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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十六章】それぞれの願い

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第227話 謎スープ

 零れ落ちそうになった涙をレイラに気付かれる前に目頭を抑えるフリをして拭った。


 これじゃあダメだな……。

 日暮れに死ぬと打ち明けたときの彼女たちのことを考えると、抑えている感情が決壊してしまいそうになる。

 クラリスは呆然としたまま涙を流すのだろう。ガブリエラは泣きながら怒るかもしれない。ソフィアは僕の気持ちを察してその場では冷静に務め、ひとりになったときに泣くのだ。


 だから、こんなところで涙を見せる訳にはいかない。僕が泣き喚いたりしたら、みんなを不安にさせてしまうだけだ。

 大丈夫……、僕なら大丈夫だ。運命を受け入れて最後まで精一杯強がってみせろ。

 

 僕は一切の後悔なんて見せずに笑って死ぬんだ――。


「あなたは、どうしてそんなに落ち着いていられるのでしょうか……。明日、死ぬというのに……、普通ならもっと動揺したり取り乱したりするはずです」


 レイラは顔を上げた。僕の眼を真っすぐに見つめる。

 その瞳はひどく、とてもひどく悲しげで、友人の不幸をの当たりにして落ち込む年相応の少女の顔をしていた。


 本心を悟られないように苦笑した僕は、


「それは……、きっと何度も死んでいるからじゃないかな……」


 そう、はぐらかすように言った。


「転生したのは一回だけではなかったのですか?」


「厳密に言えばそうなんだけど、僕はこっちの世界に来るときに一度死のうとしたことがあるんだ」


〝こっちの世界〟という言葉をレイラがどう捉えたかは分からない。


「……自殺ですか?」


「うん、そう……。色んなことが嫌になっちゃってね。でもある人物に助けられた。その後でそいつに殺されそうになったり色々あったから、これまで僕と死の距離は意外と近かったんだ。だから、あっさり受け入れられたのかもしれない。それに元々、魔神ヴァルヴォルグとそういう契約を交わしたんだから覚悟はしていたよ」


 レイラは納得したのか、小さくだけど確かにうなずいた。


 ところで――、と彼女は言った。


「リザは料理ができるのですか?」


 三つ子の魂なんとやらである。

 この展開で料理の話をするなんて食いしん坊は健在だ。いや、ひょっとしたら彼女なりの気遣いの可能性もある。しみったれた話をしていても仕方ない。

 

「お世辞にも美味しいと言えないけど不器用ながら頑張って作ってくれるんだ。だからとても温かい気持ちになる」


「そうですか、いいですね。私にない物をたくさん持っています」


 オッパイとかかな?


「……なぜ胸を見るのですか?」


「う、バレだ……」


「この状況であなたと言う人は……。やはり彼女と私の魂が同じ人物の物だったとは思えません」


「キミはキミだ、他の誰でもない。魂というのは単なる器なのかもしれないね、盛り付ける料理で個性は変わる」


「個性……。前世の記憶が戻るとはどういう感じなのですか? 以前のあなたは消えてしまうのですか?」


「消えないよ、ちゃんとここにある」


 僕は胸の中心を親指でさした。


「僕はユウ・ゼングウでありロイ・ナイトハルトなんだ」


 ふたりが同じ線の上にいる感じ。こればかりは経験者しか理解できないだろう。


「あ、そうだ。キミに渡したい物があるんだ」


「私に?」


「僕からの最初で最後のプレゼントさ。レイラ、ちょっと耳を塞いでくれる?」


「え、ええ……。は、はい」


 レイラは、言われたとおり左右の手で耳を覆った。

 僕は掌を真っすぐ夜空に掲げてその名を叫ぶ。


「来い、エイジス!!」


 刹那、雷鳴が轟き一閃の雷が落ちた。木々の枝の上で羽根を休める鳥たちが一斉に飛び去っていく。


「ひゃぁぁぁっぁぁぁぁッ!?」

 

 少し離れた暗闇から先生の悲鳴が聞こえてきた。


 僕の手の中に聖剣エイジスが顕現していた。


「その剣はまさかッ!?」


「そう、雷帝ライディンが使っていた聖剣エイジスだ。火雷天は僕が折っちゃったからね、だからこれをキミに」


「エイジスを私に……、い、いいのですか?」


「僕よりもキミの方が持つに相応しい。なんたって勇者の剣なんだから」


 厳密に言えばアナスタシアの物だけど、たぶん許してくれるだろう。


「あ、ありがとう……、ございます」


 僕から剣を受け取ったレイラは、光り輝く黄金色の刀身に見惚れている。


「できたのじゃ!」


 大きな声でリザが鍋を抱えて戻ってきた。


 彼女の持つ鍋からは湯気が立ち昇っている。

 どうやら河原でそのまま料理をしてきたようだ。彼女のカバンにはおやつ代わりの食材が詰め込まれているからそれを使ったのだろう。 

 そして途中で合流した先生と一緒だった。


 リザは満面の笑みで僕の前に鍋を置く。

 彼女が作ってきたのは保存食の干し肉がたっぷり入ったスープのようだ。野菜は一切入っていない。

 いつも一品以上は野菜を食べされていたけど、今日ぐらい許してあげよう。ハウエバー……、

 

「……」


 今回は一段と凄いな……。

 これはアメリカのスーパーで売っているスポドリみたいな毒々しい色をしている。ぼこぼこと気泡が現れては弾けていく。もはや沸騰しているのか泡立っているのか判別できない。



ロイ(´^ω^)「(あげても怒られんやろ)ほい、エイジス」


アナ((( ;;°ω° )))「っ!!?」

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