第216話 頭蓋
エンデ村って僕が連れてきた魔人たちが住んでいた村の名前かな?
「それで主よ、一体どうするつもりじゃ?」
「超級召喚陣は神殿の魔天祭壇という場所にあるらしいんだけど、まずはエルガルの千里眼でその位置を特定する」
「うむ」
「魔天祭壇に入れるのは教会でも極一部のはずだ。枢機神殿に乗り込んで警備を突破しながら無理やり魔天祭壇に向かえば間違いなく近衛隊と戦闘になる。一般隊士が相手なら問題はないけど」
「レイラじゃな」
「ああ、だからいきなり実力行使ではなく説得から入ってみようと思う」
「説得? レイラをかや?」
「そう、魔王軍と停戦するから召喚陣を破壊させてくれってね」
リザは眉根をよせて首を傾げた。
「あの女は教会側の人間じゃぞ、応じるとは思えぬ」
「だろうね、だから説得してダメなら交渉に切り替える」
「交渉が決裂したら?」
「そしたら力でねじ伏せるしかないかな」と肩をすくめてみせた。
「ふむ、勝算はあるのかや?」
「まともにやりあえば勝算はゼロだ」
「主にしては弱腰じゃな」
「それは買いかぶり過ぎだよリザ、僕は自分の力を過信したりしない。相手の力だってちゃんと見極められる。純粋な剣での戦いなら勝つチャンスもあるだろう。だけど彼女はギフテッドだ。キミも蒸発していく魔王軍を見ただろ? あんなのと正面から戦って勝てるはずがない」
「ならば、なにか良い考えがあるのじゃな」
「そういうことだ。エルガルが戻るまでみんなに『超級魔法陣破壊作戦』を伝える。彼が戻り次第、千里眼で召喚陣とレイラの居場所を確認してから行動開始だ」
リザをはじめ、先生とセシルルがうなずいた。
エルガルが城に戻ってきたのは、それから一時間ほど経ってからだった。
獣人族も魔人族も元リタニアス兵たちも上手くやっているとエルガルから報告を受ける。それが聞けてひとまず安心した。
村にいた子供たちの栄養状態も良くなってきているそうだ。獣人族は狩りをして採れた獲物をみんなに振る舞い、魔人族は田畑を耕し、元リタニアス兵たちは水路や道路の整備に尽力しているとのこと。
三者間でわだかまりはあるだろう。だけど、いつか心から同じ国に住む仲間と思える日が来るはずだ。僕はそう信じたい。
一通りの報告を受けた後で、さっそくエルガルに魔天祭壇の場所を視てもらおうとしたのだけど、できないと断られてしまう。
何度試しても枢機神殿の内部は視ることができなかったそうだ。これも神殿に張られた結界の影響だと推測できる。
それならばと、レイラを千里眼で探してみてくれと指示を出す。
エルガルが言うには、会ったことのない人物を視るときは、会ったことのある者の記憶から居場所を手繰り寄せるそうだ。
「それでは私の肩に触れてください」エルガルは言った。
「うむ、苦しゅうない」と僕は偉そうに彼の肩に手を置く。
むむ、なかなか筋肉質で良い身体をしているではないか。かなり鍛えているとみえる。
肩をもみもみする僕にエルガルは、気味悪そうな顔をしていた。
「眼を閉じて見たい人物を頭の中でイメージしてください」
言われたとおり頭の中で彼女をイメージするが――。
レイラの顔、顔……、かお? あれ、おかしいな……。顔じゃなくて彼女の裸体しか思い出せないぞ。なんてことだ。前回、お風呂を覗いてしまったせいで意識がそっちに行ってしまっている。
それならもう裸体でいいやと意識を集中させると、次第に瞼の裏に景色が投影されていき、ライブ映像でレイラの顔が現れた。
「成功です。レイラ・ゼタ・ローレンブルクを捉えました」
「おお、すごいな……」
しかしこれでは近すぎて場所が特定できない。室内のようだが情報が足りない。
「ちょっと近すぎる、もっと視界を引けないか?」
「承知しました」
カメラがレイラの顔からズームアウトしていく。
「おう……」
ゴクリと僕は生唾を呑み込んだ。
レイラは裸だった。自分の部屋で湯浴みをしているようだ。前回も風呂に入っていたが、たまたまなのか僕の邪念によるものか、とにかく何も着ていない。
それにしてもなんて瑞々しい体をしているんだ。小ぶりだけど愛らしいお胸、完璧なラインを描くくびれ、そしてぷりんぷりんのお尻。かつてアルトの幻惑魔法で見た湖のエルフに匹敵するとも劣らない美しいさだ。神々しささえある。
なるほど、千里眼にはこんな使い方があるのか。ひとりで好きなときに観れるエルガルが羨ましいぜ。
「分かったのかや?」
「う、うん……もうちょっとだけ……」
「妾もどんな感じか見たいのじゃ」
「あっ!?」
リザがエルガルの肩にタッチした瞬間、彼女にも僕らの視覚が共有されたのが理解できた。
「主よ……」
ギロリと睨まれた僕はエルガルの肩から手を離した。
「うっ……」
ゴゴゴゴッという地響きが聞こえてくるほど、強い怒りの波動を感じる。
グググッと拳を握りしめたリザは満面の笑みでこう言った。
「軽く頬を叩てもいいかや?」
ニコリとした彼女の笑顔に僕は悟った。
あ、これ頭蓋骨が粉砕するやつだ。




