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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第六章】リタニアス戦役

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第68話 完全勝利

『三時の方向に移動を始めたわよ』


「了解」


 報告を受ける、弾丸を込める、撃つ、僕はこの一連の行程を何度も繰り返した。


 上空で爆ぜて拡散した魔弾一発の威力はたいして強くない。致命傷を与えるのは難しい。だから数を撃たなければならない。なんとしても騎士団が向かうまで足止めしなければならない。


 跳ね橋門が開き、中から騎兵隊が飛び出してきた。彼らは声をあげて己を奮い立たせ、草原を掛けていく。その後を歩兵が走って追う。


 巻き上がる土埃りの中に消えていく騎士団の姿が次第に霞みはじめる。もう何発撃ったか数えるのが面倒くさくなるほど魔弾を撃ち続けた僕は、ついに魔力枯渇で意識を失った。



◇◇◇



 柔らかい。みずみずしくて張りがある。

 目が覚めたとき、僕はベッドの上でラウラに膝枕されていた。


 ああ、なんてスベスベでうるおいのある肌をした太モモなんだ……。思わず顔をうずめて、くんかくんかしたくなる。


「どうした? 辛いのか?」


 もぞもぞする僕をラウラが心配そうに見つめている。

 寝返りを打った僕は、本能に従うまま彼女の腹部に顔をうずめた。


「辛い……こんなことをされたらムラムラして辛い」


「なっ……!? 今は、その……ダメだ……」

 ラウラの顔が真っ赤になる。

 

「どうして?」

「汗臭いからだ」

「私は一向に構わない」


「まったく……」


 彼女は呆れ顔だ。でも本気で嫌がってはいない。


「どれくらい寝ていた?」

「倒れてから三時間くらいだ」


「そうか、うまくいったのか?」


「ああ、敵は殲滅した。これでしばらくは迂闊うかつに攻めてこられないはず、そうでなくては困る」


「アルトのヤツは? あいつにも礼を言わないとな」


「それならもう済ませた。お小遣いをあげたから今頃はマーケットで買い食いでもしているのだろう」


「そうか……」


「アルトもユウのことを心配していたぞ。なかなかお前のそばを離れようとしなかった。愛されているな」


「アルトは僕のことが大好きだからな」


「思わせぶりな態度は控えた方がいいぞ」

 

 ムスッと拗ねるラウラさん。


「嫉妬してるのか?」


「ユウのことだ。妖精にも手を出しかねないと思っている」


 信用薄いな……。

 出さないと断言できないのが情けない話である。実際、日本に戻ったときはヤバかった。

 だってアルトがその辺にいるJKと同じサイズになっていたのだ。しかもアルトは神秘性のある美少女だ。そんな子と一つ部屋の下で一晩過ごしたらどうなってしまうかは想像に難くない。もちろん手は出さなかったが、あいつは面白がってちょいちょい誘惑してくるから始末が悪い。


 あの夜を耐えぬいたことを褒めてほしい。



◇◇◇



 魔王軍に勝利した夜は王都の至る所で宴が開かれた。街中がどんちゃん騒ぎのお祭り騒ぎである。

 大将を討ち取った活躍で一躍時の人となった《極刀》の僕とラウラ、アルトは連合軍の兵士やら冒険者やら街の人やらに引っ張り回されながら彼らと酒を酌み交わし、宴会は朝まで続いた。



 翌日、二日酔いで死んでいる僕のところに、リタニアス王室からの使者がやってきたのは、正午すぎだった。


 今回の功績を称えて国から勲章が授与されることになったそうだ。王様も新たな英雄である《極刀》のテッドとローラ、妖精のアルテミスに会いたがっているとのこと。

 

 名誉なことであり断る理由はない。だけど僕は国王に拝謁はいえつする上で、ひとつだけ条件を出した。


〝王の御前でもローラの仮面は外さない〟

 

 使者がそれを了承すると、僕らはそのまま迎えにきていた馬車に乗って城内入りして謁見の間へと通される。


 スムーズなエスコートから察するに、僕らの都合関係なしに授与されることは決まっていたようだ。さすがは王室、庶民には栄誉なんだから断る訳ないっしょーって上から目線が半端ない。もし断ったら不敬罪になっていたかもしれない。

 しかし、昨日の今日で随分性急な話だ。僕らがすぐに帰ると思ったのかな?



 豪華絢爛ごうかけんらんな謁見の間は天井がバカ高くて、バカでかい柱が左右に並び、真紅の絨毯が玉座まで続いている。


 室内に足を踏み入れると同時に生演奏が始まり、荘厳な曲に合わせて僕らは王の御前へと移動していく。


 玉座から見て左に居並ぶのが王族と貴族、右側はクロイツ共和国の要人と教会関係者のようだ。みんな正装でビシッと決めている。レッドカーペットを歩く僕らは、いつもの冒険者スタイルだ。


 いやいや、場違い感が半端ないんですけど……、こんな盛大な授与式なら最初に言ってくれよ……。さくってもらってさくっと帰るつもりだったのに。まあ、堅苦しいドレスを着るよりはいいけどさ。

 

 よく見てみると大聖堂の大神官がいた。王都の教会トップなんだから当然か。

 ヤツは僕の顔を見た瞬間、「ひぃっ!!」と悲鳴を挙げた。あいつには後でたっぷりお礼参りをしてやろう。大神官を横目で見ながらニヤリと僕が笑うとヤツの顔が青ざめていく。


 そして、玉座に座る王様の隣には王妃様が座っている。うーん、お美しい。そしてオッパイがとっても大きい。高貴なおっぱい様だ。王妃の脇に見眼麗しい王女が控えていた。

 たぶん、彼女がフィオナ王女なのだろう。



 礼儀作法なんて分からない。ラウラの動きをチラ見しながら合わせて動く。

 アルトのヤツは「そんなの関係ねぇ!」って態度で宙をふわふわと漂っている。なんともびない女子である。

 アルトさんマジ尊敬っスわ!!


此度こたびは大儀であった」


 王様から有り難いお言葉をたまわる。

 いえいえ、王の役、民の役に立てて光栄です、うんたらかんたらどうたらかんたら――、という堅苦しいやり取りを経た後に、大臣から勲章が授与されて謁見は終了した。


 僕と王様が社交辞令している間、じっとこちらを見つめていた王女は、なにやら口を小さくパクパクと動かしてた。


 片膝を付けるラウラがこくりと頷くと王女は口許くちもとを震わせ、手を当てた。涙が頬を伝い落ち、静かに泣いていた。



 王女は仮面を付けていてもローラがラウラだと気付き、彼女たちにしか分からない秘密の言葉で語り掛け、その問いにラウラが応えたのだ。

 

 ラウラの肩も微かに震えていた。押し殺すような嗚咽が聞こえてくる。



 そんな彼女の姿に、僕の目頭と胸は熱くなるのだった。



 まったく、中年になると涙もろくなるぜ……。







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