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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第六章】リタニアス戦役

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第67話 着弾観測

「魔弾を魔法反射の加護でコーティングすればよくね?」というアイデアを思いついた僕だったが、完成に至るまでの道のりは、決して容易なものではなかった。



 異端審問官と戦ったときに痛い目を見た経験から、ミレアに師事を仰ぎ、光の精霊アニマに祈りを捧げる日々が続いたのだが、一向にアニマは応えたくれなかったのである。


 結果的には試行錯誤の末、問題は解決する。


 その原因はどうやら僕のがまだまだ高かったらしい。

 スタイルを変更して土下座で祈りを捧げ始めてからは、ささやかながら応えてくれるようになった。


 日に三度、しっかりと額を地べたに擦り付け祈りを捧げて、やっと弾丸を加護で包めるようになり、こうして対象にヒットしても消失(転移)せずに進み続ける防御不可能な魔弾ダークバレットが完成した。


 加護の効果は調子が良いときは30秒も持続する。この辺は精霊様の気分次第なので安定しないのが難点ではあるが、加護の効果が切れない限り魔弾はずっと飛び続ける。


 さらに、仮に敵が魔法反射の加護を受けていたとしても問題はない。

 高速で魔法反射を魔法反射にぶつけると効力が相殺することは実験で実証済みだ。

 

 効果が相殺してできた『加護の穴』に、外装が解けた黒球が突き刺さり、体積分のダメージを与えることができる。つまり今の僕に死角はない。


 ふっふっふ、慢心してしまいそうだぜ。おっと、いかん、ユーリッドの二の舞いになってしまうところだった。


 防御陣形が崩壊した大盾の後ろは死屍累々(ししるいるい)の惨状だった。

 もはや勝ち目はないと悟り、最初に撤退を始めたのはゴブリンライダーたちだ。

 彼らは華麗にUターンをかまして来た道を走り出した。続いてサイクロプス、ジャイアントオーガもきびすを返して戻っていく。


 亜人種の魔物である彼らはどちらかといえば本能に従う魔物だ。自分たちより強い大将が殺されれば勝ち目はないと判断するのは当然だ。


 僕は背中を向けて逃げていく者は狙わない、そんな悠長ゆうちょうなことは言っていられない。

 魔王軍がしばらく攻めてこられないように徹底的に、完膚なきまでに、けちょんけちょんのボロクソに、完全完璧に勝利しなければならない。

 だから僕は敗走する魔物を、魔人を撃ち続けた。

 

 僅かな緊張も、強張こわぱりも感じず、慈悲さえ捨てて機械的に撃ち続ける。

 

「二発連続で外れたぞ」

 ラウラが告げた。


 二連発失敗は有効射程を超えたという目安だ。ちょうど加護を使い過ぎて精霊様がヘソを曲げてしまったところでもある。

 当たらなくってきたら作戦変更。


 僕は頭に付けたインカムのプレストークボタンを押下する。


「アルト、出番だぞ。準備はいいか?」


『あー、あー。本日は晴天なり本日は晴天なり、視界良好! もうずっと準備万端よ!』


 元気いっぱいの声が返ってきた。


 彼女と僕は無線機を装備している。これも日本で購入して持ち帰った物品だ。

 アルトに持たせている無線機は一番小型で軽量の物をチョイスしている。といって風魔法の上手い彼女は風を操り無線機本体をふわふわと浮かせて使っている。


 アルトのお仕事は上空からの着弾観測だ。


 僕は姿勢を変える。お尻を付けて座り、脚を開脚した。角度は六十度くらい。

 ラウラが僕と反対を向いて背中合わせに座り、脚を八十度に開脚した。


 これからの彼女の役目はアウトリガー兼ショックアブソーバーである。


 ヘカートを持ち上げた僕は、銃口を空に向けた。角度を微調整。


 以前、リタニアス王国を去るときに追ってきた騎士団をやっつけたやり方と同じ、降り注ぐ黒球の応用である。だけど、一発のでかさはあの時とは比べ物にならないほど大きい。

 今の僕は二メートルもの砲弾を最大四キロ先まで飛ばすことができる。ユーリッドを倒して魔力総量が上がったからこそできる芸当だ。


 しかしながら、やはり一発の魔力量が大きいから無駄撃ちできない。

 距離が延びる分だけ威力は落ちるが足止めにはなる。


 仰角五十度だいたいこれくらいかな。

 

 トリガーを引くと反動で背中が後ろに仰け反り、ラウラが緩衝し受け止めた。

 

 二メートルの砲弾がぶっ飛んでいく様はなかなか爽快だ。

 黒球はぐんぐん空へと舞い上がり、あっという間に小さな点になり視認できなくなった。上空に放たれた巨大な砲弾は上空で散ってナパーム弾のように敵の頭上に降り注ぐ。


『敵前方一時の方向に着弾、距離約五十』


 しばらくしてからアルトから無線報告があった。


 角度と方角を微調整、次いで詠唱、トリガーを引く。


『敵軍の先頭に着弾、やつらの動きが止まったわ』


「よし、続けていくぞ」


「おい、そこの兵士」


 ラウラが呼んだのは、ぽかんと口を開いて撤退する敵の後ろ姿を眺める兵士だ。ヘカートを構える僕を馬鹿にする眼で見ていたヤツである。


「我々が奴らの足を止めている間に騎士団と兵士を向かわせろ、総攻撃だ。敵は指揮官を失い、すでに瓦解している。今がチャンスだ」


「え? あ、う、その……」


 若い兵士はオドオドするばかりで動き出そうとしない。どうしていいか自分では判断できないようだ。


「素性の知れぬ者の言うことには従えないか?」

 そう言ってラウラは仮面を外して素顔を晒した。


「ヴォーディアット特務隊長!」

 声を上げた若い兵士の目が見開く。


「この機を逃してはならん。奴らを逃がせばまた態勢を整えて攻めてくる。しかしここで完膚なきまでに叩き潰せば警戒してすぐに攻めてこられなくなる。それだけ時間を稼ぐことができるのだ。今が総攻撃の好機、この戦いで迂闊には手を出せないと魔王に知らしめなければならない。雷帝に匹敵する存在が待ち構えていることを示さなくてはならない! 分かったら行け!!」


「は、はいッ!」


 ラウラのげきを受けて兵士は颯爽と走り出した。



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