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煙草の煙に誘われて。  作者: 梅屋さくら
第五章 恋ってなんだろう。
31/40

**5-3 思わず伸びた手、思わず帯びた熱。

 告白をしたあの日から、なぎみやことの距離感をわからずにいた。

 以前りのに告白されたときと同じように笑顔が引きつって仕方がなかった。

 そんな梛をよそに都はいつもと同じようにクラスメイトと話していた。

 都がいつも通りすぎて……彼はあの日のことが夢だったのではないかと思った。


 放課後、梛は歩いているだけだというのにほおを赤く染めていた。

 なぜならりのとほのの家は二人の家よりも少し前にあり、都と二人きりという状況になったからだった。

 いつも通り、いつも通り……と心がければ心がけるほど、“いつも通り”がわからなくなっていき、どうにも上手く話せない。


「梛?」


 いつも通りすぎる都に、梛は視線を移した。


「なんで。なんで、そんないつも通りなの?」

「……なんでって言われても……いつも通りに見えてる?」


 都が問い返した意味に気が付かぬまま、梛は首を縦にこくんと振った。

 即答されて“うーん”とうなった都の気持ちは、梛には到底とうていわからないほど複雑だった。

 横顔からもわかるくらい口をとがらせた都はうつむいたまま言った。


「ぜんぜんいつも通りなんかじゃないよ。本当はすごく……緊張してる」


 相変わらず顔は上げないままちらりと梛の瞳を見た。

 そのときに見えた都の顔……いや、耳まで真っ赤だった。

 いつもよりうるんでいるように見える瞳を見て、梛の心臓はどきりと跳ね上がった。

 無意識的に彼の手は都の頬に伸びていく……。


如月きさらぎ! この間借りたゲームなんだけど……」


 梛のランドセルにタックルしてきたのはクラスメイトの田中たなかだ。

 慌てて伸ばしかけた手を引っ込めた梛、そしていまだ赤い顔の都にじっと見つめられた田中はなにかを察した。


「もしやお邪魔でしたか……?」


 じりじりと後ずさりする田中を梛は引き止める。


「大丈夫。大丈夫だから! それで、ゲームは?」

「そうそう、ゲーム返すの明日の放課後で良い? 如月の家行く」

「良いよ。ねえ、あのダンジョンのあのモンスターがさ……」


 梛が珍しくクラスメイトの男子とゲームの話で盛り上がっている間。

 横では都がさらに赤くなっていた。

 体の中心から熱がじわりじわりと広がり、今は体全体が熱を帯びている。

 田中が梛に話しかける前、都は周りの景色が見えなくなっていたし、音が聞こえなくなっていた。

 ついさっき起きたことを思い出せば思い出すほど体が燃えるように熱くなっていく自分に気が付き、また熱くなる……その繰り返しだ。


「じゃあまた明日な!」

「うん、ばいばい」


 田中は手を振り走って帰って行った。

 また二人きりになったが、結局今まで以上に気まずくなったまま梛の家に着いてしまった。


「ばいばい」


 小さい声でつぶやいたように言い、目も合わせぬまま別れた。

 梛の後ろ姿をじっと見つめていた都だったが、彼の背中がドアの奥に隠れてしまってからようやく再び歩き出した。

 一人で歩く距離は本当に短いものだったが、この日はなんだか長く感じた。


 翌日、都と梛は下駄箱げたばこでたまたま会った。

 いつも通り“おはよう”とだけ言って、それからなにも話さないまま教室に向かった。


 ガラガラ……今にも外れてしまいそうな木の扉を横に引く。

 するとクラス中の視線が二人に集中した。

 なにも言わずただにやにやする者、もしくはまったく反応を示さない者が半数以上をめていたが、“ヒューヒュー”と言ったり口笛を吹く者も数人いた。

 その数人は主にお調子者の男子だが。

 二人を包むクラスの異様な空気に戸惑っていると、りのとほのが駆け寄って来た。


「あのね、二人のこと……うわさになっちゃってるの」


 ほのがそう言う間にも、後ろではりのが男子たちに向かって“やめなよ!”と声を張り上げている。

 どうやら“二人が付き合っていること”がクラス中に広まり、それを聞いた一部のクラスメイトが“からかってやろう”と言ったようだ。


「うるさい! 黙って……」


 なお声を張り上げ注意するりのの肩を都が叩く。


「ありがとう、でも私たちは大丈夫だよ!」

「でもみんなの前でからかうなんて……」

「時間が経てばみんな忘れてこういうこともなくなるでしょ! 放っておこう」


 にっこりと笑う都を見て、りのとほのは顔を顔を見合わせる。

 “本人みやこがそう言うなら……”と言って、二人は都の机の周りを囲んだ。

 周りのを無視して話し始める都を見てつまらないと思ったのか、自然とからかう声は消えていった。


 梛はなんともないような顔をして冷静に対応した都の背中を見ていた。

 初めからかう声を聞いたとき、梛は頭が真っ白になった。

 都にとっても迷惑だろうけど、どうやって言い返したら良いかもわからない。

 ただひたすらどうしようと悩んでいる間に都が行動していた。

 そしてあっという間に静めてしまった。


「……ありがとう」


 都の席の横を通ったときに小さな声で言った言葉は、周りの喧騒けんそうき消されてしまって彼女には届かなかったようだった。


 なにも出来なかった自分が不甲斐なくて。

 結局都に任せっきりにしてしまったことが申し訳なくて仕方なかった。

 誤字脱字、疑問点などありましたら、感想欄またはメッセージにてお願いいたします。

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