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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十二章】勇者という名の光

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第188話 手紙

 翌朝、アルトとの再会を果たすという目的を無事に果たした僕は、また会いに来ると約束して文字通りアイザムまで飛んで帰った。

 時空転移魔法による中継移動を試みてみようかと思ったけど、元の世界でリザがイグアナに変換されてしまったらどうしようかと不安になり、無難に飛翔術を使うことにした。


 ギルド前で着陸した僕らは、そのまま魔人の角をNEW受付ちゃんに渡してクエスト達成を報告する。

 六人倒しても持ち帰った角は一人分なので報酬は金貨一枚とのこと。

 おお、魔人ひとりで金貨一枚、ということは六人で金貨六枚。なんてこった、今から戻って掘り起こそうかな……。

 そんな罰当たりなことを考えながら踵を返したときだった。


「あ、待ってくださいテッドさん」


「ん?」


「《極刀》が戻ってきたらギルドマスターの部屋にお連れするようにマスターから申し付けを受けています」


「え? ギルマスが僕に?」

「それでは付いてきてください」

「今からなの? さっき帰ってきたばかりなんだけど」

「ええ、戻り次第お連れしろとのことですので」


 僕の記憶にあるギルマスは口ひげを生やしたムサイおっさんだった。彼が生きていれば後期高齢者だ。まだ現役なのだろうか。

 しかしギルマスが僕になんの用だ。新参者が極刀を名乗るなんて不敬だと怒られるのかな……。


 僕らは受付ちゃんに先導されて三階に上がる。ドアをノックした彼女が、「失礼します、マスター」と扉を開けた。


 ギルマスの部屋はユウだったときに何度か入ったことがある。

 当時は、鹿の頭のはく製やフルプレートの甲冑が飾ってあり、ごてごてした内装だったけど、今は余計な装飾がなくなりシンプルになっている。

 変わっていないのは、プレジデントデスクと椅子くらいだ。


「極刀の方々をお連れしました」

 受付ちゃんに促されて入室する。

 

「あなたが先週、冒険者登録したという《極刀》のテッドさん? 思っていたよりずっと若いのね」


 僕を見てギルマスは言った。


 しかし僕の知る口ひげを生やしたギルマスではなかった。女性だ。年齢は三十代半ばといったところ、大人の色気が漂う美人である。僕は彼女の顔を知っている。

 

「キミはっ!? 元祖受付ちゃん!」


 椅子に座ったまま元祖受付ちゃんことティナ・サザンピースは、ずるっとズッコケた。相変わらずリアクションが古い。


「が……、元祖って付けるのはやめてね」


 彼女が今のギルドマスター? 受付からギルマスってすごい出世じゃないか、この十五年の間に一体なにがあったんだ。


「じゃあ本家ではどうですか?」


「そうね、元祖よりはいいかな……って不思議なことを言うのね。私がこのギルドで受付嬢をしていたのは、だいぶ前よ。あなたとは初対面のはずだけど、私のことを知っているの?」


「いや、その、なんとなく……」

「なんとなく?」


「そんなことより僕に何の用でしょうか?」


「どうぞ、座って。立って話すような内容じゃないから」


 僕とリザは互いに顔を見合わせてから応接用のソファに腰を掛けた。


「これからそうね……、かなり奇妙な話をするわ。落ち着いて聞いてね」


 ティナは机に置いた自らの手を握りしめる。

 

「ある方からあなたに渡してほしいという物を預かっているの」


「僕に? この街に知り合いなんていないけど……いったい誰からですか?」


「アナスタシア・ベル様よ」


「え!?」

 

 アナスタシアがユウに? いや、彼女はユウが転生したことを知らない。じゃあロイに? いやいや、それも違うぞ。今の僕はテッドだ。だからテッドに対してということになる。

 

「もう十年以上も前のことだけど、ここに勇者パーティが泊まったことがあるの。そのときに私がアナスタシア様から預かったのがこの手紙です」


 ティナは二通の手紙を机の上に並べて置いた。ひび割れた封蝋とくすんだ紙の色が時の流れを感じさせる。手紙はふわりと浮き上がり、僕の前まで飛んできた。


「今日から十五年の時を経て、再び『極刀』と『テッド』の名前で登録する冒険者が現れる。その者に渡してほしいと、それだけ告げて彼女はこの街から去っていった」


 宙に浮いたふたつの手紙を左右の手で受け取る。


「その子から報告を受けたとき、まさか本当に現れるなんて夢にも思わなかった」


「どういうことなんだ……。なぜアナスタシアは僕が来ることを知っていたんだ?」


「私にも分からないわ。キミが右手に持っている手紙はすぐに開封して読むようにと、もうひとつは勇者に渡してほしいと言伝を受けています」


「勇者? レイラに?」


「アナスタシア様から託されたときは半身半疑だったけど、本当にこの日が来るなんて……。私も内容を知りたいので、キミ宛の手紙はここで開けて読んでくれると嬉しいわ」


「分かりました」


 封蝋をナイフで外して、折りたたまれていた紙を開いた僕は、声に出して読みはじめる。


『久しぶりだね、ライゼンの孫。私がなぜこの手紙を残したのか、色々と聞きたいことはあると思うが、現段階で言えることと言えないことがある。その影響によって未来が大きく変わってしまう可能性があるからだ。

 伝えておきたいのは、キミを殺害したアルデラについてだ。

 アルデラは原初魔法《魔導大全グリモワール》によって世界を虚無に変えようとしている。すでにいくつかの世界がアルデラによって消滅してきた。

 私は分岐点となる時間に拠点を設営することでヤツに対抗しているが、それも〝時間〟の問題だ。すべての拠点が消滅する前にアルデラを倒さなければ、この世界も、キミが住んでいた元の世界も消えてなくなってしまう。

 そしてここまでが今、私が言えることの限界だ。理解できなくても納得してほしい。キミはこれからカインに行き、もうひとつの手紙を勇者と一緒に読むんだ。アルデラを倒すために必要な可能性の種を、ひとつで多く撒いておきたい。彼女の覚醒が世界を救う鍵になるかもしれない』


 ここで手紙は終わっていた。


「……アルデラが《魔法大全グリモワール》で世界を消滅させる?」


「ライゼンの孫? グリモワールで世界を虚無に? それって一体どういう意味なの?」


 ティナの声は聞こえていたけど、反応することができなかった。


 ミレアが保管していたアルデラの魔導書にも書いてあった。魔導大全によって物語は結末を迎えると。

 それは世界の消滅を意味していたのだ。

 でも、なぜアルデラはそんなことを……。


「テッドくん?」


「ごめんなさい、説明はまた今度します! 僕はこれからカインに向かいます!」


 居ても立っても居られず部屋を飛び出した。ギルドを出た僕はリザの手を引いて空に舞い上がる。


「アナスタシア、あなたは僕に何をさせようとしているんだ……」





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