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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第七章】機動兵器

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第71話 次代の勇者

 ざわざわ、ざわざわ。


 ここは港町アイザムの冒険者ギルド、羨望と嫉妬が交差する視線を浴びながら僕は歩く。


 おいおい、誰がVRヘッドセット付けながらセク□スする変態野郎だって?


 以下略。



 ――と、まあそんな感じでリタニアスに行っている間に《極刀》は一気に有名人になっていた。


 リタニアスから戻ってきた僕らを商会長やら漁業組合のトップやら冒険者ギルドのギルドマスターたちがラテス運河の橋上で並んでお出迎えしてくれたほどだ。

 特にギルマスは初めて会ったにも関わらず「私は君ならやると思っていたよ!」なんて調子の良いことを言っていた。


 自分が管理するギルドの冒険者が英雄並みの働きをしたということで大喜びだった。


 今回の一件はギルドからの要請を受けた特殊クエストだった訳だが、難易度ランクは指定されていなかった。昇格ポイントが加算されない代わりに報酬が上乗せされる仕組みになっている。しかしながら、極刀は異例の飛び級でシルバーからミスリルに昇格する次第となった。

 

 ミスリルといえば上から二番目のクラス、その上にはもうオリハルコンしかない。


 オリハルコン級になると世界でも両手で数えられるほどしか存在しない。それ以上を目指すとなると準勇者か勇者である。だが、これは教会から与えられる称号のため実質オリハルコンが冒険者にとっての到達点となり、頭打ちとなる。

 もっとも教会から称号なんて受けたくもない。超いらない。

 

 

「あっ! ユウさーん、ラウラさーん! こっちなのです!」


 冒険者からの注目を集めていた僕らを見つけて手を振ったのは、バベルの門で禁書番として働いているミレア・ワイズである。


 相変わらずのたわわなおっぱいだ。

 ありがたや……。


 僕は無事に帰って来られた感謝を込めてミレアの胸に手を合わせた。


「お疲れ様でした! お二人ともご無事でなによりなのです!」


 ミレアと再会できたのはアイザムに戻ってきて五日経ってからだ。


 その間はずっとギルマスやら各組合のお偉いさん方々からのお誘いを受けて半強制的に宴会に参加するハメになってしまった。


 有名人も楽じゃないが、ただで呑める酒ほど旨いものはない。


 やっと落ち着いてきたので、無事に帰ってきたら祝勝会をやろうと約束していたミレアとギルドで待ち合わせしていた。

 

 アルトはどこにいるのかというと、インプの里に帰省中である。なんだかんだ言って彼女は里が恋しいようだ。冒険者の武勇伝をカノンに聞かせるだと息巻いていた。


 

 むさ苦しいギルドから魚貝亭に移動した僕らは、久しぶりの新鮮な魚介料理に舌鼓を打った。

 乾杯も早々に、真理の探究者であるミレアから魔王軍について質問攻めに合う。


 特に謎のベールに包まれたゾディアックの話題になると、青い瞳を輝かせてがぶりよりだった。


 彼女の反応から人族にとって魔境は未知の世界であり、その世界からやってきた魔人も等しく未知な存在なんだろうな、そんな風に思っていたら以外にもミレアの両親の世代以前は、魔人族との小競り合いが絶えなかったそうだ。


 西方大陸や東方大陸に攻め入られることは頻繁にあったらしい。その都度、歴代の勇者たちが必死で戦って追い払い、雷帝が勇者になってからの二十数年は、どちらの大陸にも一度たりとも魔人族の侵攻を許していなかった。


 西方大陸の国々が魔王軍の後手に回ったのも、雷帝が強すぎたため魔人族と戦う機会を失ったことも要因のひとつだ。


 兎にも角にも雷帝ライディンは、この世界でその名を知らない者はいないほど轟いている。

 歴代勇者で三本の指に入るという者もいれば、いやいや、雷帝こそが歴代最強だという者もいる。


 彼よりも有名な者がいるとしたら、それは魔神ヴァルヴォルグを倒した伝説の三人、いにしえの時代の英雄たち、その二つ名が語り継がれて今も残る《極刀》、《弦槍》、《鳴弓》の三英雄だけだ。


 それだけに雷帝が殺されたというニュースが、人々に与えたショックは計り知れないものがあったはずだ。 

 精神的支柱を失った今、民衆は新たなヒーローを求めている。


 それが次代の勇者の存在である。

 ランドフォースが死亡して残りふたりとなった準勇者とゾディアックを退けた《極刀》だ。


「ところで新しい耳と腕の調子はどうですか?」


「いやぁ、このハイエルフの耳は本当に役に立つよマジで。だけど腕の方は全然だね、以前と変わらないよ。いや、腕としてちゃんと機能しているんだからありがたいけどさ」


「そうですか……。やはり魔神ヴァルヴォルグの腕だという話はガセだったのですね……、残念なのですね」


 ふぅ、とミレアは息をついた。


「え……ちょっと待ってくれ、ミレアは腕が偽物だって疑ってたってこと??」


 びくりとミレアの肩とおっぱい様が跳ね上がる。


「そ、そういえばユウさん! 新たに発見された迷宮の探索メンバーに選ばれたんですか? 噂になっていますよ!」


 急激な話題転換に違和感を覚えつつも、僕は胡乱気な眼でミレアの胸を注視する。


「……ああ、その話か。ホントだよ、ギルマスから直接依頼されてね」


「胸を見ながら話すのはやめてください!」

「いや、僕はおっぱいに話しかけただけだし」

「もっと失礼なのです!」


 うん、ダメだ。これ以上ふざけるとラウラが切れる……。ほら、もう眼が怖い。仮面の下に隠れた眼が僕を睨んでいる。刀が鞘の中でカタカタ鳴っている。



 さて、脱線した話題を元に戻そう。

 実は先日、アイザムの東で未踏の迷宮が発見された。〝未踏〟であるが今まで発見されなかった訳ではない。


 新しく見つかったのではなく、新しく誕生したのだ。

 その話を酒場でネフから聞いたとき、僕はこの世界において迷宮とは『元からそこにある物』ではなく、バブーと『生まれてくる物』であることを知った。


 新たに誕生した迷宮はその土地を所有する者に権利が与えられる。

 迷宮には金銀財宝が眠っている可能性が高く、放っておけば財宝を狙ってならず者が集まってくる。


 だから土地の所有者は、迷宮の管理を冒険者ギルドに依頼することが多い。迷宮をならず者から守り、探索して財宝を持ち帰ってもらうためだ。


 持ち帰った財宝の分け前は交渉次第だが、大抵は四(所有者)・三 (ギルド)・三(冒険者)の割合だ。

 ギルドと冒険者の合計取り分が所有者よりも大きいのは、それだけ迷宮探索の管理が難しくリスクも高いからだ。


 しかしリスクが大きければリターンも大きい。

 

 実労働者である冒険者の割合が低いように思われるが、価値のある財宝を持ち帰れば例え三割でも莫大な富を得ることができる。それに煩雑な調整事や細々とした物資の調達を行うのはギルドだ。



 高ランク冒険者と冒険者ギルドが結託して所有者に吹っ掛ければ、ニ・四・四にすることもできるそうだが、所有者の反感を買ってしまうとギルドに所属しない安価な冒険者を雇うこともあるので、あまり強気に出ることはない。


 もっとも雇ったフリーの冒険者たちが財宝を持って逃げてしまうこともあるので、ほとんどの迷宮所有者はリスクの少ない冒険者ギルドに依頼を出すことになる。


 そんなこんなでアイザム冒険者ギルドの第一次探索隊のメンバーとして、極刀が選抜されたのだった。



「なんだか、どんどんすごい人になっちゃいますね」


「成り行きだけどね。しかし、こっちに戻ってきて思ったんだけどアイザムの人たちは呑気というかさぁ、緊張感がなさ過ぎてゾディアックと戦ったのが嘘みたいに思えるよ。魔王軍が攻めてくるって知ったときは街中がパニックだったのに」


「この街の人たちは実際に魔王軍を見てないですし、戦ってもいないから現実味がないのですよ」


 ミレアはアイザムの人たちを擁護しているけど、僕はゲップに似た溜め息を吐いた。


「とは言ってもさぁ、魔王軍との戦争中にも関わらず迷宮探索の依頼があること事態がねぇ……なんかさ、こんなことしてる場合じゃないと思っちゃうんだよね」


「確かにそうかもしれませんが、結果的に迷宮探索で冒険者がレベルアップすれば戦力アップに繋がるのですよ」


「まあ、そうかもしれない……かな?」


 あっさり懐柔かいじゅうされる僕にミレアは微笑んだ。


「気を付けてくださいね、探索隊第一陣の生還率は五割だそうなのです」


「明日の朝に潜る予定なのにビビらせないでくれよ」


「ゾディアックに勝った《極刀》なら心配いりませんね。迷宮探索のお土産話しを楽しみにしていますなのです」


 ミレアに上手く話をまとめられたとき、追加で注文していた料理と酒が運ばれてきた。



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