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「リルムちゃん大丈夫ですかー?」
疲労困憊な様子を隠せないリルムに、サーシャは気遣わしげな声をかける。
「は、はい…なんとか」
あの出来事から数日経った。エルムは学園へ来ていないのか、出会うことはなくホッとしている。
サーシャからも
「たっぷり釘刺しておきましたし多分大丈夫じゃないかとー。
なんていうか、初めて色々気付いた子供の顔してましたから…まぁ学生って皆子供なんですけどねー」
という本当に大丈夫かはちょっと怪しい言葉も貰った。
実際、現時点では絡まれることなく快適な学園生活を送らせて貰っている。
特にサーシャは、学園の風紀委員長を務めているため何かと頼りにしていた。
なにせ、ラスティンはシンの護衛という立場もあって四六時中一緒に居るわけにはいかないからだ。その代わりにサーシャが護衛として学園内ではついて回ってくれているという状況だ。
「試験を全部こっちの都合で出来たら楽なんですけどねー。流石に先生達も授業がありますからー」
今リルムは卒業に必要な授業の試験を片っ端から受けているところだ。これは学園で自由に研究するために行っている。
予想はしていたが、番のシステムに関する研究はこの学園の授業には存在しなかった。マナーや歴史の授業でサラリと触れることはあるが、番そのものに焦点をあてた授業がない。となると、リルムは誰かから教えを乞うわけにはいかず、独学で学ぶしかない。
そういったことを担任のガルーダ先生に相談すると、研究員の資格をとってみないか、という提案を受けたのだ。
「この学園では自分の専門分野をより深く研究したいという熱意ある学生へ支援も行っています。研究員制度っていうんですけどね。
ただ、そのためにはまず学園の必須授業を全てクリアしている必要があるんですよ。
必須授業の全取得。そして、研究したい内容が今まで学園が許可してきた研究に匹敵するものかどうか、そういう審査があります。研究員になることができれば図書室の全図書閲覧・複製許可と、専用の研究室、それから微々たるものですが研究費用も貰えますよ。
今聞いた範囲でも、番の研究というのは結構有用だと認識できました。私の一存では決められませんが、やってみる価値はあると思います」
「あ、研究員ってそういう仕組みだったんですねぇ。でもこれ良くないですか?
確か研究室のある棟って研究員の資格がなければ入れませんよね?」
「そうなんです。そこもオススメした理由の一つですね。
許可のない生徒は血縁であったとしても入れませんから、トラブルも起きにくいですよ」
ガルーダ先生は暗に先日のエルムとの一件を言っているようだ。よく見れば普段よりも更に顔色が悪そうにも見える。結構な心労をかけてしまっているようで申し訳ない気持ちになる。
「いやぁ、実は俺とエルムさんの担任とで話し合いしたんですよ。どうすれば二人がトラブルなく卒業してくれるだろうかーって。
答えはそのときは出なかったんですけど、リルムさんの話を聞いてこれだ、と思いましてね。
研究棟では、国としても重要視している研究が行われていたりもするんですよねぇ。だからセキュリティは万全です。万一盗まれでもしたら厄介ですから」
「あ、でもそうなると研究棟に私は入れないかー…んーそれはそれで面倒なような…」
サーシャは先日の一件以来、リルムの護衛のような立場についてもらっている。
ラスティンからも正式に依頼を出した、とリルムは聞いていた。
そうなると契約的に少々まずいかもしれない。
「あぁ、助手を二名まで指名できますよ。研究員本人の指名と、研究員同様全ての必須授業クリアが必要になってきますが。
でもサーシャさんもほぼ必須は取り終えているでしょう?」
「あ、それなら余裕ですねー。
じゃあリルムちゃんと一緒にさくっと全必須授業とっちゃいましょうかー」
「それがいいと思いますよ。というかそうして下さい。
研究員であれば専用の出入り口がありますから、一般生徒と全く顔を合わせないということも可能です」
研究員の半数は学園を卒業してからも研究を希望した人で占められているらしい。中には長老と呼ばれるくらい長く学園にとどまっている人もいるとか。そういった人達のために研究員専用の出入り口や食堂も用意されているらしい。こもって研究をするには最適な環境が作られている。
「そうと決まれば私の担当する必須授業、全部試験しちゃいましょうか。時間も惜しいですし口頭試問で構わないでしょう」
と、トントン拍子で物事が進んでいった。
それでいいのか、とも思ったがガルーダ先生の口頭試問は割と容赦がなかった。流石に研究員の資格もかかっているとなれば当然のことかもしれない。
ただ、それをリルムはきちんとクリアすることができた。
「ん、素晴らしい。この分であれば他の授業もパス出来るのではないでしょうかね?
こちらとしても早めに研究棟で安全を確保して貰いたいので、授業のない先生を捕まえてひたすら口頭試問を頼むのがいいと思いますよ。渋る先生がいたら私の名前を出して下さっても構わないです」
こうしてガルーダ先生のお墨付きをもらったリルムは、次々に授業中ではない教師を見つけては口頭試問をお願いするという流れになった。
現在はその小休止中だ。
「いやぁ…なんというか、剣の稽古の勝ち抜き戦を思い出しました。
うちの実家でやってる稽古なんですが、ずーっと模擬戦するんですよ。勝てば模擬戦続行、負ければ次の試合まで延々腕立てなんです」
「それは…とても大変そうですね。けど、なんとなく似てるのはわかるかも…」
「このやってもやっても終わらない感じ凄く似てますよねー。
でも、リルムちゃんも流石です。今まで一度も取りこぼしなしですよ。すごいことです」
「あの…ラスティン様にたくさん教えて貰ったので、それで…。
私は全然すごくなんか…」
「んー…謙遜は社交界を生き抜くのに必要なスキルではありますけどー…それが過ぎると舐められちゃいますよー?
実際すごいことなんでもう少し自信に繋げた方がいいかとー」
「…うっ…が、がんばります」
リルムは褒められるということに慣れていない。
ラスティンもシンもことあるごとに褒めてくれるものの、それに対して上手く返事ができていなかったことを思い出す。
「私の想定以上に順調に教師斬りできてますから、今日はラスティンくんにもそれ報告してたくさん褒めて貰うといいですよー」
「え、えぇ? でも…」
「ふむー?
小分けにしないなら、必須単位全部斬ってから盛大に褒めて貰います?
でもー、今日何があったかーとかお話しますよねぇ?」
「それは、はい」
「じゃあやっぱり報告して褒められ慣れしないとですよー。
今日中に何人斬れるか楽しみですね」
「目的が変わってきてませんか!?」
この後、何度か休憩を挟みながらも教師を訪ね、口頭試問をお願いして回った。
意外にもガルーダ先生の名前は教師達の間で効くらしく、彼の名前を出すと口頭試問をしぶっていた教師も渋々ながら了解してくれた。
結局その日は必須授業のほぼ半数を口頭試問でもクリアすることができた。
その報告をしたところ、リルムはラスティンに大層褒められ甘やかされることとなる。
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