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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第九章】アリエスサイン

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第85話 奇襲

 アイザムを訪れた吟遊詩人が歌ううたから、雷帝ライディンが無事に聖都カインに到着したことを知ったのは、つい昨日ことである。



 今頃、パーティを解散した彼らはそれぞれの旅に出ているのだろう。


 グランジスタとゼイダは目的がハッキリしているからいずれ会うかもしれない。ただ、アナスタシアは今生の別れになるだろうと気になることを言っていた。


 やはりライゼンと彼女は恋人同士だったのではないだろうか。じいちゃんの遺体のそばで、二人きりで話していたときの彼女の悲し気な瞳を思い返すと、胸がチクリと痛む。

 

 僕はアナスタシアに「また会いたい」と伝えておくべきだった。


 

 

 今現在、魔王軍の襲来が嘘であったかのように、平和な日々が続いている。

 この静けさが怖いくらいだ。グランジスタが言っていたように、直轄の部下をやられて魔王がこのまま黙っているとは思えない。


 僕はいつでもリタニアス王国に向かえる準備は常に整えている。けれど、ひょっとしたら出番はやってこないかもしれない。

 なぜなら《準勇者》イザヤ・ブレイガルがリタニアスに駐留して魔王軍の侵攻に備えているからだ。彼の強さはグランジスタの折り紙付きである。


 

 それから前回、西方大陸に上陸した《金牛宮》ルファルド率いる魔王軍第一陣が、行き先を東から西へ方向転換したその理由が判明した。


 恒竜族だ。


 彼らはユーリッドに全滅されてはいなかった。僅かだが生き残りが存在していた。そのことにいち早く察知した魔王軍は、竜族との戦闘を避けるために目標を急遽変更したのである。


 

 ついでに先日、アルトが里帰りから帰ってきた。


 しかし戻ってきた彼女は、ずっと暗い顔をしているのでその理由を訊いてみると、インプの里で誰を次の里長にするか跡目争いが起こっているそうだ。


 彼女はげんなりした口調で里の状況を告げた。

 

 インプの里も一枚岩ではないらしく、大きく分けて二つの派閥が存在している。

 ひとつはアルテミスの家系を代表とする一派、そしてもうひとつはカノンちゃんの家系を代表とする一派だ。

 

 妖精に家系なんてあるんだなと思ってそれとなく質問してみると、人族のそれとは意味が少し異なるらしくて説明を聞いても良く分からなかった。

 

 とにかく、アルトとカノンちゃんは跡目争いに巻き込まれて敵対している状態なのだそうだ。ファンタジックな妖精の世界だというのになんとも世知辛い話である。

 

 というかアルトって良家のお嬢様だったのか? ひょっとして姫なのか? ただの放蕩ほうとう娘じゃなかったんだな……。


「また戻ることになるかも」と落ち込むアルトに「元気だせよ」と励まし、憂さ晴らしにクエストにでも行こうぜと彼女を誘い、僕らが部屋を出ようとしたところに、ギルドの受付嬢がビッグニュースを引っ提げて飛び込んできた。



 なあ、良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?

 よし、わかった! それじゃあ良いニュースから聞かせてやろう!


 なんと準勇者《無銘》イザヤ・ブレイガルがアイザムに向かっているという。

 わぁ! 準勇者と会えるなんて嬉しいなぁー(棒読み)!


 んで、なぜ準勇者がアイザムに向かっているのかは、悪いニュースを聞けば分かる。


 なんと魔王軍の軍隊が西方大陸中部のコウレス平原に突如として出現したのだ。ヒャッハー! なんというバッドニュース!!


 ――ふざけている場合ではない。これは非常にまずい状況だ。

 

 コウレス平原から聖都カインは目と鼻の先である。


 カインは枢機教会が治める聖なる都市国家、この世界は枢機教会で成り立っているといっても過言ではない。大きな力、統治する力を持った人類の要である。


 そして、神殿にいる最高神官は精霊神の代行者であり、人々の心の拠り所なのだ。カインが陥落すれば人類に勝ち目はなくなってしまう。


 つまり、いきなり懐に潜り込まれた格好になってしまったのだ。

 


 コウレス平原は聖都カインとアルゼリオン帝国に挟まれており、両国はコウレス平原にそれぞれの騎士団を派兵した。

 両国で示し合わせた訳ではないが、その決断は迅速なものだった。今なら人界の双璧と呼ばれる聖都騎士団と帝国騎士団で、魔王軍を挟み撃ちにできる。

 

 しかし、コウレス平原では予想外なことが起きていた。


 短期決戦で聖都に攻め込んでくると思われた魔王軍は、なぜか平原に留まり、塹壕ざんごうやバリケードを築き、拠点の設営を始めたらしい。


 平原のど真ん中に砦を築いて兵站へいたんはどうするのだろうか、騎士団の動きを察知して前後から攻撃を受けるのはまずいと判断したのだろうか、せっかく敵の虚を突けたというのに、枢機教会の聖地を叩くチャンスだというに……、防御に徹し始めた。

 うーん、魔族の考えていることは良く分からない。


 人間側としては電撃戦を受けずに助かったのだが、に落ちないし、違和感を拭えない。



 現在は魔王軍が突貫工事で設営した砦を両騎士団がとり囲み、睨み合う膠着こうちゃく状態が続いているそうだ。


 さらに聖都から全国各地の冒険者ギルドに対して、ミスリル級以上の冒険者の派遣要請が掛けられている。

 そこでアイザムからは《極刀》が選ばれ、傭兵として派遣させるために、受付嬢が慌ててやってきたのだ。

 

 そして、正にそれが準勇者《無銘》イザヤ・ブレイガルと彼の仲間の魔導士《万里》ノエル・ロメロスがアイザムに向っている理由でもある。





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