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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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18/40

二人の違い

 

「なぁ、最近リアンの機嫌わるくない? カッシュなんか知ってるー?」


 ダイニングテーブルで朝食を取っていたカッシュの元に、ルルがそう言って逃げてきた。

 リビングではソファに深く座り、頬杖をついて仏頂面のリアンがいた。

 膝の上で小刻みに指を叩き、淀んだ空気を纏っている。


「ああ……たぶんあれかな」


 カッシュの指差した方向をルルが見る。玄関から廊下をエスタとクリフが荷物を持って通るところだった。


「だから私が髪を乾かすって言ったじゃないですか!」

「子供扱いしないでくれ。一人でできる」

「できてないから言ってるんです!」

「む」

「ほらこっち向いて。変な癖ついちゃってる。あーもう秘薬も使いすぎですよ。これ本当に体に影響ないんですよね?」

「一人で直せる!」


 クリフに対して過剰に世話をやくエスタ。それを見たルルが、「うっざ」と吐き捨てた。

 リビングのリアンからは、更なる暗黒の空気が放出された。


「原因はあれ。二人が仲良いのがおもしろくないんじゃない?」

「は? リアンってそうなの? 趣味悪くない?」

「エスタはかわいいよ」

「お前からしたら女の子は全員かわいいだろが」

「まぁね。だけどリアンは恋愛とは少し違うと思うんだよな。エスタのことは『恩人』だって言ってたし」


 カッシュはルルが余計なことをしないよう、名言を避けることにした。


「ちょっとおもしろくないなー程度のイライラじゃないかな」

「それを嫉妬と言うんじゃないの?」

「んー」

「俺にはウザイ姉が世間知らずの弟の世話してるだけに見えるけどな」

「それな」


 カッシュから見ると、クリフは明らかにエスタに好意を寄せていた。

 リアンも同様に、エスタの言動によく反応している。  

 感情表現の乏しいリアンにしては、エスタと話している時は屈託ない笑顔を見せているし、人見知りが激しいわりにはなついている。

 他人に興味を持たないリアンが、エスタのことだけは気にかけて自ら接点を持とうと動いている。

 ただ、クリフとの決定的な違いがあった。


「まだ無自覚なんだよな……」


 恋心は、外野がとやかく言って気づかせるより、本人が育て自覚するべき感情であると、カッシュは思うのだ。

 だからしばらくは温かく見守ろう。

 ルルを宥めてリアンを慰めに席を立った。



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