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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十三章】新天地

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第196話 温泉回

〜前回のあらすじ〜


 アナスタシアの残した手紙によってリタニアス王国が窮地に陥っていることを知ったユウは、戦地に駆けつける。

 そこでかつての仲間との再会と永遠の別れを果たすのであった。

 カポーン。


 説明は不要だが敢えて説明しよう。カポーンとは古来から銭湯に入っているときに冒頭で使用される擬音である。

 それは主にケ□リンの桶が洗い場の床と接触したときに発生する音だと推測する。


 僕は今、露天風呂に入っている。


 ここはリタニアスから西に半日ほど進んだ場所にある王族の御用邸だ。その敷地の地下からは温泉が湧き出ており、かけ流しの浴場がある。


 王族専用であるため、大貴族であろうと血縁者以外は立ち入ることはできないそうだ。


 魔王軍との戦いから一ヶ月、軍隊の再編成や負傷者の治療、壊れた壁の補修、そして死者の葬儀と埋葬、王国の建て直しに追われる毎日だった。

 僕も破壊された城壁の修復や治療を手伝った。やっと落ち着いてきたそんなある日、僕らは御用邸に特別招待されたのだ。


「ふへ~、生き返るわ~」


 やっぱり温泉は最高だ。しかもどこか和風っぽい造りが実にいい。男湯と女湯の入口が別れていて、脱衣所があって内湯と外湯がある。設計したのは東方の大工だろうか。

 

 男湯の方は僕ひとり、なんと贅沢なのだ。

 女湯の方にはリザとデスピアとマリナさんが入っている。彼女たちが上手くやれるか心配だ。特にリザとデスピア、あのふたりはかくとうタイプだから悪い方にケミストリーしなければいいが……、前世も仲悪かったし。でも、マリナさんがいるから大丈夫だろう。

 ちなみにバリウスとタルドはリタニアスでお留守番だ。


 すると、内風呂の方から誰かやってきた。

 護衛の兵士か御用邸の職員か誰かだろうと思っていたら、湯けむり越しのシルエットが女性だ。


「気持ちいいでしょ? お肌がスベスベになるのよ。近いうちにこの施設を国民に解放しようと思っているの」


「フィオナ女王!?」


 タオルで前を隠してはいるが彼女は完全に裸である。


「こ、ここは男湯ですよ!?」


「たった今、立入禁止にしてきました。入口は侍女たちが塞いでいます。その他の者には下がらせましたので、男性はあなたしかおりません」


 女王は平然と僕の隣にやってきた。すらりとした美脚がとぷんとお湯を押しのけて、そのまま肩まで浸かる。

 堂々とした立ち振る舞いに僕自身が萎縮していく。


「改めてお礼をと思いますして。此度は命拾いしました、感謝申し上げます」


 状況がよく分からないけど、今は彼女に合わせるしかない。


「もっと早く駆けつけていればと思えてなりません。多くの命を失いました」


「皆、勇敢な戦士でした……。国のために戦ってくれた彼らと《白き死神》ユウ・ゼングウの生まれ変わりであるロイ・ナイトハルト殿がいなければこうして温泉に浸かることもできませんでした」


 女王を含め、アルペジオやデスピアに改めて自分が転生者であることやその他諸々について語っている。ただし、右腕については除いた内容だ。


「人格が形成された後に前世の記憶が蘇るというのは、どういう感じなのでしょうか?」


「正直うまく説明できませんが、人格が上書きされるというよりはプラスされると表現した方が近いですね。僕はユウ・ゼングウであると同時にロイ・ナイトハルトでもあるんです。性格は前世のときとそう変わらないと認識しています」


「転生、生まれ変わり、前世の記憶……。信じられないと言いたいところですが、魔法というのは元来そういうものなのでしょう」


 女王は両手でお湯をすくい上げた。彼女の指の間から乳白色のお湯がこぼれていく。


「ユウ・ゼングウ、あなたとこうして会話するのは初めてでしたね。前世のあなたに会っておきたかったのですが――」


「ラウラが会わせてくれなかった」


 女王が告げる前に先回りして言うと彼女はクスクスと笑った。


「その通りです。前世ではラウラがあなたに会わせてくれませんでした。きっと私にあなたを取られるてしまうと思ったのでしょう」


「僕なんかお目にかかるはずがないのに……」


「そんなことはありません」


「え?」


「私はきっとあなたに興味を持ったでしょう。いえ、持っていたのです。親しくなりたいと感じていた、だから彼女は警戒した。私があなたのことを好きになれば、自分は譲るしかないと彼女は思った。だから私たちを会わせようとしなかった……」


「バカだな……」

「ええ、大馬鹿者です」


 こうして女王とラウラのことを話し合えることが嬉しかった。

 だからこそ分かるのだ、彼女がここに来た理由が。

 

「女王……、あなたがここに来た理由は、そのラウラのことですね」


 微笑するだけで首を縦にも横にも振らなかった。


「ラウラはあなたと同じ場所で殺されたと聞いております。彼女は私にとって親友であり、姉妹のような関係でした……。もしあなたが転生したというのなら――」


「はい、転生していますよ」

「ホントですか!? どこの誰に!」


「誰だと思いますか?」


「……意地悪を言うのですね」と彼女は子供みたいにむっとむくれた。


「僕も見つけるまでそれなりに苦労したんです。それこそ記憶を取り戻してからの毎日がラウラを探す日々だった……」


 満月が輝く夜空を見上げる。


 クラリスを兄貴から取り返して、グランベール学院に通って、ヴァルが現れて、グランジスタとゼイダに鍛えてもらって、アルゼリオン帝国で大暴れして、リザと出会い、アルトと再会し、レイラと衝突して、リタニアスで戦った――、色んなことがあった。思い返せば容易な道のりじゃなかった。





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