第27話 ゴールドスランバー
「あの……、これからどちらへ向かうのですか?」
ガタゴトと揺れる荷台から顔をのぞかせたラウラに、僕は前を向いたまま答える。
「僕は自分の生まれた故郷に帰ることにした。東方大陸だ」
「そ、そうですか……」
「不安か?」
なんて質問するのは野暮だった。
自分が生まれ育った土地を出て行くのだから不安になるのは当たり前だよな。
家族も身分も家も捨てて、ラウラはたったひとりになったのだ。
「はい……とても……ですが、他に選択肢はありません……」
ラウラはブラウスの胸の辺りをキュッと握りしめていた。
実にしおらしい、しおラウラだ。
今まで偉そうだったラウラの愁傷な態度にはグッとくるものがある。だけど――、
「そのしゃべり方はやめろ。今まで通りでいい」
「そ、そうですか……わかり……、わ、分かった」
言い直したけど、まだぎこちない。調子が狂うぜ、まったく。
異性をオトすには、相手が弱っているときに優しくすると効果的と聞く。よし、今夜は慰めてやるか。
ふへへっ、と思わず口角が緩む。
ひゅるひゅるひゅると何かが飛来する音が聞こえてきたのはそんなときだった。
なんて思っていた矢先、まさに矢先が御者台に突き刺さる。
「追手!? まさかもう見つかってしまったのか!」
ラウラが立ち上がった。剣を抜こうと腰に手を当てるが今の彼女は丸腰だ。武器を持っていない。
「さてどうかな、王都から離れたこのタイミングで襲ってくるなんて狙いは僕かもしれない。ラウラ、手綱を頼む。大切な荷馬車だ。穴だらけになる前に始末する」
「承知した!」
ラウラと交代して荷台に移り、僕はホロの隙間から後方の様子をうかがう。
おう……、これはすごい。
圧巻の光景だ。騎馬隊が土煙を上げながら迫ってくる。何騎いるか数えていられないが、騎馬の隊列は何層にも重なっている。これは百騎近くいそうだな。
たったひとりの異端者を殺すために編成されたのか、哀れ王国騎士団。
あの変態神官め……、騎士団を私情で動かすなんてとことんクズ野郎だ。
前列の馬上で弓兵たちが一斉に弓を引いた。射出された矢を一本ずつ消していくのは不可能だ。
《時空転移魔法》
だから荷馬車後方をすっぽり覆える大きさの黒球を発現させる。
射出された矢が次々と吞み込まれていく。
その間にも左翼の騎馬隊が荷馬車に接近していた。重い荷馬車とでは機動力が段違いだ。
あと十数秒もすれば囲まれてしまう。
矢と同じでいちいち一騎ずつ相手になんかしていられない。
「イメージはショットガンの応用でいいだろう、奴らの頭上に降り注げ。《アナザーディメンション》」
僕は唱え、放った。
さきほどと同じ大きさの黒球が騎馬隊前方頭上に出現、黒球が破裂し無数の小さな球が礫のように降り注ぐ。
肉を削られた馬が次々と転倒、その間隙を縫うように第二陣の騎馬隊が前に出た。僕は同じ要領で黒球を放ち、ことごとく騎馬隊を返り討ちにしていく。
幾度か同じことを繰り返しているうちに、騎馬の脚が完全に止まった。もう追ってくる様子はない。
よしよし、死者は出ていないみたいだ。グッバイ、リタニアスキングダム。
◇◇◇
その日はリタニアス王国領の東にあるハントの森という場所で野営することになった。
あの様子なら騎馬隊がすぐに追ってくることはないだろう。かなりの損害が出ているはずだ。
今回で諦めてくれれば話は早いが、大神官がユーリッド絶対殺すマンモードだったら部隊を再編成して追ってくるかもしれない。
森の中で魔物と騎士団の両方を警戒しなければいけないのは正直しんどい。
騎士団の連中には申し訳ないが、次は足くらい奪っておこう。いくら追い返してもすぐ戻ってこられたら埒があかないもんな。
僕は煌々と赤くなった炭の上で焼き鳥串を焼いている。
王都の市場で手に入れた新鮮な鶏肉を日本から持ってきためんつゆ、砂糖と塩、こっちの世界のスパイスを合わせて自作した特製タレに漬け込んでおいたものだ。
それから、やはり焼き鳥といったら炭火だ。この世界でも炭は簡単に手に入る。どうせ野宿もするだろうと思って王都を出る前に買い込んでおいて正解だったな。
香ばしく焼ける鶏肉からいい匂いが漂ってきた。
クルクルと鉄網の上で串を回す俺の手元をピンク髪の元騎士隊長がよだれを垂らしながら見つめている。
それにしても、こうやってラウラと野営をするのも久しぶりだな。まさかまた一緒に行動することになろうとは思ってもみなかった。
これからの方針は王都までの道のりとやることは変わらない。
村落を経由しながらひたすら東へ向かう。
ただ今までと違ってある程度まとまった資金が必要になる。飲食はもちろん宿代に衣類、薬に生活に必要な物資、そして東方大陸に行くためには船に乗らなければならないらしい。その代金を稼ぐ必要がある。
ラウラ曰く、ここから南に半月ほど進んだところに各国の貿易の中心になっている中立都市があるそうだ。
その街には冒険者ギルドがあり、そこでギルドに加入して冒険者として生計を立てつつ軍資金を稼いでみるのはどうかと提案され、僕は是非もなくうなずいた。
いやぁ、ギルドに登録する日がくるなんてオラわくわくすっぞ!
拙作に興味を持っていただけましたらブックマーク、いいね!、広告下から評価☆をお願い致します!




