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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第九章】アリエスサイン

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第89話 混沌

ラウラ視点です。

 ラウラは乱戦の真っ只中にいた。

 オミ・ミズチから教わった剣技で次々と魔物をほふっていく。

 

 砦に足を踏み入れる前から、すでに異変に気付いていた。


 遠目からでもはっきりと分かった。砦の中にいる者たちが味方同士で殺し合っているのだ。

 それは騎士団だけでなく、魔王軍の魔物たちも同じだった。


 異様としかいえない光景に飛び込んでいったラウラに襲い掛かかってきたのは、魔物ではなく帝国の騎士だった。


 虚ろな眼をした騎士の攻撃を躱したラウラは刀の峰を頭部に打ち込んで彼を気絶させた。

 

 それからも襲い掛かかってくる騎士たちを気絶させながら進み、ラウラは剛剣で魔物たちを薙ぎ払っていく。


 峰打ちと剛剣、緩急を付けた斬撃を繰り返す作業は、剣技《朧月夜》と良く似ている。達人の域にある芸当を苦も無くやってのけるラウラに、かの三英雄《極刀》をして唸らせるほどだった。

 

『やっぱオレ様が見込んだとおり筋がいいぜ。ラウラの嬢ちゃんは、この調子ならもっと強くなれるぞ』


「いえ、これも師匠のおかげです」


『師匠か……そう呼ばれるのも悪くねぇ。そいうやオレは弟子を取ったことがなかったな』


「オミ殿ほどの御方がですか?」


『ああ、ガラじゃねぇって思ってたからな。つーことは、おまえさんがオレ様の記念すべき弟子一号だ』


「光栄です」


 令嬢として何不自由なく育てられ、舞踊も剣術もそつなくこなしてきたラウラだったが、どの教師に褒められたときよりも、今日のこの一言が一番嬉しく思えた。


『しかしこいつらからはまるで〝意思〟が感じられねぇな。一体どうなっちまってんだ?』


「やはりオミ殿もそうお思いですか……」


 そもそも味方同士で殺し合っているこの異常な状況には原因があるはず。

 魔法によるものと考えるのが自然だ。それならどこかに潜んでいる術者を倒しさえすれば、この戦いを終わらせることができる。

 

『ラウラ、聞こえる?』


 淀みなく動き続けるラウラをアルトが無線で呼び出した。


「アルト、どうした?」


『さっきは気が付かなかったけど、砦全体を灰色の靄みたいなのが包んでるの』


「もや?」


『これって、たぶん幻惑魔法の一種だと思う』


「やはりか、その影響で敵味方関係なく襲い掛かっているというのだな。しかし魔物までもが魔法の影響を受けているとは……、術者の狙いは一体なんだ? これでは互いに消耗して共倒れではないか?」


 いや、待て……違う。戦力差では圧倒的にこちらが優位だった。たとえ共倒れだとしても帝国騎士団と聖都騎士団を全滅させることができたなら、結果的にそれは魔王軍の勝利だ。



『それは分からないわ。けれど相当強い魔導士で間違いない。これだけ広範囲で強力な催眠効果がある魔法なんて見たことないもん』


「アルト、術者を空から探すことはできるか?」


 このままでは人界の双璧と呼ばれる両騎士団を一気に失うことになる。一刻も早く術を解かなくてならない。


『なんとも言えないけど、やってみるわ!』


「頼んだぞ」


 ――しかし、なぜ私は幻惑魔法の影響を受けていないのだ?


『それは胆力の差だな』

 ラウラの疑問に答えたのはオミ・ミズチだった。


「胆力?」


『簡単に説明すると一定のレベル以上のヤツなら影響を跳ね退けられるってことだ。見てみろよ、あいつらだって平気じゃねぇか』


 砦の中心付近ではイザヤ・ブレイガルとノエル・ロメロスが戦っている。

 ふたりの息の合った流れるようなコンビネーションは、戦闘中にも関わらず思わず惚れ惚れとしてしまうほど美しく、フォレスタ伯が書いた戯曲やグラスゴーの絵画のように完成されている。

 自分のレベルが上がっているからこそ分かる。イザヤ・ブレイガルは、はるか高みにいる。


 この状況について彼に意見を仰ぐべきだ。ラウラは騎士たちの攻撃を躱しながらイザヤの元へ急いだ。


「イザヤ殿!」


「おお、やっと来たべか!」


「この状況をどうお考えですか?」


 グングニルで魔物を貫きながら、イザヤは肩をすくめてみせた。


「だいたい見当がつくべ、なあノエル」


「魔法、幻惑……そのせい」


「ノエル、術者がどこに潜んでいるかは分かるべか?」


「……分からない。ここにはいない。索敵範囲外……」


「ノエルの索敵範囲の外からこれだけの効果を出せるなんて、ゾディアックに間違いねぇべな」


「私の仲間が術者を空から探してくれています」

 

 ラウラは魔物を斬り裂きながら言った。


「よっしゃ、それならオラたちが魔物を全滅させるのが先か妖精娘が術者を見つけるのが先か、競争だべな」


 しかし我々が魔物を全滅させても、騎士たちの術を解かなければ意味はない。

 この戦いの勝敗はアルトの働きに掛かっている。


 周囲の魔物を一掃したラウラが新たな混沌へと足を踏み出したそのときだった。

 

 一発の〝銃弾〟が戦地を貫いて遥か彼方に消えた。


 軌道上にいた魔物、そして騎士たちが倒れていく。彼らの頭や胸には弾丸が通過した穴が空いていた。


「なんだとッ!?」


 信じがたい光景に戦慄が走る。


 ――これはユウの魔弾! どうして!? そんなバカな! ユウが騎士たちを犠牲にするはずがない! まさかユウまでもが!?




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