どう見ても
ルルがソファで新聞を読みながら横になっていると、練習室からリアンが戻ってきてリビングを見渡した。
「エスタは?」
「カッシュの部屋~」
「また?」
ムッと顔をしかめるリアン。
エスタはカッシュの作った曲を聞いて以来、頻繁に製作を支えていた。
カッシュの曲を気に入ったようで、あんなに部屋に入るのを嫌がっていたエスタが、今では二人きりで引きこもることにも抵抗しないほどだ。
「俺だって振り付け担当してるのに……」
リアンのぼやきに、ルルはあえて聞こえないふりをした。
前々からえらくエスタに懐いているなとは思っていた。明らかにエスタに好意を寄せているクリフと、リアンが衝突することも多い。これが恋なら、めんどくさくなること間違いなしである。
以前、リアンの行動に疑問を抱いたルルに、カッシュがそう見解を述べた。
『今のところ、恋というより愛じゃないかな』
『……は? もっとややこしいだろ』
『そうじゃなくて、女性として惹かれているというより、母親のような愛情を求めてる気もするんだよな。俺達の境遇って家族に恵まれてないし、あの頃の年って恋と母親像を一緒にするところがあるだろ? エスタって年の割にしっかりしてるし、前に助けてもらったとも言ってたしな』
練習室の片隅で声を潜める二人。
チラリとリアンに目を向けると、たしかに、誉めてもらうのを待つ子供のようにも見えた。
『……なるほど。恋愛じゃなくて親愛か』
『そそ。だから余計なことせず、本人が答えを出すまで温かく見守ってやろうぜ』
カッシュの忠告を思いだして、ルルは新聞に顔を埋めて口を引き結んだ。
階段を降りる音がし、リアンが勢いよく立ち上がる。
「エスタ。出かけるのか?」
「うん。コンサート会場を押さえに」
「俺も行く」
「ありがとう。だけどリアンとルルはこれからフォーメーションの話し合いをするんだよね?」
「それは夜でもいい。心配だから一緒に行く」
「そ? なら一緒に行こうか」
ルルは新聞越しに二人の様子を窺っていた。
リアンの感情が背中越しに伝わってくる。
喜びで尻尾を振る犬が周りに花を咲かせていた。
「ありゃどう見ても恋だと思うぜー?」
誰に聞かせるわけでもない、紙面に向かって一人ごちた。




