第203話 左腕
今後の方針を練る必要があるため、僕はローレンブルクに滞在している。
思い付きで出発して行き当たりばったりでここまで来たものだから、ローレンブルクを奪還した後のプランが何も決まっていない。
一度西方に戻ってフィオナ女王に現状を伝えるべきか、それとも次の拠点を叩きに行くべきか決められないまま三日、四日と過ぎていった。
なんというか魔王軍が当面攻めて来られない事実を知って気が抜けてしまったのだ。
みんな知らないだけで人族の勝利は目前だ。魔境からイレギュラーな存在が現れない限り、北方大陸全土を掌握できる。
それはとても良いことなのだけど、はたしてこのまま戦争を終わらせていいのかという疑問が湧いてきた。
仮に僕が魔王軍の現状を伝えて、人族の軍隊が北方に攻め込み勝利を納めたとしたら、多種族が暮らす共和国の建国構想はご破産になってしまう。
だって勝者となった人族には魔人族と仲良く手を取り合って暮らすメリットなんてない。
奴隷にして馬車馬のように働かせた方が、自分たちの暮らしを豊かにすることができる。
双方の力が拮抗してる状態でないと僕が考える共和国は成り立たない。
――どうすりゃいいんだ……。
僕が玉座でぼんやりしている間も、魔人たちはヴァルが壊した壁を文句ひとつ言わずに直している。
実に働き者だ。彼らも壁に沿って並ぶだけのNPCみたいだったし、やることができて良かったんじゃないかな(棒)。
日がな一日やることもなく、気分転換にローレンブルクの街を散策してみたけど、どこも閑散としていて街として機能していない。城の周辺以外は廃墟に等しい。
エルガルが言うには、少し前までは多くの魔人兵が常駐していたそうだ。さらにもっと以前、アルペジオのご先祖がいた時代は人口百万の大都市だったと教科書に書いてあった。
城下町を歩いていると、たまに哨戒中の魔人兵と出くわすことがある。エルガルとセシルルに幹部の魔人たちが、ヴァルの配下になった旨は通達されているようで、彼らは僕と目が合うと敬礼してくる。
そんな彼らに僕は手を上げてフランクに応じている。偉くなった気分になるけど、なんか複雑だ。
それからここ数日、リザはセシルルと一緒に行動している。
意外とあのふたりは気が合うみたいで、どこぞの街の人族の作った衣服がどうのこうのと楽しそうに話しているのを耳にした。
リザの意外な一面を見ることができた。きっと恒竜族の里でも、同い年の女子とあんな風に会話するのだろう。
今日はヴァルが久しぶりに自分の城を見て回りたいというので朝から体を交代している。
エルガルをお供に回廊を歩いているときだった。
『この辺りで我の肉体の痕跡を感じたのだがな』
「肉体の痕跡ですか?」エルガルは首を傾げた。
『我の肉体の一部だ。三英雄によってバラバラにされた我の体は世界各地で封印されているはずなのだ』
「三英雄によって? ……ということは、まさかあなた様はッ!?」
『如何にも、ヴァルヴォルグである』
エルガルは今頃ヴァルが自分たちの神様だと気付いたようだ。実際に会ったことも見たこともないのだから仕方ないけど。
「か、神よ、畏れ多くも数々の無礼をお許しください……」
戦々恐々のエルガルは床に膝を付ける。
『よい、過ぎたことだ。貴様は我が同胞の指示通り動けばよい。それよりも我の体をこの城で見てはいないか?』
「は、人の腕の形をしたミイラなら確かにこの先にある宝物庫に保管されていましたが、今は、その……」
『どこへやった?』
「そ、それが……、持ち出した者がおりまして……。も、申し訳ありません……」
『持ち出したのは誰だ?』
「《双児宮》デリアル・ジェミニです」
『……なに?』
「も、申し訳ございません! まさかあれがヴァルヴォルグ様の一部だったとはつゆ知らず!!」
『デリアル・ジェミニはどこへ行った?』
「それも分かりません。ヤツは数年間から姿を消しています」
『ここに保管されていたのは左腕で間違いないか?』
「左様でございます」
――なんでアルデラがヴァルのパーツを? ヤツはお前のファンなのか?
僕は言った。
『……嫌な予感がするな』
――嫌な予感?
『もしもアルデラがユウと同じことをやろうとしていたら』
――同じこと?
『肉体の移植だ』
「に、肉体の移植だって?」
強い衝撃を受けた僕は、思わずヴァルと体が入れ替わっていた。
わざわざ自分の腕を切り落として、別の腕をくっ付けるなんて普通じゃない。
ヴァルの予想通りなら、やはりアルデラはとんでもない異端者だ。
ここで二十三章はおしまいです。
キャラクター紹介などを挟み、二十四章【魔境】については、一週間後に投稿を開始する予定です。
なお、拙者をどなたかにオススメしていただけますと嬉しいです。よろしくお願い致します。




