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 研究棟事務科を通して、瞑想を研究している人にアポをとった。その際、どうして興味を持ったかなどの詳細なレポートも付けて。

 事務科に話を通して数日後、先方が会ってくれると言うので早速研究室を訪ねた。

 事前にラスティンとも打ち合わせをしたため、もし金銭その他の協力を求められたとしてもすぐに返事ができる。


「丁寧な挨拶とわかりやすいレポートをありがとうございます。

 私は瞑想を専門に研究しているハルークと言います」


 研究室にいたのは穏やかそうな老人だった。


「あ。やっぱりハルークおじさまだったんですね」


「ん? おや、団長の娘さんじゃないか。…っと、ここでは家のことを言うのはダメだったかな?」


「あ、リルムちゃんは知ってるから大丈夫でーす。

 で、こちらリルムちゃん。私の所属する研究所のボスです」


 先日サーシャが話してくれた通り、この老人がサーシャが言っていた騎士団に瞑想を教えている瞑想の第一人者のようだ。サーシャの知り合いだったようで気安く話している。


「番の研究、でしたね。

 正直言いますと、私としては目からうろこが落ちましたよ」


「と、言いますと―?」


「番とはそういうもの、とずっと思っていたのですよ。言い換えれば、常識だ、とね。

 だが、あなたはそれを良しとしなかった。それがなんなのかを解明しようとした。それはとても素晴らしいことです」


「ふーん? そういうもんなんですかねー?

 あ、でも、確かにリルムちゃんの研究画期的なんですよー。番になっても選択する権利があるのってすごいことじゃないですー?」


「あぁ…我々の常識が崩れそうですよ。

 それになにより、私の研究が役立つかもしれないと思うと、とても喜ばしいものです。

 是非、研究に一枚噛ませてください」


「え、やったー話がはやーい」


「あの…よろしいのですか?」


 それ相応の謝礼が必要と考えていたので話がトントン拍子に行き過ぎている気がする。

 心配になるものの、どう言葉にすればいいかわからない。そんなリルムの戸惑いが伝わったのか、ハルークは豪快に笑った。


「勿論、研究協力としてそれなりのものはいただきますよ。

 サーシャちゃんがいるならそちらも話が早そうです」


「もちろんですともー。スポンサーに予算をいただいてきたり相場を調べたりしましたのでおまかせくださいなー。

 というわけで雑事の窓口は私に任せてくださいなー」


「よろしいのですか?」


「当然ですよー。私の方がハルークおじさまに連絡取りやすそうですしね」


「では、よろしくお願いします」


 謝礼の話をほぼサーシャに任せ、リルムは本題にに入った。


「ええと、それで…私たちの主張はレポートの通りなのですが、レポートの時点で何か疑問に思うことなどはありますか?」


「ふむ。まぁ仮説に至った経緯はわかりました。

 ですが、それだけでは根拠として弱いということだけは念頭に置いていただきたい」


「確かに、おっしゃる通りです」


 今のリルムたちの番に関する研究は、まだ研究と言えるレベルではない。データが足りなすぎるのだ。


「ただ、先ほど言ったように着眼点は本当に素晴らしい。

 それと、逆に言えば少ないデータの中から有力な仮説を導き出したということは誇ってよいと思います」


「あ、ありがとう、ございます」


 まだまだ甘い部分もあるだろう。

 それでも、研究者の先輩であるハルークに認めてもらえるのは嬉しいものだ。リルムは言葉を詰まらせながらもなんとかお礼を言う。


「それではまず、瞑想の効能から…。

 いえ、その前に瞑想とは何か、という部分から話したほうがよいでしょうか」


 ハルークが研究の対象としている瞑想は、主に自分自身を見つめるものの総称ということらしい。過去や未来に囚われず、静かな場所で己の今を見つめ、精神を穏やかに保つそうだ。


「それでいくと、シスターの祈りは瞑想の範囲外ということになるんでしょうか?」


「そうですね…。

 まぁ私の研究の対象外というだけで、効能が一緒、ということはあるかもしれません。

 私の研究は、常に自分自身の今を見つめることで外部からの圧力を減らせるのではないか、というところが原点ですので」


「外部からの圧力、ですか?」


 自分自身を内部、とすれば外部に該当するものは多岐にわたってしまう。

 少し想像がつかなくて問い返すと、穏やかに微笑まれた。


「えぇ。私の研究の最初は、どうにかして何かの命を奪うというプレッシャーから解放されないだろうか、というところなんです。

 私ももともとは騎士の家出身なんですよ」


「えーそうだったんですか? 初耳ですー」


「私が家を出たのはかなり前のことですからね。

 そもそも、私は何かの命を奪うのがとても苦手でした。騎士団はそういう場所であるとわかってはいたのですけれども。

 そして、それに耐えかねて家を出たのです。騎士団では私が異端でした。そういう人もいる、という言葉はあまり慰めにはなりませんでしたね。

 それで、私は学問の道へ逃げました」


 これが、瞑想を実践している効果なのだろうか。過去の己の話であるにも関わらず、ハルークの言葉からは淡々と事実だけが述べられている印象だ。

 もしも、過去にとらわれずに済むというのであれば、研究とは別にリルム自身も是非実践したいところだ。

 ラスティンが傷をいやすかのように甘やかしてくれているとはいえ、夢に過去の光景が出てくることは少なくない。


「学問に没頭している最中に、ひょんなことから瞑想の話を聞いて、そこから私は研究の道へすすみました。

 瞑想に関する研究は意外と長いんです。私で4代目になりますね」


「えーそうなんですか? それは知らなかった。

 でもあんまりメジャーじゃないですよね?」


「そうですね。それはやはり瞑想の効果が一朝一夕に出るものではないから、というのがあげられます。幼い頃から瞑想をしている熟練の人だからこそ発見できた効能、というのもありますしね。

 具体的には…っと、これは番にはあまり関係ありませんでした。要点のみかいつまんでお話します」


 ハルークが言うには、瞑想が番に冷静に対処するために効果的であるということは十分に考えられることらしい。何故なら、瞑想の一番の効能は環境への適応力を高めることだからだ。

 慣れない命を奪う作業に慣れることや、伴侶に先立たれた悲しみなど、様々な外的要因からなるストレスを緩和する傾向にあるのだハルークは説明する。


「確かに番も外的要因ですものね…」


「ただ、それを証明するためには長い時間が必要になります」


「そういえば、瞑想というのは効果が出るまでに一般的にどのくらいの時間が必要なのでしょうか?」


「なんとも言えません。人による、ということと、少しの時間でも毎日やっている人の方が効果が高いということは言えますね。

 よければお二人も一度瞑想をやってみませんか?」


 そう勧められて実際にやってみることにした。一番スタンダードなやり方で、目を閉じて自分の呼吸を数えるというものだ。ほんの5分ほどだが、なんとなく気持ちが落ち着いたような気がする。


「基本はこれですが、そのほかにも目を閉じて自分の体の隅々まで意識を向けたりする方法などもありますね。基本は自分の過去や未来ではなく、今を見ることです」


「…あぁ、なるほど」


「どうかしたんですかー?」


 実際に瞑想をしたり、他のやり方を教えてもらったことで理解できたことがある。


「私、無意識に瞑想を行っていたんですね。もちろん姿勢を正すとか、そういったちゃんとした手順は踏めていませんでしたけれども」


 あの地下での生活は、それしかすることがなかった。

 自分の呼吸を数えたり、まだ四肢があるか感覚で確認したり。

 目を開ければもっとひどいことをされたから。目を閉じて想像を巡らせることくらいしかできなかった。


「だから、ラスティン様と出会っても冷静に見えるのでしょうね」


 やっと謎が解けて、少しほっとした気持ちになった。



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