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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十四章】魔境

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第207話 野盗

 間違いない。あれは人族、リタニアスの兵士だ。  

 しかもひとりだけじゃない。魔獣の背に乗る全員がリタニアス兵の甲冑を装備している。

 甲冑はボロボロで傷だらけ、兵士たちの顔も切り傷があったり、片目が潰れていたり片手がないヤツもいる。


 先頭の魔獣が村の柵を突き破り侵入してきた。


「食い物をよこせ! 水をよこせ!」

 リタニアス兵が声をあげる。刃こぼれた剣を振り回す。


 これは一体どういうことなんだ……。なぜリタニアスの兵士が魔境にいる? なぜ、魔獣に乗って盗賊みたいなことをしている?


「主よ、あれは何者じゃ?」

「人族……で、間違いない。だけど……」


 状況が掴めない僕は立ち尽くす。その間にも野盗たちは傍若無人に魔人たちが育てた作物も強奪していく。


「女はどこだ! 隠れても無駄だぞ!」


 兵士たちが自分の家に押し入っていくのを恐怖する村人は成す術なく呆然と見つめている。

 この村には戦力となる大人の魔人がいない。いるのは老人と子供だけだ。


「こっちに来い!」


 家の中から髭面の兵士が魔人の少女の手を無理やり引っ張って出てきた。


「嫌ッ! やめてよ! お願い許して!」

「黙れ! 大人しくしねぇと痛い目にあわせるぞ!」


「おやめください!」

 兵士の前に老魔人が飛び出した。少女を助けようと必死に兵士の足にすがりつく。


「恨むなら無力な自分たちを恨むんだな、ひひひっ」


 老魔人を蹴飛ばした兵士は、少女の髪を無造作に掴んだ。


「あう……やめて、助けて……、おじいちゃん……」


「どうか! どうかその子だけはッ!」


「うるせぇ!」


 兵士は抵抗できない老人に容赦なく蹴りを浴びせる。


「勘弁してください! お許しください!」

「勘弁できねぇなぁ! ぶきゃきゃきゃきゃッ!」髭面の兵士は高笑いをあげた。


 まさか魔境でこんなことが起こっているなんて想像もできなかった。これでは完全に人族が悪ではないか、僕らの住む世界と真逆だ。

 なぜ彼らは魔境にいるのか、野盗をやっているのかその事情は分からないが、さすがに見過ごす訳にはいかない。


「あいつらと話をしてくる。リザは少し身を隠していてくれ」


「なせじゃ?」


「なんていうか、『ひゃっはーオンナがいるぜ!』とかなると話が脱線してメンドくさいじゃん?」


「ふむ? 分かったのじゃ」


 大人しくリザが物影に隠れたのを確認した僕は、少女の髪を引っ張る男に近づいていく。


「乱暴はやめろ、その子から手を離せ」


「あーん? なんだぁてめえは人族じゃねぇか? どこの部隊のモンだよ?」


 髭面のリタニアス兵は僕を訝しげに見つめる。僕は男の手首を掴んで力いっぱい握りしめた。


「いだだだだっ!? なにしやがる!!」


 少女の髪から男が手を離した瞬間、僕は男の顔面をぶん殴る。


「ぶぎゃあッ!?」


 髭面の男は吹っ飛んで仰向けに倒れた。

 

「お、俺にこんなことしてタダで済むと思っているのか! おめえらやっちまえ!」


 男が盛大な負けフラグを立てると、野党たちは略奪を止めて僕を捕り囲みながらにじり寄って来る。


 幾度となく魔王軍を退けてきた勇敢なリタニアスの兵士たち、今ここにいる彼らの顔に精悍せいかんさはなく誇りも失われている。


 まさか同じ人族に剣を向けることになるなんて……。


 僕は胸に鈍い痛みを覚えた。


 人族の兵士が何人いようと僕の相手にはならない。戦闘は一方的なものだった。

 彼らを圧倒して戦意を喪失させた僕は、全員を正座させて並ばした。


「なんでリタニアス兵のあんたらが魔境で盗賊なんてしている?」


 僕は髭面の男に言った。


「お、俺たちは魔王軍の捕虜になって魔境に連行されてきたんだ……」


 幾度かの魔王軍との戦争で行方不明になったまま戻らなかった兵士は少なくない。彼らは敵に捕らえられて魔境に渡っていたのだ。


「村を襲う理由はなんだ? なぜ魔境から脱出しようとしない」


「そ、それは……」髭面は言いよどむ。


「運よく収容所から逃げ出せたけど食べる物がなくて、仕方なく魔人たちから強奪していた――、そんなところか?」


 髭面は首を振った。


「違う……、命令だ。俺たちは命令されて魔人の村々を襲っている」


「命令だと?」


「ああ、そうさ。俺たちは自分の仕事を全うしているだけだぜ! これが俺に与えられた役目よ! 自分が生き残るために必要のことなんだ! だからお前も俺と同じ人族なら邪魔するんじゃねぇ!」


 僕は答える代わりに男の顔を平手打ちした。


「ぐぎゃあッ!?」



金、土はお休みします。

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