王太子視点 1
顰めっ面を作ったまま、フラフラとした足取りで門の前に停めてあった馬車に乗り込むと、サッとカーテンを引いた。
ニヤける顔を必至で我慢し、笑い出しそうになりながら馬車に乗り込んだのだのだ。
馬車が動き出したのを確認して、フルフルと身体を震わせながら、声を立てないように笑う。
「クッ...」
声を出して爆笑しそうになるのを何とか堪えて、椅子に座り直す。
証拠が詰まった現場は更地
洗脳した本人は死亡済み
正しく完璧
そんなにツェツェリアが気に入らなかったのか...
いや、違うな、ツェツェリアが気に入らないのではなく、私の感心が向いた女性の存在が気に入らなかったんだ。まったく、どう足掻こうと、私の気持ちがマリッサに向くことなどないというに...
あの熱の籠って目は恋慕
気遣う言葉や行動は尊敬や敬愛などではなく執着
ここで命を奪われるには惜しい頭脳だと、ただ、使えるかも?と拾った駒だったが、予想外の動きをしでかして、手におえなくなり処分しただけ。
嬉しい誤算は、全ての罪を引き受けて消えてくれたことだ。
ニヤニヤが止まらない口元を、誰も居ない馬車の中で、誰に見られているでもないが、右手で隠し喜びを噛み締めた。
馬車が止まると、城内に用意された自室へ足早に向かい、急いでドアの鍵をかける。人に声の聞こえぬ奥の寝室へ駆け込むように入り、念の為に鍵を閉める。
「グ、グハハハ」
我慢していたものを吐き出すように、ひとしきり腹を抱えて笑う。笑い過ぎて腹が痛い。
「はあはあはあ」
息切れしたまま、身体をベッドに投げ出した。
後は叔父様だな。欲を掻かないように、少しばかり忙しくしてもらえばいい。
取り敢えず、公爵にでもして、家族をバラバラにしよう。差し詰め、息子は留学させ、娘は外国へ嫁がせよう。なあに、もう直ぐローランド公女を迎えに豪華絢爛に設えた使節団が来る。これから、4日間ローランド公女を主役とした夜会や茶会、ガーデンパーティーにパレードが繰り広げられる。若い女性なら羨ましがるだろ。説得するのは容易だ。
息子も、外国の楽しさを目の当たりにすれば、父親からの圧力からの解放も相まって、留学に飛びつく事だろう。まあ、向こうで至らぬ遊びを覚えなければ良いが...
太陽とスコッチの国、バランがいいな!カジノにオープンバル、大道芸人達が広場に陣取り、娼館や奴隷館が街のあちらこちら点在している。一番の目玉は闘技場だ。奴隷達が猛獣と闘ったり、奴隷同士闘ったり、お金を賭けて楽しむ。大負けしその場で払えなきゃ、身ぐるみ剥がされて、それでも無理なら、出場する側に回るのだが。
叔母様には若いツバメでも当てがい、田舎の別荘にでも引っ込んで貰えばよい。
差し詰め、才能のない売れない画家、若い吟遊詩人辺りで探すか...。
誘惑しろなんて言わない。
ただ、出会いの場を用意して、彼らにチャンスを作ってやればよい。彼らにとって、叔母様など良いカモだ。
広場には裕福なマダムを食い物にする、見目の良い若者が沢山いる。
素性を確かめて、良さげなのがいたら、洗礼され雰囲気に飾りたてて、叔母様のご機嫌伺いに連れて行くか...ついでに南のバルカンダにある別荘をプレゼントしよう。あそこは年中過ごしやすくて、ワインやフルーツも美味しい。夏は暑く、冬は極寒の王都に帰って来るのが辛くなるだろ。
「ははははは、サイコーじゃないか!」
王太子は高揚した気持ちのまま筆を取った。




