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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十六章】それぞれの願い

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第226話 ラストミール

「そうか……、まあなんだ、元々さ、僕はこっちの世界に来たあの日に死んでいたんだから、今日まで来られて良かったよ」


 僕はそう独り言ちていた。

 それは自分の中にいるヴァルに対して語りかけた言葉だった。


「それからヴァル、僕が消えた後のことなんだけど……クラリスたちを頼んでもいいか?」


『安心せよ、我が命に代えて守ると約束しよう』


「それを聞いて安心した。さあ、みんな、しみったれた顔をしてないで僕の最後の晩餐に付き合ってくれ。と言ってもたいした物はないけどね、お酒もないし」


 レイラはなんとも言えない複雑な表情を浮かべている。彼女は僕と目が合うと思わず視線を外した。


「……最後まで記憶を取り戻せなくて申し訳ありません」


あまりにも申し訳なさそうだったから、逆にこっちが申し訳ない気持ちになる。


「そんなことないさ、キミに出会えてよかった」


 だから僕は彼女に手を差し出して握手を求めた。彼女は僕の手を優しく握る。握り返したその手は、とても温かくて柔らかかった。


「先生も、ありがとうございました」


 レイラの次に先生とも握手を交わす。


「ロイくん……」


 先生のオッドアイからポロリと涙が零れた。

 僕はつられて泣いてしまわないように夜空を見上げる。


「明日はどう過ごすのですか? ローレンブルクに戻るのですか?」


 先生は声を震わす。泣き出してしまいそうになるのを必死に堪えている。


「……やめる。みんなには悪いけど僕は家族に会いにペルギルスに戻るよ。最後は家族と過ごしたいから……。ローレンブルクのみんなへの説明と謝罪は先生に任せていいですか?」


「……分かりました、私に全部、任せてください……」


 消え入りそうな声でそう答えた先生は、手で顔を覆ってしまった。嗚咽を必死に抑えながら泣いている。


「よろしくお願いします」


「……ちょっと……、お花を摘みに行ってきます……」


 先生は立ち上がって踵を返した。


「気を付けて」


 僕がそう言うと、振り返らずにこくりとうなずき、焚き火から離れていった。


 僕のために涙を流してくれる人がいることが素直に嬉しいと思った。

 魔人族だったとしても、やっぱりヘンリエッタ先生はヘンリエッタ先生だ。なにも変わらない。

 先生だけじゃなくて、人だろうが魔人だろうが獣人だろうが亜人だろうが、みんな同じなんだ。きっとローレンブルクのみんなも、同じように悲しんでくれる。


「先にアルトに会いにいくべきだよな。里に入れば僕とアルトが仲間で芝居をうっていたのがバレちゃうかな。ああ……、どうしたらいいんだろう」


「あの妖精なら妾が連れてきてやるのじゃ」


「リザ?」


「妾の翼ならヒトッ飛びなのじゃ。妖精の里への出入り口も把握しておる、主は安心して家に向かうとよい。すぐにアルトを送り届けるのじゃ」


 妖精の里への出入り口は周回しているとカノンちゃんは言っていたけど、リザの口ぶりからして彼女には分かるようだ。彼女を信じて任せよう。


「助かるよ、リザ。感謝する」


「うむ、そうと決まれば今宵はわらわが馳走を振舞うぞ!」


 リザはめいいっぱいに両手を広げてみせた。彼女は精いっぱい僕を元気づけようとしてくれている。


「ありがとう、楽しみだよ」

 

「任せよ!」と胸を叩き、「それでは沸かす水を汲みに行って来るのじゃ」と空の鍋を持って川辺に向かって行った。


「気を付けて」


 気を付けるのはこの辺を徘徊するモンスターの方かな。


「彼女たちは、あなたのことを慕っているのですね……。きっとあなたと関わった人たちはみんな、あんな風にあなたを慕っているのでしょう。私は本当にあなたのことを誤解していました……」


 レイラの瞳が揺れる。それは彼女の瞳に映った焚き火の炎の揺らめきだった。


「ラウラの転生体である私は本来ならば、リザのように憤ったり、あなたを元気づけようとしたり、涙を流したりするのでしょうけど……。どうしても混乱の方が大きくて、もちろん悲しくない訳ではないのです。あなたともっと話をして剣を交わしてみたかった……」


「それは単に一緒に過ごしてきた時間の差だよ。キミがそういう感情になれないのは無理もない。レイラ……、この世界をよろしく頼む。魔人たちともっと同じ時間を過ごして、もっと言葉を交わしてみてくれないか? きっと通じ合えるはずだ、今の僕らのように」


 どこまで出来るか分からないけれど、今夜中にレイラの説得を試みる。

 本当は今すぐクラリスたちの元に帰りたい。けれどせめて停戦に向けた道筋を示しておきたい。

 それが僕の最後の仕事だ。


 僕が死んだことはミルルネには隠すべきだ。セシルルやエルガルたちにもしばらく伏せておく。先生には申し訳ないけど、ローレンブルクで軟禁するようリザに伝えておこう。

 レイラの協力を得られたら、召喚陣を破壊する実行役だ。これは実力と信頼面からグランジスタかゼンダが適任だろう。引退した彼らには申し訳ないけど、明日戻ったら事情を説明してカインに向かってもらう。


 その後は、クラリスとガブリエラとソフィアに……――。


「……あれ?」


 彼女たちのことを想うと自然と涙が溢れてきた。

 


金、土はお休みします。

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