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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第九章】アリエスサイン

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第90話 正体

ラウラ視点です。

「今のはなんだべさ? すんげー速さで黒いつぶてが飛んでいったべな。ノエル、念のために防御魔法を一式かけるべ!」


 こくりと頷き、ノエルが杖を掲げるとラウラの体が淡い光に包まれた。彼の強化魔法が展開する。

 その最中さなかにも再度の射撃、無音の弾丸が戦地を駆け抜け、人魔じんまを問わず無差別に殺傷していく。彼らは自分がなぜ死んだのかも分からず、糸が切れたように倒れていく。その姿を目の当たりにするラウラは唇を噛んだ。

 

 ――敵に操られているとはいえ、このままではユウが大量に人をあやめてしまう!


 焦燥に駆られていても彼女の決断は冷静だった。


「イザヤ殿、状況が変わりました! 一時塹壕に退避します!」


「こりゃ訳アリそうだべな、塹壕まで走るぞノエル!」


 混迷する戦地に背を向けて三人は塹壕に向かって走り出す。

 

「イザヤ殿! 絶対にあのつぶてを撃ち落とそうとしないでください! 魔弾に触れた部分が消し跳びます!」


 ラウラは並走するイザヤに向かって叫んだ。


「それならどうしろっていうんだべか?」


「とにかく塹壕に退避を! その後で考えます!」




 ラウラたちが塹壕に飛び込んだ後も魔弾の射出は続いた。時間の経過と共に増えていく犠牲者、一刻も早く止めなければ騎士団が全滅する。しかしユウの魔弾を防ぐ術はない。

 加えてユウは《金牛宮》を倒して以来、無詠唱で加護を魔弾に付与できるようになった。それはつまり次弾を装填するまでのタイムラグが短く、連射できることを意味している。

 

 焦りを募らせるラウラにノエルが問う。


「あの魔法について……、君はなにを知っている?」


 小首を傾げるノエルにラウラは答えた。


「あれは《白き死神》の特殊な魔法です。精霊アニマの加護でコーティングされたあの魔法のつぶては、防御不可能であらゆる物を貫き進み続けます」


「……魔法障壁マジックシールドも?」


「はい、シールドの効果が加護に相殺されて空いた穴から魔弾が突き刺さります」


「そりゃ難儀だべな、攻略法はないべか?」


「防ぐという意味では方法はありません。アルト、聞こえるか? 応答してくれ」


『どうしようラウラ! ユウも術に掛かっちゃっているかもしれない!』


「やはりそうか……、こちらでも把握している。アルト、この幻惑魔法を解くにはどうすればいい?」


『幻惑魔法を強制的に解除するには強いショックを与えることよ! 肉体的なダメージで目覚めることもあるけど、精神的ダメージの方が効果は高いわ!』


「術者の居場所は?」


『見つけたわ! グリフォンが着陸した場所から西の丘、ユウが座っている近くにモヤの塊が見える? 一際濃いからスコープで視えるはずよ』


 フィールドスコープを取り出したラウラは、塹壕から顔を覗かせて右目にスコープを当てた。


 グリフォンが着陸した場所から西の丘――、緩やかな斜面にユウがヘカートを構えて座っている。

 その右斜め後方に、黒い霧の塊が視えた。


 ――あれは術者本体ではなく、魔法の発生源かなにかか?


「ああ、一際濃くなっている部分があるな」


『それが術者の本体よ!』


「なんだと! あんなものどうやって倒せばいいのだ!?」


『袋に入れて閉じ込めるとかは?』


「敵だってあそこにずっと留まっている訳じゃない。ましてや霧だ……。閉じ込めるのは簡単ではないぞ」


「……捕まえるのはボクに任せて」


 そう告げたのはノエルだ。

 アルトとの無線交信を隣で聞いていたノエルがラウラを見つめる。


「なにか考えがあるのですか?」


「結界魔法で閉じ込めてみる。気体でも閉じ込められる結界を張る。でも、射程まで近づかなくてはいけない。だから《白き死神》と術者の注意を引いてほしい。できれば彼の動きを止めて」


「分かりました。私が囮になって注意を引きつつユウの攻撃を止めてみます」


 うなずいたノエルはイザヤに顔を向けた。


「イザヤはここで魔物と戦ってて、ボクは彼女と一緒に術者を倒してくるから」


「おう、ここは任されたべ」


 イザヤはグングニルを肩に担いでニッと笑う。


「承知しました。では行きましょう!」


 塹壕から飛び出したラウラはユウがいる丘に向かって走り出す。

 タイミングを遅らせてノエルが塹壕から飛び出した。彼はラウラとは別方向に向かって迂回するように走り出す。


『と言ってもラウラの嬢ちゃん、おまえさんにはちと荷が重そうだ。どれ、ここはオレが出よう』

 オミは言った。


 はたして都合の良いときだけ彼の能力に頼っていいものか、自分の力で乗り越えなければならない試練ではないか、ラウラは数瞬だけ迷ったがすぐに切り替えた。

 そんな騎士のプライドや誇りなど後ろ足で砂を掛けて唾を吐きかけてしまえ! 今は一刻も早くユウを止めて犠牲者を減らさなければならないのだ! 彼以上にこのミッションを完璧に遂行出来る者はこの世にいない!


「かたじけなく存じます。オミ殿、最善は魔弾を躱しながらユウを気絶させて無力化することです」


『まあ、余裕だな。……だが問題はそこじゃねぇ。オレは嬢ちゃんの体にそこまで慣れてねぇから加減をミスって頭も飛ばしちまうかもしれんぞ』


「ならば両腕を切断してもかまいません。ヘカートを持てなければ魔弾は撃てませんので」


『いいのか?』


「後で知人につないでもらいます」


『分かった。んじゃ、交代だな』


「はい」


 ラウラの意識が魂魄こんぱくの深層に沈んでいき、代わりにオミ・ミズチが表層に現れる。体の支配権が移るとラウラの体は加速した。



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