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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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33/40

裏切り者

 

 エスタは撤収作業のため、急いで楽屋に向かっていた。

 廊下の角で、エリオットが商会のスタッフと話し込んでいた。

 神妙な面持ちのエリオットが、一瞬こちらを見た気がしたが、目を反らしてそのまま楽屋とは反対の方向へと行ってしまう。


「どうしたんだろ?」

「疲れた~!」

「! お疲れ様です!」


 メンバーが戻ってくる。みんなソファーや椅子に倒れこもうとするので、「メイクを落として帰り支度をしてくださいね!」と声をかけた。

 メンバーが着替えをするため楽屋を後にした。そして荷物を馬車に運ぶため、搬入口に向かう。


「あんたがエスタ?」


 背後から声をかけられ振り返った。



 ***



 コンサートが終わった後の控室は、熱気と疲労で混ざり合っていた。

 床には散らばった衣装や小道具が無造作に置かれ、メンバーは帰り支度をしていた。そこへエリオットとカッシュがやって来た。


「みなさんちょっといいですか? 大事な話があります」

「えー? 疲れてるから家で話そうよー。早く帰りたーい!」

「その家に、帰れないやつがいるんだよ」


 エリオットとカッシュの神妙な面持ちに、メンバーは顔を上げて体を向けた。


「……なに。ガチのやつ?」


 ルルが眉をひそめ、鋭い視線をエリオットに投げた。

 エリオットはルルの視線を流してディーゴに向けた。


「ディーゴ」

「は、はい?」

「君を解雇します」

「え!?」

「今日中に荷物をまとめてアービス邸から出ていってください」


 エリオットの声は冷たく、一切の妥協を許さない響きがあった。

 呆然とするディーゴに代わって、クリフが擁護した。


「待ってくれ。今日のコンサートが原因ならばミスをしたのはディーゴだけじゃない」


 エリオットはそうではないと首を横に振った。


「勿体ぶってないで説明してくんなーい? なーんでディーゴを辞めさせるわけ~?」

「ディーゴは俺達を裏切っていたんだ」

「は? カッシュもなんか知ってんの?」

「裏切りとは……まさか」


 クリフの意味深な問いにカッシュが頷く。

 そして、事情の知らないルルとリアンにエスタの脅迫の件を説明した。


「それで? エスタの脅迫がなんなの」

「さきほど調査班から、音源流出と脅迫の報告を受けました。その犯人が、ディーゴだったのです」

「ハァア!?」


 ルルがディーゴを振り返る。ディーゴは拳を固く握ったまま黙り込んでいた。


「ディーゴがエスタの鞄から音源を盗み、ホットプレイン商会に横流しし、アービスの活動を妨害していました。そしてアービス人気の火付け役となったエスタさんに、マネージャーを辞めるよう脅迫文を送りつけていたのです」


 メンバーは言葉を失い、控え室には重い空気が流れた。


「ディーゴ。違うならちゃんと否定してくれ」


 カッシュが声をかけるが、ディーゴはその場に立ち尽くし、青ざめた顔で唇を震わせるだけだった。


「こいつさっきまで俺達と舞台にあがってたんだぞ。それで裏では妨害してたって……マジかよ……」


 ルルの声が途切れ、信じられないという表情で額を覆った。


「待ってくれ。ディーゴのパフォーマンスや練習態度に嘘はなかった。何かの間違いじゃないのか? 本当にディーゴが情報を売ったのか?」

「リアン。残念ですがエスタさんの時とは違います。ホップレからの証言と、魔道具を使った映像の証拠もすでに抑えています」


 リアンはディーゴの裏切りが紛れもない事実と知って、ショックを受ける。


「あーあ、まさか身内に犯人がいたとはね~。いつから俺達を裏切ってたわけ~?」

「……」

「事情があるなら聞かせてくれ」

「……」

「なんとか言えよ」

「……」

「エスタになんか恨みでもあんの~?」

「ーーっ恨みなんてあるわけない!」


 それまで頑なに口を閉じていたディーゴが、突然声を張り上げた。


「じゃあなんでエスタの仕事を邪魔したり、辞めるよう嫌がらせの手紙を仕込んだりしたんだ」

「……」

「エスタをホップレに戻すためか? お前はホップレのスパイなのか?」


 カッシュの問いに、再びディーゴは口を閉じてしまった。


「どのみち彼女に暴漢を仕向け、危険にさらした罪は重い。責は侯爵家でも追及するぞ」

「暴漢だと!?」


 リアンが驚いて声を上げる。


「私が護衛をつけていたので大事には至らなかった。エスタがみんなには言わないでくれと言うので黙っていた」


 ホッと胸を撫で下ろすリアン。直後に沸き上がった怒りをぶつけるようにディーゴを振り返ると、彼はおぼつかない足でクリフの方へ歩いてきた。


「ぼ、暴漢って、なんスかそれ……」

「は? 白々しい。お前が人を使ってエスタに刃を向けただろう」

「な、なんスかそれ。そんなの知らないッス! 俺じゃない!」

「!? じゃあいったい誰がーー」


 次の瞬間、扉がノックされ、若い騎士が部屋に入ってきた。


「失礼します。クリフ様」

「どうした」


 クリフが鋭く応じる。


「エスタさんを見失いました」

「!」


 護衛の話では、エスタは搬入口で黒服のベラバイファンに呼び止められ、囲まれるように連れていかれたという。

 護衛は途中までは後を追っていたのだが、コンサート終わりで混雑する群衆に紛れて見失ってしまったという。


「申し訳ございません」

「……ディーゴ、暴漢を差し向けたのは本当に君じゃないのだな?」

「違います!」

「ファンがエスタさんを呼び出したのは、ベラバイが彼女をマネージャーに引き戻そうとした件でしょう」

「それでも心配だ。探しに行こう」


 リアンが二手に分かれて探そうと提案する。


「こいつはどうする?」


 カッシュの目配せに、ディーゴがビクッと肩を震わせ、エリオットが考える素振りを見せる。


「お、俺も探します!」

「……ディーゴが襲撃の指示を出していたか否か、今ここではわかりません。残して変なことをされるより連れて行った方がいいでしょう」


 クリフの命で、騎士がディーゴの背後に回った。メンバーたちは頷き合い、控室を飛び出した。


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