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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第九章】アリエスサイン

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第86話 空輸

 準勇者とは、簡単に説明すると勇者が死んだときの次の勇者候補のことだ。


 準勇者になれるのは最大で四人と決まっている。

 四人必ずいなければいけない訳ではなく、実力が伴わなければ二人のときもあるし一人も選ばれないときもある。


 何を以って準勇者とするのか、その基準については、単純な強さに加えて将来性や若さが重視される。


 それから仮に準勇者の席が四つ埋まっているからといって勇者に選ばれないことはない。準勇者に決闘で勝って力を示せば誰でも勇者になれるそうだ。



 現在、教会に認定されている準勇者は三名。


 器のランドフォース(死亡)

 意思のブレイガル(存命)

 力のローゼズ(不明)


 二つ名以外にも三者三葉で例えられる彼らのなかで、最も次の勇者として相応しいと云われているのが、《無銘》イザヤ・ブレイガルである。


《無銘》という称号は本人が称号授与を拒否したから暫定的に教会が付けたそうだ。

 

 イザヤのパーティは元々五人組だった。しかし魔境から戻ってきたときには二人だけになってしまっていた。

 



「え? アイザムで待てだって?」


 受付ちゃんが慌ててやって来たから、すぐに出立しろってことなのだろうと思っていたら、イザヤたちを待つようにと告げられる。


 我々と《極刀》は合流してからコウレス平原へ向かう――、これはイザヤ・ブレイガルの仲間である《万里》ノエル・ロメロスの使い魔から受けた指示だそうだ。


 僕らよりも先に魔王軍襲来の情報を掴み、行動していたイザヤは明日の昼にはアイザムに到着するとのこと。

 

 ノエルの使い魔のおかげで彼らと連絡が取れたのは助かったけど、コウレス平原までは早馬を要所で乗り換えても二週間は掛かる。


 僕らが到着したときには戦況は大きく変わってしまっているだろう。最悪、騎士団が壊滅してカインが陥落しているかもしれない。

 

 だから僕らだけでも一刻も早く出発したほうがいいと思うのだ。ひょっとして《極刀》だけでは心もとないと準勇者に判断されたのだろうか。



◇◇◇



 次の日の昼前、僕とラウラ、アルトの三人はノエルから指定された場所、パルモケープにあるロタ灯台の下でイザヤたちを待っていた。


 約束の時間に現れたのは、一頭の白馬だった。こちらに向かって駆けてくる白馬は、その背中にふたりの人間を乗せている。


 僕らの存在を認め、手綱から片手を離して手を振ってきた男の額には、話に聞いていた通り十字の切り傷が刻まれていた。


 彼がイザヤ・ブレイガルその人だ。二十四歳の彼の顔には少年っぽさがまだ残っている。


 そしてイザヤの腰に手を回してくっついているのがノエル・ロメロスだ。イザヤの背中からひょっこり顔を出した彼は男性とも女性とも見て取れる中世的な顔立ちをしていた。


 ちなみにノエルの年齢はイザヤと同い年だと聞いている。



 予定通り落ち合った僕らは互いの挨拶を簡単に済ませた。

 イザヤは準勇者だからって威張ったり鼻にかけたりしない竹を割ったようなさっぱりした性格のナイスガイであり、THE・主人公って感じの好感の持てるガイだった。


 僕はきっと彼と仲良くなれるだろう、そう直感する。

 

 十年来の友のような堅く熱い握手を交わす僕とイザヤを、じっと見つめるのは美青年魔導士のノエルだ。

 彼はイザヤのそばから離れようとせず、さっきからイザヤの服の袖を掴んで離れない。


 時折、僕のことを警戒するような視線で見てくるのだ。


 っんん~、おや? おやおや? おやおやあらまあ、まさかお二人はそういう関係なのですかな? うんうん、仲良きことは良きかな良きかな。持ちつ持たれつ突かれて突いてですな。



「さあ、さっそくいくべ!」


 イザヤが声をあげると、ノエルは杖で地面に魔法陣を描き始めた。直径が五メートルほどある大型に分類される魔法陣である。


「……あの、いったい何を?」


「まあ、見てればわかるべ」


 ノエルが描いた魔法陣の模様は迷宮にあった召喚陣と酷似していた。そして彼が魔石の付いた杖の先で魔法陣のふちを軽くポンと叩くと淡い光があふれ出し、バッサッバッサと翼を羽ばたかせてグリフォンが飛び出してきた。

 

「「すごぉッ!?」」


 外が寒いからって僕のローブのポケットに収まっていたアルトが同時に声をあげる。

 でかい。僕がイメージしていたグリフォンよりはるかにでかいじゃないか。こりゃあまるで恐竜だな。


「これって召喚獣ですか? すごいですね、初めて見ましたよ!」


 くぅ~! 召喚獣なんてワクワクが止まらないぜ!


「イザヤ殿、グリフォンで何をなさるおつもりですか?」


 僕らとは反対にラウラは今後の展開を警戒している様子。


「こいつならコウレス平原までヒトっ飛びだべ」


「ま、まさか……」


 動揺を隠せないラウラに、イザヤはニッと笑って言い放った。


「さあ、背中に乗るべな!」





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