだ』って」
「死に際?」
何の話だと全員が怪訝な顔を浮かべて顔を見合う。
この中で、エスタだけがその意味を知っていた。
「もしかしてあなた、『転生者』なの?」
「……はい」
ディーゴが真っ直ぐとエスタを見た。
転生者であり、且つ前世ではエスタと同じ時間を生きていた。
『私』の最期の言葉を知る人物。
「まさかーー」
「……そうです。僕は前世でエスタさんを殺した者です」




