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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第五章】死闘

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第50話 仮面魔導士

 また仮面魔導士か……と思いながらも僕はノックスに尋ねる。


「仮面魔導士ってバーバリアンタイタンを単独撃破したヤツだよね?」


「おうともさ! 今度はなんと五大竜の一角、恒竜王こうりゅうおうアガスティアを討伐したって話だぞ!」


 恒竜王アガスティア、ミレアとの会話の中に出てきたことがあった。

 魔王軍に匹敵すると云われる五大竜族の一派で、良質な魔法結晶が採掘できる西方大陸北東部の樹海を根城にしているのが恒竜王アガスティアである。


 こいつを倒すことができれば、がんがんハイクオリティな魔道具を生産してどんどん軍備を拡張することができるが、無類の強さを誇る恒竜王が守護する土地のため手が出せず、周辺国は手をこまねいているとか。


「恒竜王の討伐なんて間違いなく難度SSクエストだ。なんせあの雷帝ライディンですら退いたって相手だからな!」


「しかも、またもや単身で討伐したそうだ」


「いやいや、ネフよ。俺もそう聞いたが、さすがにそりゃ冗談だろ。恒竜王には手練れの部下がわんさかいるんだぞ?」


「いや、それが本当のようだ。神官が討伐後の現場に行って奴らの亡骸を確認したって話だ」


 現場確認ってギネスの審査員みたいなこともするんたな。神官も大変だ。


「マジかよ!? てことはこりゃもう準勇者確定だな!」


 準勇者か、最近ちょいちょい耳にする単語だけど何者なんだ、その準勇者って。


「ところでさ、前から気になってたんだけど準勇者ってなんなの?」


 僕は話し込む二人に尋ねた。

 するとノックスが自分の額を叩いた。あちゃーって感じに。


「たはー、相変わらずお前はよぅ、ホントに冒険者かよ? 準勇者ってのはよ、勇者の次に実力のある連中のことだ。簡単に言っちまえば勇者が死んだときの予備みたいなもんだな。武功を立てた者だけが準勇者の資格を得ることができるんだが、準勇者の席は四つしかなくてよ、今回、仮面魔導士が認定されれば空席だった残りひとつが埋まってこれで準勇者が四人揃うって訳よ!」


「勇者が死んだら、どうやって四人の準勇者から新勇者を決めるの? 勇者はひとりなんだよね?」


「勇者は枢機教会の最高神官が任命するのがならわしだ。それでも納得できなきゃ……」


 ネフは意味深な間を置いてもったいぶる。


「できなきゃ?」


「準勇者同士で勇者の座を掛けて決闘になる。現勇者パーティー《旋風》グランジスタ・ナイトハルトも元準勇者だったが、枢機教会の決定に納得できず雷帝と決闘して敗れて、そのまま仲間になったのさ」


「ふーん」


「他の準勇者は決闘せずに雷帝の力を認めていて仲間になったつー話だ。まあなんだ、勇者を目指すヤツなんてのは、そんな後腐れのねぇ連中ばっかなんだが、どうも仮面魔導士は違うみたいだ」


「と、言いますと?」


「準勇者にするかしないかの認定で仮面魔導士と教会が揉めているそうだ」


「揉めるって何を?」


「仮面魔導士の野郎は、自分こそが真の勇者だと主張していやがるんだとよ。つまり準勇者を飛び越して自分を勇者にしやがれって話だ」


「まあ、雷帝が逃げ出した恒竜王を倒したんだから、名乗る資格はあるだろが……、ちと調子に乗ってんじゃねぇのか?」


 ノックスの物言いにネフがうなずく。


「さらに仮面魔導士は、雷帝が持つ聖剣を渡すよう要求しているそうだ」


「聖剣って?」


「枢機教会が与える勇者の証だ」


 答えたのはラウラである。


「もっとも剣自体に特別な力はねぇがな。ただの象徴でしかねぇ、だが持っているだけで衣食住は全部教会に付けられるし女も入れ食い状態つー話だぜ!」


 ゲヘヘとノックスが下衆な笑いを浮かべた。


 それは羨ましいアイテムだけど勇者の品位が下がるから実際はそんな使い方はしないんだろうな、たぶん。だって勇者だしね。


『わたし、勇者に抱いてもらったのよ! 彼ったらベッドの上では赤ちゃんみたいで甘えん坊なの』

 だとか

『お腹にいる子はあなたの子よ! 養育費よこせ!』

 なんて話が出てきたらカッコ悪いもんな。

 

 

「でもさ、だったら雷帝と仮面魔導士が仲間になって共闘した方がいいじゃないの? 強い仲間が多いにこしたことはないし」


「それがよ、仮面魔導士の野郎は『勇者は二人もいらない。我こそが真の勇者だ』って主張していやがるんだとよ。何様だっつーんだよ!」


「わがままな野郎ッスね! そんなヤツやっちまいましょうぜ兄貴!」


 調子よく僕が太鼓を持つとノックスはゲラゲラと笑い出した。


「おうさ! だが正直、ヤツの気持ちも分かるぜ。さっきも言ったが勇者になれば地位も名誉も女もすべてが手に入るんだ、ガハハハッ!」


「生きて戻って来られればな。しかしまあ確かによぅ、準勇者に選ばれたところで勇者が魔王を倒しちまったらお役御免だ。次代の魔王が現れたときにはジジイになっちまってるかもしれねぇ、焦るのも無理はねぇよな」


「でもやっぱり仮面魔導士って勇者の器じゃないッスね、なんか俗物って感じがする。勇者ってもっと真っ直ぐじゃないとダメっすよ!」


 僕が強い口調でそう言うとノックスが肩を組んできた。馬鹿力で引き寄せられる。


「分かってるじゃねぇか! 俺もユウに同意見だぜ! 俺はな、一度だけ勇者になる前の雷帝に会ったことがあるんだが、あいつは地位だとか名誉だとか一切そんな野心はなかった。あいつはただ純粋に、そして真っ直ぐに世界を救おうとしているんだ! あれに惚れねぇ男はいねぇぜ!!」


「へぇ……」


 僕はノックスがべた褒めするその《雷帝》ライディンに会ってみたくなってきた。


 もちろん変な意味じゃなくて、ひとりの男として、冒険者として。


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