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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第七章】機動兵器

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第74話 影

「ああ……、確かにおかしいぜ。ここまで進んで魔物が一匹も出ないし、トラップもねえ……。道だって枝分かれしてはいるが覚えやすくて単調だ。こんな何も起きない迷わない迷宮は俺も初めてだぜ。どうするさね、リーダー」


 バリウスもヤコブと同じ意見のようだ。


 問われたヤコブは首の後ろを掻きながら、


「出るのはもう少しマッピングしてからだ。初日だが財宝のひとつでも持ち帰らねぇとな……ん? ところでイーサンはどうした?」


 後衛の僕に向かってそう言った。


 イーサンは《蛇咬》の魔導士だ。僕とアルペジオの後ろをずっとストーキング……、もとい付いて歩いていた根暗な感じの男である。

 監視するような視線がまとわりついてきて不快だったけど、そう言われてみればいつの間にかその視線は感じなくなっていた。


「おかしいな、僕らの後ろにいたばずなんだけど……」

「あれ? うちも気付かなかった」


「ふざけんなよ! お前らイーサンを置いてきたんじゃねぇだろうな!」


 声を荒げるヤコブにアルペジオが応酬する。


「冗談言わないでよ! こんなチンタラ歩いているのに置き去りにできる訳ないじゃん! そのイーサンって男が、ビビッて逃げ出したんじゃないの?」


「てめえっ! プラチナだからって調子に乗りやがって若造がッ!」


 アルペジオのあおりに切れたヤコブの指先が腰のダガーに触れる。彼女に詰め寄ろうとするヤコブを《蛇咬》の片手剣士が「やめろ」と制止した。

 

 煽り耐性がないというか、どうも演技くさい。

 ダガーを抜く素振りはたぶんハッタリだろう。片手剣士が止めに入るのをヤコブは分かっていたんだ。


 うーん、このパーティはダメかもしれない。一度撤退に激しく同意するね。


 さて、ここで陣形を確認しておこう。


 前衛が索敵とトラップ回避を担当するヤコブとバリウス、敵と遭遇したとき彼らとすぐにスイッチできるように戦士職のふたりが続き、タルドとラウラで左右の警戒、後衛は僕とアルペジオ、そして消えてしまったイーサンだった。


 バックアタックに備えてラウラを殿しんがりに付けようと僕は提案したのだが、イーサンが「自分の背後に立つな」と、もみあげスナイパーみたいなことを言い出しやがった。


 その始末がこれだ。それともアルペジオが言うように怖くなって逃げ出したんじゃないのか?


 あれ……、ていうかもうひとりいなくね? パーティは九人だったはず。ヤコブの後ろに控えていた槍使いのハイドだ。さっきまでいたよな?


「らしくないぞ、ヤコブ。今はイーサンを探すのが優先……あれ? ハイドはどこに行った?」


 ヤコブをなだめていた片手剣士が周囲を見回した。

 

「ハイドならさっきから俺の近くに……あれ? ハイドが……いねえ……?」


 ヤコブは自分の左後方を確認するが、そこには誰もいない。


「やばいねぇ、こいつはよ……。この迷宮、なにかいるっしょ……。消えたヤツらを探すか、撤退して仕切り直すか……。俺は撤退を具申するぜ、だけど消えたのはあんたの仲間だ、判断は任せるぜ……リーダー」 

 

 バリウスが言った。


 ピンチのときこそリーダーの冷静な判断力が求められる。感情を抜きにすれば、この場面では撤退が正解だ。僕らは知覚不能な攻撃を受けている。このままでは全滅する可能性だってある。

 

 もし僕がこの状況で同じ質問をされたら、消えた仲間を置いていけるか、仮にラウラが行方不明になった状態で撤退を宣言できるか、その答えはノーだ。僕にはラウラを見捨てることはできない。甘っちょろい考えだけど、これだけは譲れない。


 たぶんバリウスも同じタイプだと思う。だから撤退を具申しながらも最終判断をヤコブに委ねたのだ。


 それでも、迷宮探索を専門としてきた冒険者の判断は合理的だった。


「ちっ……仕方ねぇ、撤退だ……。一度戻って態勢を整えるぞ」

 

 ヤコブが決断した直後、彼の背後で黒い〝何か〟がぬるりと立ち上がる。


 影だ。ヤコブの影がまるで生きているかのように立ち上がり、今まさに彼を呑み込もうとしている。


「後ろだ!」僕は叫ぶ。


 振り返ったヤコブを影が彼の絶叫と一緒に呑み込んで、消失した。


「ヤコブ!? おい、アレはなんだよ!?」

 

 片手剣士の問いに答えらえる者はいない。

 異変はさらに続く。影が目の前に立ち上がり、


「うわぁぁぁぁぁぁぁッ――」


 片手剣士が闇雲に剣を振るうも刀身は影をすり抜ける。そして彼もまた呑み込まれて消えた。


「タルド! アルペジオ! 極刀! 一か所に固まれ! アルペジオ!《無制限不覚知アンリミテッド・インビジブル》だ! 急げ!!」

 

 バリウスが指示を飛ばすが――、それは一瞬の出来事だった。次々と立ち上がった影にラウラたちが呑み込まれてしまった。


「ラウラ!!」

「バリウス! タルド!」


 残された僕とアルペジオの声が迷宮に響く。



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