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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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31/40

妨害

 

 エスタが観客席に戻ると、マッドが前のめりに「あの子達は?」と心配して訊ねた。


「気落ちしてたけど大丈夫だと思う」


 舞台に上がればマネージャーにやれることはない。あとは彼らを信じて健闘を祈るばかりだ。


 二人は並んで座り、舞台を見上げた。

 司会の合図で客席が静まり返る。

 舞台上にはアービスが、緊張でこわばった笑顔を必死に保ちながら出てきた。

 曲が流れ、2巡目のパフォーマンスが始まった。

 歌い出しはリアンのソロから、フォーメーションが複雑で、移動が大変な曲目となっている。

 リアンが一歩前に出て、口元にマイクを近づけた。


「がんばれ……!」


 ところが、リアンの声とは別の声が、なぜか観客席から聞こえてきた。


「──ララバイ! ベーラーバイ! ッバイ! 愛を捧げー!」


 異様な歌声が客席から湧き上がる。

 それは、ベラバイの代表曲であるサビの部分だ。

 一人、二人、そして一斉に、観客の半数以上が歌い出す。

 舞台に立つメンバーも、客席にいる数少ないアービスファンも、何が起こったのか分からなかった。

 アービスの歌唱中にもかかわらず、ベラバイのファンがベラバイの歌をアカペラで歌い出したのだ。

 音響はアービスの曲がかかり、舞台にはアービスが立っているにもかかわらず、観客はベラバイの曲を大合唱して彼らの存在を掻き消そうとする。

 エスタが咄嗟に客席から飛び出しそうになったが、マッドに肩を押さえられた。


「ダメよ、今は……」

「でも、あれは妨害行為よ!」


 視線の先で、リアンの瞳がわずかに揺れた。彼の唇が震え、歌声が一瞬だけ止まる。

 隣のクリフも顔色を失いながらも、必死にテンポを拾い直す。


 これは歓迎ではない。拒絶だ。


『新しいアイドルなんていらない』

『舞台はベラバイのものだ』


 そう突き刺して彼らを排除しようとしていた。


「こんなの、あんまりだよーー」


 守りたいのに、何も出来ない。

 震えて見上げるしかできない。

 エスタは悔しさで泣きそうになった。


「やめろ!!」


 そこへ、会場中に響く怒声が鳴り響いた。

 マイクの音が割れて、キーンという不協和音が木霊する。


「ロズリー……」


 ベラバイのロズリーが舞台袖に現れ、曲を止めて客席に向かって叫んだ。


「やめてくれ! 俺達もこいつらも、血の滲むような努力と決意を持って舞台に立ってるんだ。どうか彼らにもリスペクトを!」


 ロズリーの言葉に客席は静まり返った。バツの悪そうに下を向いたり、隣同士で目配せしたりしていた。

 隣のマッドが「ハァンあーしのロズリィ男前ぇ!」と声を殺してエスタの腕をバシバシと叩いていた。


「もう一度、最初から曲を流してくれ!」


 ロズリーの計らいで、パフォーマンスははじめから再開されることとなった。

 

 舞台裏にはけたロズリーの背に、深い感謝を込めて見つめる。

 それでも、妨害の影響は拭えず、メンバーは萎縮して1曲目よりも散々なパフォーマンスを疲労する羽目になった。


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