第46話 ボスバトル的な
迷宮内は道が狭いから魔法の狙いが定めやすくて地上で魔物と戦うよりもずっと楽だ。ヘカートスタッフモードの調子もいい。
アンデッド系の魔物は頭を飛ばしても動き続けるからとりあえず手足を奪って動けなくする。その後でラウラに頭を砕かせている。ラウラをレベルアップさせることができるし一石二鳥である。
実際にレベルがアップしているかはステータスが見られないから分からないけど、ラウラの攻撃力は出会った当初より格段に上がっているような気がする。
さらに加えて、風の精霊の加護を受けて斬撃を飛ばす剣技もマスターしていた。彼女曰く数日前に夢の中で天啓があったそうだ。
やっぱりファンファーレが鳴り響くのだろうか……。今のラウラなら単体でゴブリンロードを倒せそうだ。
そしてミレアもさすがシスターだけのことはあり、精霊アニマの加護で低ランクのゴーストやリッチを成仏させてくれるし、思っていた以上に魔導書探索は順調に進んでいる。
この迷宮で注意しなければいけないのは、デーモンウィングというバカでかいコウモリだとミレアの攻略本に書いてあった。
デーモンウィングは進化の過程でマッチョになり過ぎて飛べなくなったコウモリ族の魔獣だ。
ペンギンみたいに可愛げのあるフォルムならいいのだけど、そのシルエットは見事な逆三角形をしている。攻撃力と防御力がバカ高くて魔物図鑑ではBランクに指定される魔物である。
集団で現れるため高ランク冒険者でも手を焼くそうなのだが、先ほどあっさり殲滅できたからもう僕に怖い物はない。空を飛ぶコウモリの方が遥かに厄介だ。
――と思われたが、壁の隙間から飛び出してきた矢が太ももに突き刺さり、僕は足を負傷してしまう。
めちゃくちゃ痛くて情けない悲鳴をあげてしまった僕は、ミレアに治癒と念のために解毒の加護を掛けてもらった。
地図にはトラップの場所もちゃんと記されてあるのだが、どうやら書き漏れたトラップに掛かってしまったようだ。なんともアンラッキー。
「しかし攻略されたはずなのに魔物がいなくならないのは、やはりお約束というものなのだろうか……」
独り言のつもりだったが、「その理由なら知っているぞ!」と、なぜかラウラが喰いついてきた。
ミレアに触発されたのかラウラもトリビアを語りたいらしい。聞いてくれと言わんばかりに鼻息荒く目を輝かせて(いるはず)意気揚々とする姿が正直ちょっとウザい。
「ミレアさんも知ってるんですか?」
ここは敢えてスルーしてミレアにお鉢を回すが、
「え……ええ、でもウララさんに聞いてあげてください」
シュンとするラウラを気遣って彼女はそう言った。
「それじゃあウララさん、どうぞ」
むふん、と気合を入れたラウラは、
「フィールドやダンジョンでいくら魔物を倒してもいなくならないのは、魔族が定期的に魔物を転移させてくるからだ」
えっへん、と胸を張る。
「まさかのサブスクだった……」
いや、定期便か。
「魔獣などはわざと番で転移させてくるらしいぞ」
ふむ、バイオテロみたいなもんだな。
「それから大規模転移魔法の研究をしているのではないかという説もあります」と付け足したのはミレアである。
「大規模転移?」
「軍隊規模の転移魔法の研究です。転移魔法は魔族にとってもまだまだ不確定要素が多いみたいで、転移させる位置や日時が正確ではないとか」
「好きな場所と好きな時間を指定して軍隊を送れる規模の転移魔法が完成したら脅威だな……」
「ですなのです」
そうこうしているうちに最下層に到達。
当時、最下層の奥では赤竜が神器が眠る祠を守護していたそうだ。その祠にアルデラの魔導書が隠されているのではないかとミレアは推測している。
僕たちは長い回廊を進み巨大な空洞に出た。大小様々な水晶で覆われた空間は非常に幻想的だが、雰囲気は完全にボスバトルだ。
なぜなら、中央におおましますのは骨格だけになったドラゴンだ。シロナガスクジラ並みにでかい。
「ス、スカルドラゴン!?」
ミレアが声を上げるのも無理はない。
迷宮は攻略され、守護者である赤竜は討伐されたはず。ではこのスカルドラゴンはなんだ。答えは簡単、魔物図鑑にも書いてあった。このスカルドラゴンはドラゴンの死骸から誕生したアンデッドである。
眠っていたスカルドラゴンが立ちあがり地響きを起こす。侵入者に向かって咆哮を上げた。空気がビリビリと激しく振動する。
「僕の後ろに」
僕はミレアを自分の背中へ回す。
さてどうしたものか、あれだけのでかさになると足を消し飛ばして倒れてきても厄介だ。頭から順に消していくか、どっちにしても一発で行動不能にしたい。
魔物図鑑によれば、スカルドラゴンは火炎を噴き、物理攻撃には毒性があると書いてあった。
骨だけでどうやって炎を噴くのか構造に疑問はあるが、咆哮をあげたくらいだからできるのだろう。
「ラウラ、あいつの注意を引け」
「了解した」
僕の指示を受けてラウラが回り込むように走り出した。スカルドラゴンはそれを目で追っている。ラウラは走りながら落ちている結晶の塊を拾い上げてスカルドラゴンに投げ付けた。
ギロリとラウラを睨み付けたドラゴンの首が動き、顎を広げた。鋭い牙が生えた喉の奥に炎を宿す。
ブレスが来る!
図鑑の受け売りだが、ドラゴンブレスは炎を噴く直前で必ず静止する。
いわゆる〝タメ〟だ。
アレを試してみるか。こいつが元生物だというなら有効なはず、一撃で無力化できるはずだ。
ブレスを吐く前のタメの瞬間を狙って僕は呪文を唱えた。
次回で第四章は最後です。




