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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【最終章】アルデラの魔導書

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第230話 作戦開始

~前回のあらすじ~

 運命の変動によってロイの寿命が短くなっていることが判明する。

 第二の契約の執行が明日の日暮れまでと迫ったロイを助けるために、リザは自らの命を差し出して身代わりになる。

 そして、リザが消えたことでレイラに前世の記憶が蘇るのであった。

 翌朝、僕らはリザの遺体を火葬した。


 火の粉が舞い、立ち昇る煙が曇りのない空に昇っていく。

 僕はリザの体が焼けていく光景が直視できず、レイラと先生に任せて途中でその場を離れた。


 叶うのならリザの故郷である恒竜族の領地に彼女を返してあげたかった。恒竜族の葬儀でちゃんと弔ってあげたいと提案した僕に、ヘンリエッタ先生はこう告げた。


「リザが死亡した原因は、竜族にしか感染しない未知の感染症の可能性があります。故郷には返さずこの場で葬ってあげた方がいいと思います」


 それでも僕はなんとか彼女の一部だけでも返してあげたいと主張したけど、レイラにも止められてしまう。彼女はリザをこの場所で眠らせてあげたいと言った。


 今のレイラはラウラでありリザでもある。レイラがそう言うのであれば、僕はそれに従う他なかった。


 涙を拭って空を見上げる。


「……リザ、キミは今……、僕の中にいるのかい?」


 返事なんてあるはずがない。それでも僕は耳を澄ませるのだ。


 目的だったラウラの記憶を戻すことができたけど、対価として僕は大切で掛け替えのない人を失ってしまった。


 リザのおかげで二つ目の契約は履行されず、僕は死が訪れるまで生きていられる。彼女にもらった命の使い方は決まっている。


「……先生、予定を変更します」


 戻ってきたヘンリエッタ先生に僕は告げる。


「今日の日没と同時に召喚陣を破壊しにいきます」


 異論も反論もせず、先生は「分かりました」とだけ答えた。彼女の目元には涙痕るいこんが刻まれている。魔人である先生がリザのために涙を流してくれたことが嬉しかった。


「レイラ、それでいいかい?」


 レイラも黙ってうなずいてくれた。


 それでも彼女の内心は複雑なはずだ。

 すんなりとユウを受け入れることができたロイと違って、彼女は少し不安定なようだ。


 ラウラの記憶を取り戻しても、現在のベースとなる人格はレイラであり、たまにラウラになる。上手く混じり合えず混在している状態、二重人格に近い。


 教会に裏切られて命を狙われ、殺されかけたラウラと教会から勇者として庇護を受けて崇拝されるレイラ、対照的なふたつの意思が互いを簡単に受け入れられないのは仕方がない。

 ましてやレイラにはローレンブルクの姫君としての葛藤もあるだろう。


 ロイがユウを受け入れられたのは、世界と自分を繋ぐしがらみが少なかったから。ただの少年、ロイ・ナイトハルトだったからに違いない。


 彼女が折り合いを付けるには、まだ時間が掛かるかもしれない。

 それでも僕らは先に進まなくてはならない。


「当初の予定では近衛隊や兵士を打ち破りながら突破するつもりだったけど、それも変更します。怪我人は少ないに越したことはない。そこで先生、ミルルネに協力を要請したいと思います」


「どのようなことでしょうか?」


「魔王軍をカインの近くに転移させてほしい」


「なるほど、陽動するのですね」


「そうです。攻める振りをして睨み合いを続けてください。カインの軍隊と近衛隊が城門付近で張り付けになっている間に、警備の薄くなった神殿に侵入して召喚陣を破壊してきます」


「でも確か、結界の影響でヴァルヴォルグ様の腕が入れなかったのではないですか?」


「ああ、だから神殿に入る前に腕を斬り落とす」


「斬る!?」


 先生は眼をギョッと丸くさせた。


「そうです。先生、斬った後すぐに魔法で傷口を塞いでください」


「わ、わかりました」


「ヴァル、切り離したことで問題はあるか?」


『一点ある。離れている状態が長いと強制的に契約が執行される』


「どのぐらい離れていられる?」


『おおよそ二十四時間だ』


「二十四時間……。いいね、その感じ……、まるでハリウッド映画だ。それまでにミッションコンプリートすれば問題はない」


 次にレイラの方へ体の向きを変える。


「レイラ、キミが僕の腕を切ってくれ、キミなら痛みを感じる間もなく切断することができるだろ?」


「その後で私は城門に向かえばよいのですね」


 僕はうなずいた。


「ユウ……」

 

 その名を呼んだ彼女の瞳は揺れた。


 目を見れば彼女が抱いている感情がなんとなく読み取れる。僕と離れてひとりになるのが不安なのだと思う。

 急に色々と思い出して動揺も困惑もしているはずだ。だから僕は彼女をそっと抱きしめた。

 

「ラウラ、これが終わったら一緒に僕の家に帰ろう。僕の家族を紹介したい」


 彼女も僕の背中に腕を回して抱きしめてくれた。体が強張こわばり、力が入っている。レイラの人格が影響しているのか、少しだけ緊張しているみたいだ。


 ――こうしていると、あの日の夜を思い出す。


 デリアル・ジェミニ率いる魔王軍別動隊を迎え撃つと決めたあの夜のような気分だ。


 だけど違う。今回は戦う訳じゃない。召喚陣を破壊する、たったそれだけだ。


「それじゃあ作戦を開始する」




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