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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第八章】勇者の凱旋

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第82話 会談

 アイザム冒険者ギルドの扉を開けると、乱雑に配置された形の異なるテーブルや椅子が目に入る。


 右側の壁にはクエストが張り出され、奥に行くほど難易度が上がっていく。二階へ続く階段の隣にはカウンターがあり、受付嬢がギルドを訪れた人に優しく声を掛ける。


 普段、この場所は冒険者たちがクエストを探したり、報酬を受け取ったり、昼夜を問わず酒を酌み交わしたりするために集う場所だ。


 だが、今はひとつのテーブルを残して誰もいない。

 受付嬢の姿もなく完全に貸し切り状態になっている。


 独占しているのはとあるパーティだ。

 さっきまでパレードの主役だった勇者一行のメンバー、それから僕とラウラである。勇者一行と同じテーブルを囲んでいる


「つまり、なんだ……お前は本当にライゼンの孫なんだな? あー、なんだっけ? 同じだけど違う時空? いや、時空が違うけど同じ? なあ、アナスタシア……俺は何を言ってるんだ?」

 

 グランジスタは眉間にシワを寄せながら隣に座るアナスタシアに助けを求めた。



 僕は僕と雷帝ライディンの関係を説明するため、先を急ぐ彼らにわざわざ時間を作ってもらい、ギルマスには無理を言ってギルドを臨時休業にしてもらった。

 さすがに街中のレストランや喫茶店では人の目があって落ち着いて話すことができない。


 彼らとしてもライゼンの孫を主張する僕の話に興味を持ったようだ。当初の予定を大幅に変更してまで、こうして時間を割いて僕の話に耳を傾けてくれた。



 僕はこっちの世界に来たこれまでの経緯と自分の世界のことを何度か繰り返して説明した。

 彼ら――、特にアナスタシアは興味深げに聞いていたが、僕自身が慌てていたため所々端折はしょってしまったせいか、グランジスタを混乱させてしまったらしい。


「何度聞いてもわからん!」


「平行世界にいるライゼンの孫ということだ。私たちが共に時を過ごしたライゼンとは別の時空軸のライゼンだけど、私たちの知るライゼンとは血縁上の孫にあたると彼は主張している」


 僕が何度も繰り返した内容を、アナスタシアがさらっと簡潔にまとめて説明してくれた。


「だがよ、平行世界なんてそんなものが本当にあるのか? だって精霊神の教えだとこの世界以外に世界は存在しないって……」


「それはヒト族が勝手に作った教え。精霊は平行世界を否定していない、肯定もしていないけど。なによりライゼン自身が『自分は別の世界から来た』と言っていたではないか。そもそも魔境を異世界と定義することだってできる」


「そういえば……た、確かに、出会ったばかりの頃、そんなことを言っていたような……。こいつ、教会に殺されても知らねぇぞって聞き流していた気がする」


「なんでもいいんじゃないのか? どこの世界のライゼンの孫だろうがオレにとってはライゼンの孫だぜ」


 携帯食っぽい獣の骨をバリバリと嚙み砕きながら、ゼイダはそう言ってくれた。




 僕は彼らとの会合が開かれる時間までの間に、勇者ライディンについて僕なりに仮説を立てみた。 

 

 グランジスタはライゼンが十代のころから一緒にいると言っていた。

 僕のように転移してきて若返った可能性もあるけど、ライゼンから僕や僕の親、つまり自分の子供たちの話を彼から聞いたことがないとも言っていた。


 だから彼は僕の知っている祖父ではない可能性がある。

 つまりそれが、さきほどアナスタシアが代弁してくれた平行世界の存在だ。


 おそらく勇者《雷帝》ライディンは僕の世界とは異なる別の平行世界に存在していた禅宮雷禅なのではないか。


 彼は十代のときになんらかの方法、例えば勇者召喚でこの世界にやってきた。そうだとすれば、彼の世界で本来出会うはずの祖母とは出会わないし、当然子供ができないから僕という孫も生まれてこない。


 同時に、僕の世界のじいちゃんが消えた理由がなんとなく理解できた。


 これこそが、アルデラが危惧していた同一人物が同じ世界にいることで発生する影響、つまり〝歪み〟の正体なのではないだろうか。


 ロープを引っ張り合っていたユーリッドと僕のように、その影響は時空を超えて干渉する。


 本来はこの世界に存在しないじいちゃんが、勇者として英雄的な活躍をしたことによって、あらゆる平行世界のロープを引っ張り過ぎてしまった。その歪みを修正するため、なんらかの見えざる手によって平行世界のじいちゃんたちが忽然と消えてしまったのではないか……。



 おそらくユーリッドの祖父、こっちの世界に元々いたじいちゃんも忽然と消えてしまったのではないだろうか。

 

 色とりどりの花で埋め尽くされた荷台で眠る雷帝からすれば、僕は他人に等しい存在だ。彼が生きていたとして、僕と偶然どこかの街で出会ったときに、「実はあなたの孫です」と言われても受け入れることはできないだろう。




 それでも彼が、この世界を守るために戦ってきた雷帝が、僕にとって大切で大好きな祖父であるのは変わらない――、そう告げるとグランジスタの顔から警戒が完全に消えたのだった。



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