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元男爵令嬢、異世界でアイドルをマネジメント  作者: 千山芽佳


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17/40

同居人

 

 エスタが市場調査を終えて家に帰ると、数台の荷馬車と侯爵家の豪華な赤い馬車が横付けされていた。


「?」


 不思議がるエスタに気づいたクリフが、玄関から駆け寄ってきた。


「迎えに行ったのに。思ったより早く終わったんだな」

「リアンが手伝ってくれたので……。ところでクリフ様、ここでいったい何をしていらっしゃるのです?」

「見ればわかる。引っ越しだ」


 荷馬車から見知った使用人が、次々と荷物を運んでいた。


「だ、誰の……?」


 荷物の運び入れを手伝っていた下男のオットーが通りすがりに答えた。


「若様の引っ越しです」

「クリフ様の!?」

「ここの方がアービス邸も近いので私も住むことにした」


 なんてことないように答えるクリフに、頭を抱えるエスタ。


 貴族の未婚男性が女性と住むなんて……!


「こ、侯爵夫妻はーー」

「いいよって」

「だと思った……!」


 またしても侯爵夫妻の無謀な采配にガックリと肩を落とす。


「また手紙を読まなかったのか?」

「……」

「忙しそうにしてたからな」

「机の上に、その、置いたまま……」

「そうか。あまり無理はするな?」

「はい。お気遣いありがとうございます。あの、それでですね。そうなりますと私も一緒に暮らすことになるのですが」

「ああ」

「それは問題かと思うのです。なので私が出ていーー」

「全くもって問題ない」

「いやありますよ。それに私がいるとご迷惑で」

「迷惑などあり得ない。私はまたエスタと一緒に暮らせて嬉しい」


 クリフはそう断言した後、不安そうな顔をのぞかせて訊ねた。


「エスタは私と一緒に暮らすのはいやなのか?」


 エスタとクリフは侯爵家で一緒に育った仲だ。世間体を気にしているだけで、嫌なわけではない。

 それに、ここは侯爵家所有の家。追い出されるならエスタの方である。


「ハァ、そんな可愛い顔でお願いされたら嫌とは言えません」

「エスタの好きな顔に生まれてよかった」


 図星を指されて顔を背ける。

 クリフは満足そうに、にんまりと笑った。

 姉弟のように育ったせいで、二人きりの時はどうしても砕けて接してしまう。

 二人で並んで歩くと、エスタの肩くらいまでだったクリフの身長は、今では見上げるまでに伸びていた。


「追い越されちゃいましたね」

「フフフようやくエスタを追い越せた。4年前はまだ12歳だったからな。出ていく君に付いていくことも止めることもできなかった。これからは君を側で守れるのだと思うと嬉しいよ」

「逆ですよ。守られるのはクリフ様で、守るのは私です」


 突然クリフに手を取られ、熱のこもった目で見つめられた。


「いいや。君を守るのは私の役目だ。私にはその責任がある」


 あまりにも真剣な眼差しを向けるので、そのまま手の甲に口づけを落とされるのかと思った。

 しかしクリフは握手の形に持ちかけて、「これからよろしく頼む」と、少しだけ申し訳なさそうに笑んで挨拶をした。


「は、はい。よろしくお願いします」


 ドキドキと心臓が早鐘を打つ。

 慣れた間柄なのに、何かが違うような気もする。それが何なのか、考えてはいけないような気がした。


「私もよろしくお願いします」


 二人の繋がれた手の上に、オットーのしわがれた手も重ねられた。



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