第239話 対魔神戦4
その光は紛れもなく魔力を起因とする輝きだった。
まさかの復活を果たしたアルデラの千切れた四肢が意思を持つかのように、徐々に再生しながら胴体に戻っていく。僕はまたしても回復していく姿を呆然と眺めることしかできない。
動けずにいるアナスタシアも僕と同じ疑問を胸中に抱いているはずだ。
そんな馬鹿な――!?
死んだ状態で誰からも処置を受けずに蘇るなんて有り得ない。生命の理に反している。もしそれが可能だとしたら、これは魔人族の特殊スキルに違いない。セシルルの《骸晶槍弾》やエルガルの《千里眼》と同じ、玉種の固有スキル。おそらく自動蘇生のような能力、そうとしか考えられない。
しかし無限に生き返れるはずはない。固有スキルには必ず限界が存在するとセシルルは語っていた。魔導だって同じだ。だとしたら……、だとしても何回殺せば奴を倒せるんだ……。
「化け物め……」
アナスタシアは唇を噛んだ。
アルデラが完全回復して動き出すまでは時間の問題だ。魔力が枯渇寸前の僕らには成す術がない……。
「くそ、どうすればいいんだ……」
――ん? なんだ……? これは空気が震えているのか? まさか……。
微かな空気の振動を感じ取った僕は耳を澄ます。
――聞こえる。確実に近づいてくる。こっちに向かってくる。間違いない。
良かった、やっぱり無事だったか……。一体どうやってこの場所を? いや、今はそんなことより喜ぶべきだ。このタイミングで登場とはさすがだ。もっと早く来いと言うのはさすがに野暮だろう。
「まだ……まだ足りないのか……、ここまで来てまだ足りないと言うのか!! ユウ、キミに預けてある聖剣エイジスを私に」
回復していくアルデラを睨み付けたまま、アナスタシアは僕に向かって手を差し出した。
「エイジスですか?」
「時間遡行するにはあれが必要なんだ。さあ、早く! キミを残して行くことになるが、世界を救うにはそうするしかない!」
うっ、まずい……。
彼女の言っていることの半分くらいしか理解できていないけど、エイジスは彼女にとって重要なアイテムだったらしい。
「早くするんだ!」
僕は頬を掻きながら「えっと……、エイジスはここにはありません」と正直に告げた。
「ない? そんな馬鹿な! 確かにキミが呼び出したはずだ!?」
「は、はい、呼び出しました……。それでその後……レイラにあげてしまいました……。なのでここにはありません」
「あげた!? 仮にも聖剣だぞ!? なんてことをしてくれたんだ!」
「すみません。そんな重要なキーアイテムだとは知らなかったもので……でも大丈夫ですよ」
「なにが大丈夫なものか! 奴が完全復活する前に今すぐレイラと合流するぞ!」
「だから大丈夫なんです。ほら、聞こえませんか?」
僕は夜空を指さした。
もう耳を澄まさなくてもはっきりと聞こえる。飛翔する戦闘機のジェットエンジンのような轟音が近づいてくる。
「ヒーローはいつでも遅れて現れるものです」
「ヒーロー……」
深く溜め息を吐いてアナスタシアは頭を振った。
「残念だがレイラはヒーローになれない。ループの中で彼女もアルデラに挑み、敗れている、何度もだ。しかも今回は彼女ひとり、どうにもならない。レイラが到着するまで時間を稼ぐしかない。エイジスを回収したら私は過去に跳ぶ」
今度は僕が首を振る番だ。
「いいえ、彼女はひとりじゃない」
「なにを言っているんだ! キミが諦められないのは分かる! しかし私もキミもほとんど魔力は残っていない! レイラのサポートにはなりえない!」
「彼女はひとりじゃないんです」
繰り返して告げた僕の前にレイラが降り立つ。
「待たせた」ラウラは言った。
「カインはどうなった?」
「南側の半分が消滅した。私は運よく爆発を免れたが多くの犠牲が出てしまった」
「そうか……」
「ユウ、早くこれを」
ラウラは右腕のミイラを放り投げた。放物線を描いて戻ってきたヴァルを受け取り肩に当てる。直後、回復魔法が掛かり肩と腕が繋がった。今のは僕の魔法ではない。治してくれたのはヴァルだ。
腕の代わりに僕は〝そいつ〟を彼女に投げ渡す。
「ラウラ、後は任せたぞ」
彼女はそれを顔に当てた。
《極刀》の意識が宿ったその仮面を――。
「ああ、任された」




