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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十五章】決戦

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第221話 闇と光

「さて、そろそろ始めようか。みんな退屈している」

「ええ、それでは――」


 互いの剣が接触した瞬間、火花が散った。一瞬で間合いを詰めた僕らを、この会場の何人が目で追うことができただろうか。


 原剣《火雷天》、やはりエイロスの特殊攻撃《双鋏そうきょう斬撃》は弾き返さてしまう。

 しかしエイロスも火雷天の特殊効果である超高温の刃では切断できない。ゼファーソードであっても上手く受け流せば耐えられる。

 それにしてもレイラの反応速度は驚異的だ。アジリティ特化型のナイトハルト流にまったく引けを取らない。

 さらに一太刀、一太刀のすべてが重くてブレがない。これでいて自己流とは――。

 天性の体感センスと教科書のように基本に忠実で完成された剣技、彼女は剣士の究極形といえる。


 まさしく剣の極み――。


 互いの回転が上がり始める。徐々に押され始めたのは僕の方だった。躱しきれない斬撃が僕の体を刻んでいくが、たちどころに斬り傷が治っていく。


「自動回復魔法ですか」


 そう呟いたレイラは僕から距離を取った。


「使っちゃいけないってルールはないだろ」


 してやったりと僕は微笑する。


「ええ、その通りです。覚悟が足りなったのは私の方だったのかもしれません……。ならば回復が追いつかないようにしてしまえばいい」


 彼女を覆う空気が一変した。四方に散らしていた火力を抑えながら凝縮した状態を維持している。

 足を踏み出すと同時に一気に加速したレイラが突進してきた。僕は二刀の剣をクロスして迎え撃つ。激しく互いの刃が衝突した直後、


 ――重いッ!!


 正面から受けた僕の体は吹き飛ばされて闘技場と観客席を隔てる壁にめり込んで止まった


「ぐはッ!」

 

 ギフテッドの加護でジェットエンジン並みの推進力をアタック力に変換しているのか!? あんな攻撃を何度も受けていたら剣か折れる前に腕がへし折れてしまう!!!


「私は負ける訳にはいかない! あなたとは背負っている物が違うのです!」


 間髪入れずにレイラの猛攻が続く。彼女の剣を捌きながら僕は反撃の隙を狙う。


「勝手に決めつけるな! 僕にだって負けられない理由がある! 誰もが理想を叶えようと必死で生きているんだ!」


「理想だけでは世界は救えない! 平和な世界は私が実現してみせます!」


「それは一方的な平和に過ぎない! みんなに優しい世界を夢見ることがなぜいけない!」


「すべての生き物に平等な世界など、そんな不確かな物のために人類の存亡を天秤に掛けることはできません!!」


 剣を交える度に神経が研ぎ澄まされていく。

 歓声が、音が、情景が消失していく。

 極限までに研ぎ澄まされた時間が凝縮していく。現在、この世界、この領域ゾーンにいるのは僕と彼女の二人だけ――。


 互いに一歩も引かない攻防は長くは続かなかった。

 

 ついにレイラの攻撃に耐えきれずゼファーソードにひびが入り、真っ二つに砕け散った。折れた刃が地面に突き刺さる。


「力なき正義に理想を語る資格はありません!」


 流れるような動きでレイラが刀を振り下ろした。

 

 惚れ惚れするほど絶妙の角度だ。僕の足さばきは読まれていた。このタイミングでは回避は難しい。エイロスでの防御も間に合わない。折れたゼファーソードで迎え撃つしかない。

 しかし、今のゼファーソードではレイラの一撃には耐えきれない。そのまま僕の体ごと両断される。ゼファーソードと一緒に左腕を犠牲にするしかない。魔法で強化された左腕なら斬撃の軌道を変えられるかもしれない。

 その可能性に賭けるしかない!


 そこからは無意識だった。

 勝手に体が動いていた。まるでそうすることが当たり前のように――。


 僕は折れたゼファーソードでレイラの原剣《火雷天》を切断していたのだ。


 半分に両断された刃が宙を高く舞って地面に突き刺さる。


 信じられないと言った表情でレイラが目を見開いた。その視線は切られた火雷天ではなく、僕のゼファーソードに注がれている。


 ゼファーソードの折れた部分を補完するように、漆黒の光が伸びていた。


 その漆黒が〝時空転移魔法〟だと気付くのに、数瞬の時間が必要だった。


 それはやろうと思って出来たのではない。僕は無意識に時空転移魔法で剣を造り出していたのだ。今も絶え間なく魔法を発動させて刃状にエネルギー帯を維持し続けている。


 触れた物は跡形もなくこの世界から消え去る。全てを分断する最強の剣、《黒剣》が今ここに誕生した瞬間だった。


 しかし魔法で常に剣の形を維持し続けなければならない。体内の魔力がどんどん目減りしていく。


「面白いことを考えましたね、さしずめ魔法剣と言ったところでしょうか……」


 レイラは額に汗を滲ませながら言った。彼女はこの剣の恐ろしいに気付いている。

 しかしこちらは彼女以上に時間がない。こうなれば次の攻撃で決める他ない。


「降参しろ、キミの負けだ。この剣はどんな防御も無視してすべてを切り裂くぞ」


 レイラはくすりと笑った。まるでこの状況を楽しんでいるようだ。


「あなたのおかげで私はさらに強くなれそうです」


 レイラが微笑んだ次の刹那、折れたはずの火雷天が煌々と輝きはじめる。


「まさか……」


 ジェットエンジンの排気口から吹き出す炎のように、炎のエネルギー帯が折れた刀を補完している。超高出力のバーナーとも言うべき炎は、もはや炎ではなく光のかたなだ。


「降参しますか? この刀はすべてを切り裂き貫くでしょう」


 彼女は初めて使った僕の技を見様見真似でやってのけた。

 互いの武器は一撃で相手を必殺する威力がある。受けることも防ぐこともできない。どちらかの刃が肉体に届いた時点で勝敗は決まる。


 

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