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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【最終章】アルデラの魔導書

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第234話 創

 切断面から血飛沫ちしぶきが噴き上がった。


 ――浅いッ!! 今ので胴体を分断できなかった!? 速度は申し分なかったが威力が足りなかった、やはり僅かに軸がぶれてしまったのか。

 戦いの口火を自らの手で切ってしまった。もう後戻りはできない。今の僕ではあれ以上の技を放てない。この場を切り抜けてヴァルと合流するんだ。


 心臓に刃が届いていてもアルデラは顔色ひとつ変えない。斬られた体は動画を逆再生するみたいに元に戻っていき、完全にくっついた。傷跡さえ消えている。


「ふむ、魔神を取り込んだわしの肉体をここまで傷つけるとは……、思っていたより楽しめそうじゃ。実にたぎるのぉ……。ところで、おぬし……、知っておるか? 紅玉種の血には脳内麻薬を分泌させる覚醒効果があることを……」


 アルデラは皮膚に付着した血を指で拭ってぺろりと舐めた。


「くかかッ! 滾る! 滾る滾る滾る! 見事な一撃の礼をせねばな、魔神ヴァルヴォルグの片鱗をおぬしに見せてやろう」


 アルデラの体がドス黒い瘴気に包まれていく。黒霧はどんどん膨れ上がり、巨大化して形を変える。


 アルデラを覆っていた黒霧が霧散して消える。現れたのは魔神の相貌、黒い顔面に青白く光る線が格子状に走っている。それぞれの格子の中にある眼球がギョロリと動き、僕を捉えた。


 液体のような粘度を持った魔力が空間に放たれ、複数の魔法陣が同時に連なり展開していく。


 ――まずい! なんらかの大規模魔法が来る!?


 視界が眩い光に包まれた刹那、僕は先生の腕を掴んだ。時空転移魔法で元の世界に跳ぶ。



「くそっ!!」

 

 アパートの壁に拳を叩きつけた僕は歯噛みする。


 あの魔力規模だとカインは吹き飛んだかもしれない……。

 ラウラ……、きっと無事なはず。大丈夫だ、彼女なら心配はいらない。城門の傍にいたなら魔法が到達するまでに回避することはできる。


「ロイくん、落ち着いて……。状況を整理して態勢を整えましょう」


 壁に拳を当てたまま考え込む僕の左手を先生が握りしめた。


「はい……」


 先生の方に向き直った僕は、今になってようやく彼女の無事を確認する。僕の隣にいた先生は幸いにも傷ひとつ負っていない。


 僕は自分の右肩に視線を向けた。さっきよりも黒い瘴気が濃くなっている気がする。範囲も少し広がってきている。

 黒靄が全身を包んだそのときがタイムリミット、契約が強制執行されるまで二十時間近くある。まだ焦る必要はない。先生の言う通り、いったん態勢を整えて対策を練ろう。


「そういえばお腹が減りましたね、何か買ってきます。先生はここで待っていてください」


「ええっ!?」


 先生は不安げな視線で僕を見つめた。何度か長距離移動の中継点としてこっちの世界に来たことはあるけど、ひとりになるのは初めてだから心細いのだろう。


「大丈夫ですよ、この世界にはドラゴンやモンスターはいません。コンビニに行くだけですからすぐに戻ります」


 そう告げて僕は玄関を出た。

  

 こんなときだからこそ、しっかり腹ごしらえをしておくべきだ。腹が減っては戦はできないからな。

 だからと言って時間を無駄にできない。歩きながら考えるんだ、アルデラの攻略法を。レイラが奴に見つかる前にヴァルと合体して《魔導大全グリモワール》の発動を阻止するんだ。ヴァルとなら魔神として不完全なアルデラに対抗できるはず。


「……ん? なんだ?」

 

 視野に違和感を覚えた僕は立ち止まる。前方の空間が歪んで見える。


 目眩めまい? 立ちくらみ? 


 目を擦って見ても変わらない。見間違いじゃない。確かに空間が歪んでいる。


 これは……、まさか時空転移魔法アナザーディメンション!?


 空間の歪みから巨大な魔神の腕が突き出てきた。


 ――こっちの世界まで僕を追ってきやがったのか!?


 僕は飛翔術で空に舞い上がる。完全に姿を現したアルデラは僕を視認して飛び上がり後を追ってきた。飛翔しながらアルデラが魔神の腕を大きく振りかぶった。


 ――何か来る!


 姿勢を捻った刹那、巨大な斬撃が目の前を通過した。

 斬撃は地平線を刻むように街を切り裂き、そこから炎が吹き上がる。


「ッ!!?」


 ――僕が暮らした街が……。


 このままじゃ街が焼き尽くされてしまう。地上で戦っちゃダメだ。少しでも人の少ない場所に、海へ向かうんだ。

 奴のスピードはたいしたことないが、いずれ追いつかれる。それにあの攻撃をまともに喰らえば一撃でやられる。


 フェイントを小刻みに掛けながら空中移動を続けて斬撃を回避する。その度に街が破壊されていく。


 くそっ! 早くあいつを止めないと海に出る前に街全体が火の海になる。これ以上被害を拡大させる訳にはいかない。


 燃え上がる市街地を中心に戦う他ない!


 姿勢を反転させた僕は後ろ向きに飛びながら人差し指をアルデラに向けて黒球を一発撃ち込んだ。

 魔神の体表に着弾した瞬間、黒球が弾け飛ぶ。


 やはり《魔法障壁マジックシールド》か……。


 時空転移魔法で遥か彼方の銀河に跳ばしたいけど、こいつなら同じ方法で戻って来るだろう。ならば胴体を半分転移させて確実に仕留めるのが有効だ。

 しかし、どちらにしてもバフの効果が切れた瞬間を狙うしかない。それまで待てない。そんな余裕はない。


 どうする? 魔法は防がれてしまう。

 じゃあ加護は?

 いや、体内の魔力は感じるけど精霊は感じない。おそらくこっちの世界では加護は使えない。


 ヴァルは三英雄に物理で押し切られたと言っていた。


 物理攻撃……、今の僕の剣技ではかすり傷程度しか負わせられない。


 もっと攻撃力のある物理でダメージを与えないと意味がない。それを可能にできるとしたら魔法で物理を召喚することだ。

 たとえばヴァルがアルゼリオン帝国で使った隕石を召喚する魔法はどうだ? いや……ダメだ、ピンポイントで当てられない上に避けられたら街に被害が及ぶ。


 避けられない必中の物理攻撃を召喚する――。


 それには新しい魔法を生み出すしかない。

 

 



 



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