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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【外伝】英雄の物語

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とある英雄の物語《剣》6

 ノーア・アオイ・ミツトモエ。

 震竜族の少女(?)で俺と同じ東方大陸出身、武者修行の道中で勇者ライディンと出会って勇者パーティに加わる。

 戦闘能力は非常に高く守りも堅い。性格は明るく陽気、だけどたまにひどく落ち込んだりもする。

 地毛は黒色だけど栗色に脱色している。



 俺はそんなノーアとの出会いと別れを繰り返し、時空を渡ってリュージュを集めて自分の体に摂り込んでいった。


 何十、何百という時空を渡る間に最初はクリアするまで半年掛かっていた修行が、数か月、数週間、数日、数時間へと徐々に短縮されていった。


 ループを重ねるごとに、彼女と過ごす時間が次第にページをパラパラと捲るような感覚に陥っていく。


 その一方で、彼女との膨大な想い出が脳内に蓄積されていく。


 たまに見せるあどけない表情や他愛もないやりとり、支えてあげないと崩れてしまいそうな脆い瞬間、彼女の存在が俺の記憶を占めていく。


 情が湧くのは当然のことだと思う。


 ましてや俺にとって身近な異性とは、レイラばーちゃんをはじめ親族しかいない。


 だから彼女に対して特別な感情を抱くようになるのは時間の問題だったのだ。


 ある日、俺は気付いた。

 彼女のことが好きになっていることに。


 でも、俺にとっては幾百回もの出会いも別れも、何年にも及ぶ共に過ごした日々も、ループの外側にいる彼女にとってはその人生において僅かな時間でしかない。

 しかも俺が強くなればなるほど、彼女と過ごす時間は短くなっていく。


 今回の時空で仮に俺がノーアに告白したら、彼女はきっとこう答えるはずだ。


「出会ったばかりなのに何を言っているんだい?」


 そう告げられるのが怖い。


 いくらページを捲っても同じページの繰り返し、だから俺はその先が見たくなっ


 つまり別の未来だ。


 この世界は行き止まりだとアナスタシアは言った。


 でも、もしかしたら本当は行き止まりなんかじゃなくて、別のルートが存在しているのではないか。

 いや、たとえルートがなくても創り出せばいいのだ。

 彼女と一緒に新しい未来を見つければいい。

 俺とノーアならきっとできる。


 だから俺はノーアにすべてを打ち明けて、強引に連れ出してアナスタシアの元から逃げ出した。


 しかし――。


「ミズチ」


 アイザムの橋でアナスタシアは俺たちを待ち構えていた。


「アナ……」


 立ち塞がるアナスタシアを見てノーアは微苦笑を浮かべた。そしてノーアは諦めたように俺から手を離した。


 俺は悟る。

 きっと、俺たちがこうやって逃げ出したことが過去にも〝あった〟のだ。


「あのときは大変だったよ」


 俺の心を見透かしたアナスタシアが過去を思い出すようにそう告げた。


「そのときの俺はどうなった?」


「聞かなくても分かるだろ?」


 ああ、分かるさ。あんたは説得に応じない俺を殺して、過去に戻ってやり直す、それだけだ。


「……あんた、鬼だな」


 そんなものはとうの過去に通り過ぎた、と淡々とアナスタシアは言った。


「あんたはなんのために繰り返す」


「ライゼンとの約束のためだ」


 ああ、そうか。


 あんたにとっても世界の平和とか、救済とかそんなものはどうでもいいんだ。

 あんたにとって大事な物、貫きたい物は俺と同じ。


 たった一つの自分が信じる愛のために。



 そして、俺はいつもの日常に戻った。


 ループする度に隙を見ては逃走し、阻止される、そんな悪あがきを往生際悪く繰り返している。

 何度やってもアナスタシアを出し抜けない。

 未来を先に経験しているアナスタシアには絶対に勝てない。


 それでも俺は諦めなかった。



 そんなある日、アナスタシアは俺を別の時空へと跳ばした。


「ここは?」


 そこは木々が生い茂るジャングルの中だった。

 

「西方大陸の西海岸近くの森だ。そして、ここは正史の世界だ」


「正史の世界?」


「そうだ。今まで渡ってきた世界は行き止まりが確定した世界、しかしここは私やキミの祖父やレイラが勝ち取った唯一の世界だ」


「つまり……、俺に繋がっている世界ってことか?」


「そうだ、キミが生まれる半世紀ほど前の時間に我々はいる」


 周囲を見回した俺の眼にある物が映った。


「あれは?」


 数体の青い竜が空を旋回している。


「あれは漸竜王の配下たちだ」


「漸竜王って五大竜の?」


「そうだ、あの竜が群がる下でノーアが戦っている」


「なにッ! 誰と!?」


「この正史ではノーアは私たちのパーティには加わらなかった。彼女は武者修行の末に、漸竜王のテリトリーに踏み込んでしまい、殺される運命にある」


「なんだって……」


「行け、ミズチ。行ってノーアを助けろ。ノーアを助ければ彼女の運命は変わる。竜族の寿命は長い。祖父との戦いに勝って生き残れば、再び巡り合うことはできる」


「アナスタシア……、あんたは……」


「俄然やる気が出てきただろ? 私は人をやる気にさせるのが上手いからな」


 アナスタシアは微笑を浮かべる。


「冗談じゃねぇ、なにがやる気だ……。あんたはとんだロクデナシのエルフナシだ」


 そう吐き捨てた俺は青い竜が群がる地点に向かって疾走する。


 アナスタシア師匠、あんたはやっぱり鬼だ。

 俺を強くするために、俺の恋愛感情まで利用するなんてよ。

 でも、たぶんあんたはこういうやり方しかできないんだ。

 あんたはとっくの昔に壊れちまっているから。

 

 これが運命を変えるかもしれない危険な行為だと分かっていても俺をこの場所に転移させたのは、きっとあんたの最大限の譲歩で、償いなんだろ?


 剣を抜いて咆哮を上げた俺は、視界に入った青い皮膚の竜人に斬りかかった。


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