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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十四章】魔境

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第211話 お出迎え

 それから魔境の村とローレンブルクを往復して、全員の転移が終わったのは三日後だった。


 リザの調子はまだ戻らず、ベッドの上でセシルルから看病を受けている。

 僕も仕事の合間に顔を出して彼女の様子を見に行くようにしている。解毒魔法が使えない僕は何もしてあげられず、早く良くなってほしいと願うばかりだ。



 エルガルたちとの会合を経て、送り漏れた村人がいないか確認するため魔境の村に戻ってきた僕は、一応ながらミルルネの様子を見に地下牢に行くことにした。


 結論から言うと彼女は地下牢の中で干からびていた。


「ミルルネっ!?」


 うつ伏せに倒れる彼女を抱き起すとカサカサに乾いた唇が微かに動き出す。


「……み、っみず……を、くだしゃい……」


「……生きていたか」


 ほっと息を付いた僕は、水筒の栓を抜いて彼女の口許に運んで水を与えた。

 すると、ほんの少し口に含んだけで乾いたミルルネの肌が見る見るハリを取り戻していくではないか。

 どうやら彼女は僅かな水分があれば生きていけるようだ。引きこもりを極めたような体質である。



「おいお前、なんでこんなになるまでここにいた? 牢の鍵が開いていただろ」


「で、でたくないのでしゅ……」

「筋金入りかよ……。魔人のクセに耐久値が低いヤツだな」


「……ボクは人族ヤルドとの間に出来た最初の混血児だから、耐久性は人族ヤルドに近いのでしゅ……」


「混血? そうだったのか……」


 こいつも被害者なのかもしれない。だからといって油断はできないが、ほっとく訳にもいかない。


「しょうがない……、お前もローレンブルクに連れていってやるよ」

「嫌でしゅ! 外は嫌でしゅ!」


「うるさいぞ、ワガママ言うなまったく」


 僕は彼女の体を肩に担ぎ上げた。ほとんど骨と皮だけの彼女の体は重さを感じない。


「離してくだしゃい! ひどい! 鬼畜! 鬼畜勇者! 魔王にもまさる残忍な男でしゅ!」   


 ひどい言われようだ……。自分のボスである魔王をディスってるところがまたひどい。


 ポカポカと僕の背中を叩いて必死に抵抗しているが、力が弱すぎてマッサージにもならない。


「ローレンブルク城には引き籠もるのにちょうど良い牢屋があるぞ、しかも三食昼寝付きだ」


「牢屋で三食昼寝付き!? 行くでしゅ!」


 今度はえらい態度の変わりようだな。牢屋で三食昼寝付きでここまで喜ぶなんて、とんだ変態幼女だ。



 ミルルネを肩に担いだまま階段を昇って上の部屋に出た僕は、彼女がちょうど収まりそうな木箱があったので、その中に入れてみた。なんとなくそうした方が落ち着くのではと思ったからだ。


「僕は村人が残っていないか確認してくる。そこで大人しくしていろよ」


 そう告げると、ミルルネは魂が抜けたように動かなくなった。どうやらエネルギー消費を抑えるセーフモードに移行したらしい。


 で、外に出てみると黒騎士の一団が玄関を取り囲むようにして待ち構えていた。彼らの後方には貴族が使うようなドア付きのカーゴを引いた馬車まである。


 これにはびっくり、気配がまるでしなかった。玄関前まで転移魔法を使って移動してきたのか? 気配を消しながらこの距離まで近づいてきたのなら、こいつらは手練れ揃いだ。


 僕が剣の柄を握ると彼らは一斉に片膝を地面に付けて頭を下げた。


「ロイ・ナイトハルト殿、ガイゼル王が城でお待ちです。ご案内しますので馬車にお乗りください」


 中央の黒騎士が顔を上げて言った。と言っても顔を覆う兜で素顔は見えない。


「は?」

  

 急展開に思わず思考が鈍化する。

 魔王が? なんで? 罠か? 今はそんなことよりもまずは――、


「どうして僕のことを知っている?」


「ミルルネ様からの定時連絡で概ねの状況は把握しています」


 なんだかんだ言ってちゃんと仕事してるんだな、あいつ……。


「僕を魔王のところへ連れていってどうするつもりだ?」

「我々は王の命に受けてそれに従うだけです。理由は聞かされておりません」


「そうか。よし、乗ろう」と僕は即答する。


 どうせヴァルの体を回収しに行く予定だったし、無駄な争いにをせず魔王城に招待してくれるっていうなら願ってもない状況だ。もしも罠だったら……、そのとき考えよう。


「あ、ちょっと待っていてくれ」


 黒騎士にそう告げた僕は、いったん家の中に戻りミルルネの入った木箱を閉じて再び外に出た。


「その箱は?」黒騎士が言った。


「ガイゼル王への貢ぎ物だよ、危険な物じゃない」


 ミルルネは罠だったときの人質にしよう。そう、だって僕は彼女いわく鬼畜勇者なのだから、期待に答えてやらねばならない。


「……承知しました、それでは参りましょう」





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