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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【最終章】アルデラの魔導書

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第240話 対魔神戦5

 ラウラ(レイラ)視点です。

 ■■□□□□


 ■■■■□□


 ■■■■■■


【Restart】


 仮面の内側に光の文字が刻まれた。



『よう、久しぶりだなラウラの嬢ちゃん。いや……、今はレイラ・ゼングウか』


 《極刀》オミ・ミズチの声がラウラの頭に直接響く。


「レイラ……、ゼングウ? それは少し気が早いのでは……」


 妙なことを突然言われたラウラは、こんなときだと言うのにくすぐったい気分になった。


『まあ、気にするな。それよりずいぶん中途半端な野郎と戦っているじゃねぇか』


「はい、奴は魔神の体をその身に取り込んで世界の崩壊を企む者です」


『ああ、だいたい状況を把握している。まったくチンケな野郎だぜ』


「オミ殿、どうかご助力をお願いします」


『分かっているさ。だがな、俺じゃなくて嬢ちゃんが奴を倒すんだ。世界を守るのは今この世界に住む者でなくちゃならねぇ、それが筋ってもんだ。いいか、俺様の力をそのまま自分の力に乗せろ、自分の力として展開するんだ。今の嬢ちゃんになら出来るはずだ』


「承知しました」


 アルデラは復活すると同時に空に飛び上がった。顔の形が鳥のくちばしのように変形していく。開いたあぎとの内側にエネルギーが集中していく。


『気を付けろ、ありゃヴァルヴォルグの技だ。俺たち諸共この辺り一帯を灰燼かいじんに帰すつもりだ。喉を潰して止めろ』


 言われるよりも早くラウラは剣技《弧月夜こげつ》を放っていた。それは音速で飛翔する斬撃、剣技の究極系とも言える極刀の技のひとつだ。


 斬撃がアルデラの喉を斬り裂き、鮮血が迸る。切断までは至らずも顎の中の光が霧散して消失する。

 首に与えた傷は瞬く間に塞がり元に戻ってしまった。

 追撃を加えるためラウラは加護の力で空に舞い上がる。


『初手から力押しで来たってことは、奴さんなかなか焦っているようだな。生半可な攻撃じゃすぐに再生する、徹底的に刻んで焼き尽くせ』


「承知しました!」


 アルデラが仕掛ける前にラウラは斬撃を放ち、反撃の機会を奪い続ける。呪文を詠唱する時間も魔法陣を展開する猶予も与えない。アルデラを圧倒する彼女だったが腑に落ちない点もあった。


「……おかしい」


『どうした?』


「さっきから私の加護が通りません。奴に向けて加護を放っているのですが無効化されているようです」


『奴は自分の周囲に真空を造り出しているんだ。それで熱の伝導を防いでいる』


「なるほど、それでは不用意に近づくのは危険ですね。ならばッ!」


淡月夜たんげつ》――、剣域を増幅させて刃の威力をそのままに敵を切り裂く、中距離からの攻撃に特化した剣技。


 ラウラはエイジスを宙で薙ぎ、距離を保ったままアルデラの体を縦一文字に斬り裂いた。


 会心の一撃だったが決定打にはならず、またしてもアルデラの体が元に戻る。しかし今回は刃にサラマンダーの加護を塗布してあった。

 少し遅れてアルデラの体が内側から炎上して燃え上がる。


 ――分かる。すべて使える。まるで最初から自分の物であったかのように、極刀の剣技が使える。

 まさか、これほどとは……。自分が剣神にでもなった気分だ。


『ヴァルヴォルグが余計なことしやがったおかげだな、前回欠けていた部分が補完されて色々と思い出したぜ。だけどそれだけじゃねぇ、嬢ちゃんの実力があってこそだ。そしてユウ・ゼングウとアナスタシア・ベルが与えてきたダメージが効いているんだ。そうでなければここまで一方的な勝負にはならなかった』


 もはや勝利は揺るぎない。もう覆ることはあり得ない。これは全員で繋いだ勝利である。


 斬り裂いて裂き焼き尽くす、ラウラは作業をこなすように何度も繰り返す。何度も、何度も。


 そして、ついにそのときは訪れた。

 黒焦げになったアルデラの巨体がクレーターに墜落して地に落ちる。地響きの後に土埃が上がった。

 

 ラウラは倒れたアルデラの前にゆっくりと降り立った。


 魔神の皮膚に細かなひびが入り躰が崩れていく。魔神の中から少女が姿を現した。アルデラはまとっていた外装と同様のダメージを負っている。


 焼き焦げた唇がうわ言を言うようにカサカサと動き始め、指先の爪がかさりと地面を掻いた。すかさずラウラは《青月夜せいげつ》でアルデラの両手首を同時に切断する。


「黙って転生させてもらえると思ったか?」ラウラは言った。


 少女は焼け焦げて表情も判別できなくなった顔でくつくつと嗤っている。


「あなたによって多くの悲しみが生まれました。ここで大人しく眠りなさい」レイラは告げた。


 そして、アルデラの心臓にエイジスを突き刺す。魔人の少女は体をびくりと痙攣させた後、片手を空に向かって突き上げる。

 それは、まるで何かを掴み取ろうとするかのように、神に抗うように――。


 やがて伸ばした腕から力が抜けていき、再び地面に落ちて完全に動かなくなった。


『終わったな……』


「ええ、終わりました」


 仮面の一部が剥がれて落ちた。ラウラの瞳に月光が差し込む。

 

「オミ殿?」


『……どうやら時間切れのようだ。これで俺様の役目は完全に終わったってことだな……』


「そんな……、まだちゃんとお礼ができておりません! それに教えていただきたいことがたくさんあります!」


『今の俺はアルデラによって物体に固定されたただの記憶に過ぎねぇ。元々存在しちゃいけねぇんだ、俺みたいなヤツはよ……。だが、嬢ちゃんと過ごした時間は楽しかったぜ』


 オミ・ミズチは晴々と言う。


『縁があればまた会おう、ラウラ・シエル・ヴォーディアット……――』


 仮面は風化するように崩れ落ち、粉々になって散っていった。




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