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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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次の一手

 

 アービスの路上ライブは成功に終わった。


 建国祭の終盤にお披露目をしたおかげで、人は多く集まり、斬新なデビューの様子を新聞に取り上げられた。

 1曲目のシンクロ率の高いダンスから織り成す斬新なフォーメーション。2曲目はガラリと変わってしっとり聞かせる歌唱力。

 新聞にはセフルプロデュースの文字が並び、実力派や大型新人などと大きく報じられ、アービスの名は一気に首都に広まることとなった。

 ……のだが、エスタは全くもって浮かれてはいなかった。


「まぁ、そうなるよね」


 首都では今、路上ライブがブームとなり、アービス以外のアイドルもこぞって路上で開催するようになっていた。

 路上ライブが珍しくなくなると、エリオットから次の手を考えるよう指令を受けた。


「なんかいつの間にか戦略まで任されてるんだけど」

「それはエスタに才能があるからだよ。エリオットが信頼を寄せてる証拠」


 エスタはリアンと共に、王都の中心地に来ていた。


「私、仕事大好きだからなー。では、気を取り直して。次の段階へいきましょうか」

「はい」

「コンサートホールで集客を収益化しよーう!」

「おー」


 エスタの掛け声にリアンも拳を上げて応じる。


「路上ライブは無料だからこそ誰もが気軽に観覧できた。知名度を上げるのに成功した今、この人気をお金に換えていきます!」


 そこでエスタ達は、メイテル侯爵の推薦状を持ってコンサートホールを訪ねた。


 結果は、侯爵家の後押しがあっても振るわずであった。


 伝統と規律を重んじるコンサートホールは、元々アイドルが舞台に立つことに寛容ではない。

 それでも、大手商会と貴族の横のつながりで会場を使えるようになった。

 担当者からは、客席の70%を埋める必要があると言われた。

 はっきり言って、今のアービスが単体で満席に近い状態にするのは不可能である。

 他にも、小規模のイベントホールや、集会場を訪ねたが、結果は同じだった。


「きびしぃー!」

「路上でお金を取るのはダメなのか?」

「個人なら見逃してもらえるけど、国に登録している商会でそれをしてしまうと法令違反になるのよね。あと、諸々手続きも大変だってエリオットさんが言ってた」

「そうか……」

「それだけアイドルが上がれる舞台には数に限りがあるってことね。だからホットプレイン商会は自分達で会場を建てることにしたのよ。ほら、あそこ。もうほぼ完成してるでしょ? それでも建築許可が下りるまでに五年もかかっているから、建てるのも簡単じゃないのよねー」


 話の途中でリアンがエスタの肩を抱いて方向を変えた。


「? どうかしーー」

「エスタ?」


 聞きなれた声に反射で振り返る。

 そこには、半年ぶりに見るロズリーの姿があった。

 

「ロズ、リー……」


 何の前触れもなく訪れた突然の再会。

 心の準備ができていなかったエスタは、その場で固まってしまった。

 ロズリーも同様に、目を丸くして佇んでいる。

 ずっと謝りたいと思っていた。

 しかしいざ彼を目の前にすると、どんな表情でいればいいのか、何から話せばいいのか、戸惑いが勝って言葉が出てこない。

 怪訝な顔をしていたロズリーだったが、エスタの様子を見て表情が変わった。

 寂しそうに、或いは困った様に眉尻を下げたあと、柔らかく微笑んだ。


「久しぶりだな」

「……はい。元気、でしたか?」

「ああ。お前は?」

「私は……」


 戸惑いながら答えていると、リアンがエスタの指を軽く摘まんだ。


「あ、実は私、今は別の商会でマネージャーをしてるんです」

「知ってる」

「メンバーのリアンです。リアン、この人は私が前にマネージャーをしていたグループの」

「ロズリーだろ?」

「お前……あの時のガキか」


 二人の間に冷たい空気が流れる。

 ロズリーはリアンを一睨みしたあと、視線をそらしてエスタに向けた。


「話したいことがあるんだが、二人きりになれないか?」

「なれない」


エスタが口を開くより先にリアンが答えてしまう。


「お前に聞いてねーよ。とにかくここだとゆっくり話せないから場所を移そう」

「俺達は今会場探しで忙しい。さようなら」

「ちょ、ちょっとリアン!?」


 リアンが勝手に話を終わらせて腕を引かれた。


「待て! 会場ならここを使えばいい!」

「!?」


 エスタの足が止まり、二人の腕がピンと伸びた。


「一月後にここで俺達のワンマンコンサートがある。そこにお前達を招待してやるよ」

「招待、と言うくらいなら会場の貸出料はかかりませんよね?」

「エスタ!」

「逆に依頼なら出演料が発生しますけど?」


 仕事モードに入ったエスタに、ロズリーが嬉しそうに口角を上げた。


「依頼じゃない。困っているお前達に手を差しのべてやっただけだ。調子に乗るな。だが、そうだな。貸出料はいらないし、チケット収入も折半でツーマンコンサートの広告費もこちらで出してやろう」

「ほんとですか!?」


 さらに食いつくエスタに、リアンが頭を抱えた。


「弱小商会だから会場探しに苦労してるんだろ? 破格の申し入れだと思うがな」

「ハァ……いちいち腹の立つ……」

「正直こちらとしては助かります。だけどロズリーだけで決められないと思うので、後日正式な書類をもって招待してくれませんか?」

「いいだろう。後はお互いの商会を通そう」

「はい! ありがとうございます!」


 エスタの反応に満足したのか、ロズリーは話を終えて踵を返した。


「待てよ!」


 リアンが呼び止め、ロズリーが振り返る。


「なにが目的だ?」

「リアン?」

「デビューしたてのアイドルに手を差しのべる理由はないはずだ」


 ロズリーが視線を落とし、ポツリと呟く。


「……エスタを」

「?」

「……いや。ベラバイを去ったエスタに、今の俺達の実力を見せつけてやりたいのさ」


 顔を上げたロズリーの挑発的な顔。放たれた言葉にチクッと胸が傷んだ。


「ついでに生意気なガキには頂に立つアイドルの景色ってやつを味わわせてやるよ」


 ロズリーはリアンにそう捨てぜりふを吐いて、今度こそ去っていった。


「……」


 やはりロズリーはエスタを恨んでいるのだろうか。

 落ち込むエスタをリアンが哀しげに見つめていた。




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