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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十四章】魔境

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第209話 目的

「や、やめろ! 入ってはダメだ!」


 男を無視して隠し扉を開けた僕は、地下へと続く階段を降りていく。


 建物の地下空間はやはり牢屋になっていた。

 通路の左右に独房が並んでいる。ほとんどが空だ。だけどそのひとつに魔人の女の子が閉じ込められていた。まだ年端もいかない幼女だ。


 牢屋に近づくと眼帯を付けた幼女は、怯える片目で僕を見上げた。

 こんな日の光も当たらない劣悪な環境に、彼女が何日も閉じ込めていたのかと考えるだけで胸糞が悪い。


 僕はサラマンダーの加護で指先に灯火を宿した。

 暖かい光に照らされて彼女の姿がはっきりと現れる。

 眩い光に目を細めた彼女はそう、ひと目見てロリコンになっても構わないと思えるほどの美少女だった。


 幼気なその目元には濃いクマが刻まれている。彼女の頭や手足、体の至るところに包帯が巻いてある。リタニアス兵士たちから拷問を受けていたのかもしれない。


「……おい、これはどういうことか説明しろ」


 僕は隠し扉の入口から下をうかがう髭面の男を睨み付けた。


「ちがうんです! お願いだから殺さないで! 俺たちはその方に命令されただけなんです!」


「何を言っている……。言い訳はあの世でしろ」


 僕は剣を鞘から引き抜く。


「ひっ! ひぃぃぃっ! いやだ! やめ、やめて、やめてください!」


 階段を昇り始めた僕の背後から「はぢめまして」と、か細い声が聞こえてきた。

 足を止めて振り返る。リザが牢屋の中にいる幼女を見つめていた。さっきの声はこの少女だと気付く。

 

「こんな遠いところまでよくいらっちゃいましたね。若き人族ヤルドの勇者さまと恒竜族のお姫さま……」


 魔人の幼女は立ち上がってぺこりと頭を下げた。


「ボクはゾディアックがひとり《処女宮》ミルルネ・ヴァルゴと申しましゅ」


「は?」


「あの男にはまだ利用価値があるので殺さないでください、お願いちましゅ」


「ど、どういうことだ? キミはあいつに閉じ込められていたんじゃないのか?」


 少女は頭を振る。


「違います。ボクが自分で閉ぢこもっているのでしゅ」


「……それは一体、なんのために?」


「ここが最適だからです。外に出たら人と会ったりおしゃべりしないといけない。ので、ここに引きこもっています。暗くてジメジメしていてとても落ち着きましゅ」


「あ、そう……なんだ……」


 意外な事実に呆気に取られながら僕は剣を鞘に納めた。


「あの男が言っていることは本当なんだな? キミがあの男や他の者たちに指示を出しているのか?」


「そうです。あなたが見てきたとおり彼らに村人を襲わせ、略奪をやってもらっているのでしゅ」


「……なんのために仲間である魔人をわざわざ苦しめるようなことをする」


「目的を一言で説明するなら、それは人族ヤルドに対する憎悪を植え付けるためです」


「憎悪?」


「村には子供と老人しかいなかったでしょ?」


「ああ……」


「若い女はさらわせ、若い男は彼らに殺させました。目の前で父を殺され、母を犯された子供たちは人族ヤルドを憎むようになります。いずれ子供たちが成長すれば村々からヤルドへの復讐に燃える兵士が誕生しましゅ」


「理解できない……。同族を殺したり苦しめたりしてまでやるなんてどうかしている」


「復讐に燃える強い戦士の育成は、我々人類が生き残るために必要なことでしゅから」


 仕方ないとでも言うのか――。


「強い戦士の育成が目的なら村の女の子を誘拐するのはなぜだ? 女児だって才能があれば立派な戦士になる」


「それも戦略の一環です。混血の戦士を生産するために攫ってきた女たちを人族ヤルドの男とつがいにさせて子供を産ませていましゅ」


「この上にいる彼女がそうか……」


 ミルルネはうなずいた。


「ボクら玉種ぎょくしゅと呼ばれる種族は人族ヤルドより長く生きますが、基本的にオスは生殖能力が弱く発情期も短い。中には雌雄同体で自ら子を生む種族もいます。一度人口が減ってしまうと戻るのに何百年と掛かるのです。その点、人族ヤルドは生殖能力に長けています。また精霊の加護という強大な力を操ることができる。その血を我々の中に摂り込み弱点を克服する――、というのがボクの役目でしゅ」


「子供たちがたくさんいた施設は混血児の教育機関だったのか……」


「その通りです。年中発情する彼らのおかげで人口は着実に増えていましゅ」


「反吐が出る……。お前がやっていることは人体実験だ」


 文字通り吐き捨てた僕を嘲るように幼女はニタニタと笑う。


「ボクは進化を促しているだけでしゅ」


 彼女からはまるで悪意が感じられない。最初から善悪を持ち合わせていないのだ。

 ひょっとしたら僕より長く生きているのかもしれないけど彼女は無垢のままで、ただそうあるからそうしているに過ぎない。

 僕は彼女がひどく恐ろしい存在モノに感じた。

 



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