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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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不穏な出来事

 

 ロズリーと会って数日後。

 エリオットから、ベラバイとのツーマンコンサートの提案があった。

 ロズリーは冷やかしなどではなく、本気でアービスと合同コンサートをするつもりのようだ。

 場所探しに難航していたアービスは、喜んで提案を受けることにした。


 この日も、アービスの路上ライブは大盛況だった。

 街角に響く彼らの歌声は、魔法の光を放つ街灯の下で

 拍手が鳴り止むことはなかった。


 パフォーマンスを終えて、エスタは機材の片付けに追われていた。

 メンバーは先に帰路へ着いている。

 商会スタッフと共に、重い魔道具を荷馬車に運び、汗をぬぐいながら作業していた。

 公演会場から忘れ物のチェックを済ませ、馬車に戻ろうと一人で歩いていると、背後で不気味な足音が響いた。

 スタッフが手伝いに来たのかと思ったが、振り返る間もなく黒い影がエスタに飛びかかった。


「お前がエスタだな?」

「!?」


 男の荒々しい声と、ナイフの冷たい光。

 エスタは悲鳴を上げる間もなく地面に押し倒された。

 しかし次の瞬間、金属音とともに男が吹き飛んだ。


「大丈夫か!?」


 目の前に現れたのは、一人の騎士だった。

 鋭い目つきと落ち着いた声。暴漢は騎士の剣さばきに気圧され、慌てて路地裏に逃げていった。


「あ、ありがとうございます。助かりました」


 エスタは息を整えながら礼を言った。

 騎士が「立てるか?」と手を差しのべる。恐怖で小刻みに震える手を伸ばし、なんとか立ち上がった。


「礼は俺じゃなくクリフトファー様に言ってくれ」

「クリフ様? あ! もしかして最近感じてた視線って」

「……たぶん俺だな」


 そこではじめて、クリフがエスタに護衛を付けていたことを知った。

 お陰で無事だったが、なぜ護衛を付けたのだろう。

 暴漢の襲撃も、ただの強盗とは思えなかった。

 なぜなら、男はエスタの名前を訊ねてナイフを当てたのだ。


「……アービス邸に戻ります」


 護衛を付けた理由は、この後明らかになった。



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