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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十五章】決戦

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第215話 後手

~前回のあらすじ~

 幼気いたいけな幼女、ミルルネ・ヴァルゴの正体は魔境を統べる魔王であった。

 ユウは戦争を終結させる第一歩として、魔王軍の解体を条件に超級召喚陣の破壊を魔王と約束する。

 さらにグランベール学院の教員であるヘンリエッタがユウの前に現れる。

「先生、魔人族だったんですね」


 僕は目の前にいるヘンリエッタ先生には角がある。学院にいるときはこれをどうやって隠していたのだろう、そんなどうでもいい事が気になる。


「え、ええ……。そうなんです」


 先生はえへへと遠慮気味にはにかんだ。

 しかし、一見スパイなんて不向きそうなのにまんまと溶け込んでいたな。


「全然気付きましでしたよ。グルーガルが本名なんですか?」


「は、はい。こちらではグルーガル・キャンサーと呼ばれています」


「ええっ!? じゃあゾディアックなんですか?」


「い、一応ながら……」もじもじと手のひらを擦り合わせている。


「ていうか先生、学校は? ズル休みですか?」


「け、研究休暇を取りましたので長期で休んでも、大丈夫なのです」


「ふーん。それじゃあさっそくローレンブルクに行きましょうか。先生、転移魔法を使いますので僕の近くに来てください」


「は、はい!」


『ユウ、待て』


 魔王の前で雑談していた僕は、ヴァルの声を聞いてここに来た本来の目的を思い出した。


「あ、そうか。本題を忘れていた」


 玉座の方に向き直り、ミルルネに尋ねる。


「なあ、この城に魔神ヴァルヴォルグの身体の一部があるはずなんだけど、見たことあるか?」


「はい、確かにありまちたね」


「ありました?」


「申し訳ございません。盗まれました」

 

 ミルルネはペコリと頭を下げた。


「一体誰にって、まさか……」


「デリアル・ジェミニでしゅ」


「ミルルネ、もし知っていたら教えてくれ、デリアルはローレンブルクに保管されていたヴァルヴォルグのミイラも持ち出したそうだ。ヤツの目的はなんだ?」


 ミルルネは頭を振った。


「わかりません。捉えどころのない者でしたので何を考えているのかボクにはさっぱりでしゅ」


「そうか……。ここにあったのは右脚か?」


「はい」


「他のパーツの所在は?」


「存じません。この城で保管していた物は、先々代の魔王が北方大陸にかつて存在した枢機教会施設から奪い返した物でしゅ」


 アルデラに先を越されていた。いや、そうではない。先に動き出していたアルテラの後手に完全に回っている状態だ。


 ヤツはすでに左腕と右脚を手に入れている。他のパーツもすでに手に入れている可能性もある。


 頭か胴体が手に入れば、他のパーツの所在地が分かるかもしれないとヴァルは言っていたが、ここで情報は途絶えてしまった。伝承や言い伝えを頼りに探していくしかない。しかし今、僕にそれをしている時間はない。探索はローレンブルクの魔人たちに動いてもらうしかないだろう。




 ヘンリエッタ先生を伴ってローレンブルクに戻ってきた僕は、城の中央階段を降りてくるセシルルと出くわした。

 僕に気付いたセシルルは表情を緩ませ、その隣にいるヘンリエッタ先生に目を移した後に思わず二度見する。


「グルーガル!? どうしてあなたがここにいるのですか!?」

  

 驚くセシルルに向って先生は腕を組んだ。


「セ、セシルル……、定時連絡もせずに一体何をしていたのですか」 


 おお、なんか先生が上司っぽい小言を言っているぞ。

 セシルルの方が強そうだけど、先生の方が立場は上なのかな? ゾディアックの序列が分からない。


「私たちはヴァルヴォルグ様の配下になったのですわ」


「そ、そんな!? ミルルネ様を裏切るのですか!」


「そう言っております。私たちの創造主である神なのですから仕えるのは当然、なにか問題がありまして?」


「し、しかしそういう問題では……」


「現在、私とエルガルはローレンブルク共和国の統治を暫定的に任されているのです。あなたもこちら側に来て協力しなさい」


「私はミルルネ様に助けられた恩義があります。たとえ神様でもミルルネ様を裏切れません」   


 いつもおどおどしている先生が珍しく毅然と拒否している。とても良いシーンではあるけど――、


「そういう話は後にしてくれ、それよりリザの調子はどうなんだ?」


「それが……」セシルルは言いよどみ顔を曇らせた。


「なにかあったのか!?」


 僕の胸に不安が押し寄せる。


「おおっ! 主よ、戻ったのかや!」


 するとリザが階段を駆け下りてきた。以前と変わった様子は感じられない。元気印の彼女だ。


「リザ! もう大丈夫なのか!?」

「うむ、この通りじゃ!」

「よかった、ずっと心配だったんだ」


「それよりも主よ、その女はなんじゃ? もしや魔境で遊んでおった訳ではあるまいな」


 リザに睨まれた先生は僕の後ろにサッと隠れてしまった。これじゃ浮気現場を妻に見つかった浮気相手みたいじゃないか。誤解されるような行動は慎んでもらいたい。


「そんな訳ないだろ。彼女は見張り役だ」

「うぬ? 見張り役?」


「ああ、魔王と約束を交わしてきた。魔王軍を解体させる代わりに超級召喚陣を壊すことになったんだ」


「なんと!? ホントにそれでいいのかや?」


「ああ、あんな物に頼らなくても僕らは……、この世界の人たちはやっていけるさ」


「その約束が果たされるか確認するのがグルーガルなのですね」セシルルが言った。


「そうだ、まったく最適な人選だよ。なんたって彼女は僕が通っていたグランベール学院の先生なんだから、どうあっても僕に先生を傷つけることなんてできない」


「ロイくん……」先生が僕の服をギュッと掴んだ。


「魔王はそれを見越して先生を指名したんだ。まったくとんでもないヤツだよ、あいつは……」


 こうなることはずっと前から決まっていた。そうだろ? アナスタシア――。


「しかし主よ、確か超級召喚陣はカインの神殿の中にあるのではなかったのかや?」


 その通り、僕というより正確にはヴァルの右腕が結界の影響で神殿に入れなかった。


「それについては考えがある。エルガルはどこにいる?」


「獣人族の長とエンデ村の村長との会合に出席しておりますわ」セシルルが答えた。




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