愛の海
「すげえや……」
ゼンゾーが目を血走らせ、息を荒くして言う。
「綺麗だ……」
「変な匂いは?」
ユーコが少し見下すように、聞いた。
「むっちゅぐちゅとかいう臭そうな匂い、やっぱり、する?」
「いい匂いだよ」
ゼンゾーは夢中だ。
「匂いだけじゃなく、見た目も綺麗だ。こんな……」
「ん?」
「こんな細い……折れそうな、こんな可愛い身体で、ユニを育てたんだな。偉いな、優子は」
「ふふ」
側で見ていたユニオが笑った。
「ママは強いもんね」
「ユニくんの糞尿だって食べたんだから」
「この可愛い口で!?」
ゼンゾーが驚く。
「でも美味しかったんでしょ?」
ユニオが突っ込むように、横から言った。
「嫌じゃなかったでしょ?」
「ユニくんのなら何でも美味しいよ」
幸せそうに笑いながら、ユーコがユニオの髪に唇を埋め、下にずらすと唇にキスをした。
「ダメだ、ユニ。これはおれのもんだ」
ゼンゾーがそれを奪い、自分の唇で塞ぐ。
「あん……! 僕も……」
焼き餅を焼くようにユニオがそう言うと、2人の間に割って入り、ゼンゾーの唇を盗むように吸った。
「だーめっ! ユニくんはママとキスするのっ!」
「いやいや。おれは優子とだけしたい」
「僕は2人ともとしたいよ」
「じゃ、3人で……」
灯りを消した部屋にチュッチュッとハートマークを飛ばす音が鳴り響いた。
「よし、優子。子供を作ろう」
ゼンゾーが張り切り出す。
「ユニ。お前に弟か妹を作ってやんよ」
「わっ! 僕、兄弟欲しかったんだ」
ユニオが身を乗り出す。
「でも、どうやって作るの?」
「しない! しません!」
ユーコが声を上げる。
「ちゃんとゴムはつけて……ね?」
「ママのおっぱい、ちっちゃくなった?」
ユニオがそれを触りながら、言う。
「こんなんじゃなかった」
「大きさじゃないんだ、ユニ」
ゼンゾーが語り出す。
「大事なのは美しさと柔らかさ、そして味なんだ」
「あんっ!」
突然そこに吸いつかれ、ユーコが声を上げた。
「そんないきなり……っ。あ……、そこだめーーっ!」
「とりあえずユニ、出てけ」
鼻息荒くゼンゾーが命じる。
「なんで?」
不思議そうにユニオが聞く。
「わかるだろ。お前、邪魔。子供は寝る時間ですよ」
「もう僕、子供じゃないよ」
「じゃあ手伝え。お前そっちのおっぱい吸え」
「乳離れしてるってば。子供扱いしないで」
「子供としてじゃねえ。お前に吸われたら、きっと優子も喜ぶ」
「えっ? うっ?」
「じゃあ……」
「あーーーっ!」
ユーコの泣くような声が部屋の外まで響いた。
つまらない。
こんなものを見るために私はここにいるわけではない。
見ていられず、部屋の外に出ると、ゴゴが廊下に蹲り、聞き耳を立てていた。
どうやらユーコとゼンゾーが結ばれることを快く思ってはいないようだ。
これは面白そうだと、直感した。
私が姿を見せると、びっくりした顔でこちらを向く。そして押し殺した声で、私に言った。
「いつから……いた? アーミティアス」
怯えた顔つきで後ずさるゴゴに、私は軽く『魅了』をかけてやった。
「ゴゴ」
私は命令する。
「私はユーコが欲しい。私のためにユーコをゼンゾーから奪え。お前も入れてやる。私とお前とで、今ゼンゾーがしているようなことを、ユーコにしようではないか」
ゴゴの口からよだれが太い糸のように垂れた。




