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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十二章】勇者という名の光

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第189話 イベント

『影響によって未来が大きく変わる』

『いくつかの世界がアルデラによって消滅してきた』

『分岐点となる時間に拠点を設営することでヤツに対抗している』

 

 アナスタシアが残したメッセージに溢れて有り余るほどのキーワード、確信するには十分過ぎる。


 ――アナスタシアは時間を遡行している。


 彼女はアルデラの《魔導大全グリモワール》を阻止しようとしている。何度も失敗して、その度に過去に戻って〝やり直し〟ている。



「ところで主よ、どうやってレイラに会うのじゃ? きっと妾たちはお尋ね者じゃぞ」


 並走して空を飛ぶリザが言った。


「そうだな、場合によっては拘束されるかもしれない。ローレンブルク家の屋敷まで直接飛んでいこう。もうルールなんて僕らには関係ないんだ。行儀よく検査を受けて門から入る必要はない」


 空を支配する竜族のおかげで、どの国も対空装備という物は存在しない。従って上空からの侵入はザルだ。

 この世界において空からの脅威は基本的に竜族のみ。竜族に攻撃されたとしたら、それは天災に遭ったと思ってあきらめるしかない。


「夜を待とう。闇に乗じてそれなりの高度から降下すればバレないだろう」


 近くの川原に降り立ち、僕らはミレアママンが作ってくれたお弁当で腹ごしらえをしながら日が落ちるのを待った。


「主よ……」

「ん?」

「妾の前世の記憶が戻らないと、主はやはり嫌かえ?」

「え?」


「妾は主の望みを叶えたいと思っておる。主のラウラへの想いを痛いほど感じておる。じゃが怖いのじゃ……。思い出した瞬間に妾自身が消えてしまうのではないかと……」


 僕はリザの隣に腰を掛けて、彼女を包み込みように抱きしめた。


「大丈夫だよ、リザ。記憶を取り戻してもキミは消えたりなんかしない」


「本当かえ?」不安げな瞳が僕を見つめる。


「ああ、だって僕はロイのままだ。ロイは消えたりなんかしていない。僕はユウでありロイなんだ。上手く説明できないけど、記憶を取り戻してもリザはリザのままでラウラになるんだよ」


「うむ、それなら安心じゃ。早く記憶を取り戻して主の喜ぶ顔がみたいの」


「うん、一緒に探そう。記憶を呼び戻す方法を」


「しかし主よ、レイラがラウラではなかったのかえ?」


「ああ、どうやら転生の際に魂が別れたらしい。キミたちの前世は同じ人物だったんだ」


「なんと……。あの者と妾は同一人物であったか……」


「レイラと会ったときなにか感じたりしたかい?」


 リザは首を振る。


「そうか……」

「主よ、妾とレイラが同時にラウラの記憶を取り戻してたらどうなるのじゃ?」


「そうなったら喜びが2倍になるな」と親指を立ててサムズアップすると彼女は嬉しそうにはにかみ、体重を預けてきた。



◇◇◇



 夜更けになり、カインの上空から静かに降下していく。思っていたとおり、壁の上で周囲を警戒する衛兵たちは、誰も上を見ていない。


 聖都カインの北側、航空写真で見る皇居みたいにそこだけ青々と緑が残り、ぽっかりと空いた土地に見える。

 空地の中央にある領事館みたいな建物が見えてきた。


 ローレンブルク王国の敷地は国としてはもちろん西方で最小だが、貴族たちの屋敷と比べればそれなりに大きい。

 敷地内には庭園があり、練兵場があり、厩舎があって国務を総理する建物とは別に王族たちの居城があり、家臣たちの屋敷がある。

 それらが聖都の内側にあるのだから、当時のローレンブルク王は最高神官と余ほどの信頼関係で結ばれていたのだろう。


 音と気配を殺しながら僕らは居城のバルコニーに降り立った。

 部屋の中から灯りが漏れている。中から人の気配、誰かいるようだ。

 いきなり足を踏み入れるのではなく、そっと部屋の中からのぞき見る。


「……え?」


 声を出して僕は固まった。

 なんとレイラがいたのだ。

 付け加えれば彼女は何も着ていなかった。真っ裸の状態である。

 その足元には大きなタライがあり、溜められたお湯から湯気が立ち昇っている。彼女は入浴を終えて体を拭いていたところだった。


「へ?」


 バルコニーから首をのぞかせてガン見する僕と裸の彼女の眼がバチリと合う。

 闖入者に気付いてもレイラは動けずにいた。僕と同じく口をぽかんと開けて固まっている。


「ち、ちがうんだ、これは……」


 このタイミングでこのイベントが発生するなんてッ!


 我に返ったレイラは素早くタオルで体を隠した。濡れたタオルが胸やお腹、腰からお尻のラインを際立たせてむちゃエロス!!


「あなたという人間はどこまで私を馬鹿にすれば……」


 ぷるぷると震えるレイラ。大気が怒りで震えている。次第に周囲の空気がチリチリと熱を持ち始めていく。

 やばい、このままじゃ燃やされる!


「誤解だ! 僕の話を聞いてほしい!」

「問答無用です!」


 柱に立て掛けられた刀に手を伸ばしたレイラに対して、僕は即座に衣服を脱ぎはじめた。


「なっ、なにをしているのですか!?」レイラの手が止まる。


「キミと対等になろうとしているんじゃないか! 見たのであればこちらも見せなくてはならない、等価交換の原則だ」


「バカなことを言わないでください! そんな等価交換がありますか!?」


「もう無理だ! ああ、僕は止まらないよ! 心ゆくまで僕のシックスパックを見てくれ、そしてその蔑んだ目で僕自身をなじってくれ!」


 最後の砦、パンツに手を掛けた。


「やめなさい! それ以上降ろせばソレを斬り刻みますよ!」

「ふっ、切れるものなら斬ってみるがいい! 僕は硬さに定評のある男だ」

「なっ!?」


 一切の躊躇なくパンツを降ろしていく。レイラは僕の男気に動揺を隠せない。


「双方共に落ち着くのじゃ!」


 ポロリする直前で、ずいと後方から姿を現したリザが胸を張る。


「あなたは恒竜族の!?」


 当然ながら前回の騒動で角がなくてもリザの正体はバレている。

 レイラは刀を掴みかけたまま再び手を止めた。やはり恒竜族と事を構えるのは避けたいのだ。


「そんな小さい胸を見られたぐらいで喚くでないぞ。それにこの者はもっと大きいのが好みなのじゃ」


 ふんと息巻いたリザは自分の胸を両手で下から掴んでこれ見よがしに持ち上げた。谷間がさらに深くなり、凶悪さがばいんばいんと倍増する。


「なっ!? なんですって!」


 ついにレイラが刀を掴んだ。鍔に親指が掛かる。


 火に油を注ぐとはまさにこのことだ。同一人物の言い争いという状況はかなり珍妙でこのまま見ていたいが、まずは誤解は解くのが先だ。


「待ってくれ! 僕は小さいのも好きだ! おっぱいの大小や形に貴賎きせんはない!」


「はあッ!?」


「しまった間違えた! そうじゃなくてキミに大事な話があるんだ!」


「この状況でよくそんなことが言えますね!」

「落ち着けと言っておるのじゃ、胸なき小娘よ」


「あなたもたいがいにしてください……」


 ふぅとレイラは溜め息を吐いた。鍔に触れていた親指を離す。


「確かに女性を伴ってのぞきをするとは考えづらいですね……。分かりました、何か事情があるのは感じられます。着替えますので庭園にある東屋で待っていてください」


 僕はうなずき、踵を返す。


「あなたの服は持って帰ってください」


 半裸で脱いだ服を無言で拾い上げた。




 土日はお休みします。

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