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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【最終章】アルデラの魔導書

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第235話 対魔神戦1

 しかし僕に出来るのか。

 ヴァルは言っていた。魔法とは願望の具現化、魔法を創るには試行を何度も重ねて完成させる物であり、最初から完璧な魔法など存在しない。僅かでも疑いがあれば枷は外れないと。

 アルデラを倒すには一発で完成させなければいけない。ヴァルがいてくれたら出来たはずなのだ……。


 

 ――囚われるな、縛られるな、我らは自由である。



 アナスタシアの言葉が頭の中で響いた。

 

 それはかつて彼女から教えられた魔導の極意――。


 きっとアナスタシアはこの日のために、あの言葉を僕に伝えたのだ。


「やるんだ……。信じろ、自分を!!」


 姿勢を反転させた僕は魔法陣の足場を作ってその上に立った。左手を迫りくるアルデラに向かって突き出す。


 疑うな、僕ならなんだって出来る。

 ただの平凡な中年だった男が異世界に行って死んで転生して勇者と肩を並べるまでに成長した。これ以上に奇跡なみたいな出来事が一体どこにある。これまでずっと信じられないような体験をしてきたじゃないか。イメージしろ、アルデラを圧倒するイメージを、ふたつの世界を守るために最強の矛を召喚するんだ! 枷を外して世界の理を覆せ!!


「囚われるな! 縛られるな! 僕らは自由だ!!」


 叫び、僕は詠唱する。


 ――《魔法創造マジッククリエイト孤軍艦隊ソロフリート》――。

 

 炎上する街に巨大な魔法陣が現れ展開していく。陣の中に散りばめられた小型の魔法陣がギアのように回転を始め、眩い光を放った直後、護衛艦が空間に出現した。地面に落ちた巨体がアスファルトにめり込む。

 幹線道路をいくつもの艦船が埋め尽くしていく。


 追ってきていたアルデラが空中で体を静止させた。様子を見ている。自分を取り囲む護衛艦の艦隊を警戒しているのだ。


「お前にこいつがなんだか分かるか? 知らないことが怖いんだろ? 悔しんだろ? だからお前は怯んだ! こっちの世界の武力を教えてやる!!」


 アルデラの四方に魔法陣が展開を始める。転移魔法で攻撃を回避するつもりなのだろうが、


 ――遅い!


「放てッ!!」


 居並ぶイージス艦の主砲が同時に火を噴いた。炸裂音が轟き、完成する間際の転移陣を一瞬で貫いてアルデラの体に着弾、爆炎が噴き上がる。魔神の体が燃え上がり、ぐらりと姿勢が崩れた。


 効いている!? 有効だ! この世界の武器でもダメージを与えられる!


 僕は攻撃の手を休めない。

 指先をアルデラに向けたまま砲撃を続ける。甲板からミサイルが打ち上がり、砲身から排出された巨大な薬きょうが次々と転がり落ちていく。


 アルデラは避けることも逃れることもできない。全方位からの攻撃にはりつけだ。


 イケる! このまま押し切れば勝てる!


 一発の魔法に全魔力の半分以上を持っていかれてしまった。次はない。これで仕留めるしかない!


 艦隊による斉射が続く。アルデラは体を丸くして防御に徹している。まだ宙に浮いたまま持ちこたえている。護衛艦を召喚できても弾は無尽蔵ではない。


 くそ……、落ちない! そろそろ弾が切れる。撃ち尽くしてしまう!


 ついに最後の一発が着弾して《孤軍艦隊》の攻撃は止まった。艦船群は完全に沈黙する。

 

 アルデラは動けずとも死んではいない。トドメを刺すには持てる限りの魔力で奴の体を削り取っていく他ない。

 

 僕が再びアルデラに向かっててのひらを向けたその瞬間、眩い光が瞬いた。回復魔法の光だ。何度も何度も回復魔法を連続で重ね掛けしている。全身に与えた傷が修復されていく。今まで蓄積したダメージが消えていく。


「ちくしょう……、ここまでなのか……。ここまで来て何もできないのか……」


 時空転移魔法を連続で掛けたとしても、与えられるダメージより回復速度の方が早い。

 

 もう《孤軍艦隊ソロフリート》は発動できない。

 次の一手はない。絶望的な状況だ。


 回復していく敵を呆然と見つめるしかなかった僕の横を、一発の巡航ミサイルが飛翔して通り過ぎていった。

 巡航ミサイルはアルデラの体を捉えて爆炎を上げる。


「これは……ッ!?」


 放たれた強烈な殺気に背中が凍りついた。全身が粟立、汗が噴き出す。それは今まで感じたどんな殺意よりも濃密で、堅固で、鋭利だった。

 僕の背後にいるのは、遥か高みにいるとてつもない化け物に違いない。魔力のプレッシャーが桁違いだ。

 死さえ覚悟して僕は振り返る。


 美しい金色の髪が風になびいている。翡翠色の瞳が月明かりに照らされて輝いた。

 

 振り返った僕がその先に見たのは、魔石の付いた杖をアルデラに向けるアナスタシア・ベルの姿だった。


「さあ今宵、繰り返しされてきた因果に終止符を打とう」


 彼女は静かに言い放った。



 春分の日はお休みします。

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