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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十五章】決戦

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第219話 対勇者戦1

 ローレンブルクに帰ってきた僕は、城で待っていたみんなに結果を伝えた。


 説得は失敗し、次の安息日の正午にレイラと決闘する。 

 高い確率でこうなることは予測されていた。事前に作戦を伝えていただけあって、みんなの反応は落ち着いた物だった。


 カインにはリザと先生が同行することになった。先生は監視役だから仕方ない。できれば病み上がりのリザは置いておきたかったけど、彼女は頑として一緒にいくと言って聞かなかった。


 方針が決まったその日の翌日、僕はリザと一緒に城下町の様子を見に行くことにした。

 獣人族やエンデの村人たち、元リタニアス兵たちの様子を一通り見て回ってから、エンデ村の子供やアジトにいた混血児たちと剣術の真似事をしたりして遊んで過ごした。


 誰が指示したのか知らないが、子供たちは僕のことを「おーさま、おーさま」と呼び、リザのことを「おーひさま、おーひさま」と呼んでくる。非常におもはゆいけど、嫌な気分はしない。子供たちからカップル認定されてリザはご満悦だ。

 彼女が喜んでくれるなら、それでいい。


 ふたりで城に戻っているときだった。リザは急に立ち止まり青い空を見上げた。


「どうした?」


「あと数日で決戦だと言うのに、こんなにゆっくりしていて良いものかの……」


 戦うのは僕だ。だけど、リザはまるで自分のことのようだ。


「慌てても仕方ないよ、今は体を休めるのが優先だ。最近ずっと動きっぱなしだったしさ」


「……そうじゃな、こんな時間がずっと続けばいいのじゃ」


 儚げな彼女の笑顔に、僕は胸騒ぎがしたんだ。


 だから彼女の手を握りしめて、手を繋いで歩き出した。離さないようにしっかりと指を絡ませて、僕らの城へ。



 

 ――そして決戦の日、安息日を迎えた。


 カインの西側にはコロッセオがある。世界最大のアルゼリオン闘技場に引けを取らないくらい立派なコロッセオだ。

 豪華絢爛さではアルゼリオン帝国には敵わないけど、歴史と厳かさでは聖都カインに軍配が上がる。


 枢機教会が所有するこのコロッセオは娯楽のためではなく、使用は新勇者を決める際に異義申し立てがあった場合に限られる。

 世界中から我こそが真の勇者であると息巻く猛者たちがカインに集結し、トーナメントを勝ち上がった者だけが勇者に挑む資格を得るのだ。


 かつてライゼンとグランジスタが勇者の称号を掛けてここで戦っている。

 そのとき異義を申し立てて名乗りを上げたのはグランジスタだけだったらしい。他の者たちからすれば、かの雷帝ライディンに挑むなんて自殺行為だったに違いない。


 そしてこの場での決闘は神事として位置付けられている、というのは表向きで実際はお祭り要素が強いようだ。

 

「さっき観客席を見てきたが、すごい人なのじゃ。あんな大勢の人間が今までどこに隠れておったのか不思議じゃぞ」


 外野のお祭り騒ぎにリザは興奮している。


「みんな娯楽に飢えているんだよ、カインって何にもないからね。ま、これも作戦通りさ」


「どういうことじゃ?」


「これだけ人が密集していたらギフテッドの力を制限せざるを得ない。魔王軍を蹴散らしたときのアレをやれば観客はあっという間に蒸発しちゃうからね」


「なるほど、さすが主じゃな!」


 手放しに誉められた僕はえへんと胸を張る。


「加えて決闘というスタイルを選んだのも僕の作戦だ」


「うむ?」


「彼女の性格なら純粋に剣術だけで挑んでくるはずだ。無垢な彼女はチートレベルのギフテッドの力を頼るのは剣士の恥、正々堂々なんて思っちゃうからね、少なくとも補助程度でしか力は使ってこないと思う。だけど僕はヴァルの支援をガンガン受けながら戦う」


 戦う前からすでに戦いは始まっている。如何いかに自分にとって有利な土俵に引き込むかで勝負は決まるのだ。これぞグランジスタ直伝、お嬢様の落とし方、壱の型なり。

 くくくっ、彼女が籠の中の鳥で助かったぜ。


「主という男は……」

「こんな卑怯な僕に幻滅したかい?」


「馬鹿者! 惚れ直したに決まっておるではないか!」


 太陽にようにリザは微笑んだ。

 その笑顔は眩しくて愛おしくて仕方ない。彼女はいつだって僕を励まして支えてくれる、信じてくれる。

 早く故郷に戻ってクラリスたちに彼女を紹介したい。すべてが終わった後、堂々と彼女を連れて家に帰るんだ。


「リザ、これからなにが起こっても出てきちゃダメだよ」


 真面目な顔でリザの目を見つめる。


「うぬ……」


「これは決闘だ。僕とレイラの真剣勝負、第三者が横槍を入れて穢してはいけない。たとえ僕が死ぬことになっても」


「うむ……」


 僕はリザを抱きしめた。

 彼女の肩がびくりと強張る。その反応に少し違和感を覚えた僕は、彼女を解放して踵を返した。


「じゃあ、行ってくるよ」

「勝利を信じて待っているのじゃ!」


 リザの声援を背中に受けた僕は、闘技場までの真っすぐな通路を歩きながらヴァルを呼んだ。


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