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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十一章】妖精の女王

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第184話 妖精の世界

 少し成長して大人になっているけど、やっぱりカノンちゃんだ。


「あ……、あの今、私の名前を呼びましたか? どうして私の名前を知っているんですか?」


 僕を見つめる彼女は戸惑いながら言った。


「驚くかも知れないけど落ち着いて聞いてほしい。僕には前世の記憶があるんだ。僕は前世でキミと会ったことがある」


 あまりも唐突で荒唐無稽な話だ。警戒されても仕方ない。だけど、アルトに繋がるカノンちゃんをここで逃す訳にはいかない。できるだけ慎重に、ゆったりした口調で彼女に語りかけた。


 恐る恐る近づいてきたカノンちゃんは、「良かった、やっぱりユウさんだったんですね」と表情を緩めて胸を撫でおろす。


 は? 彼女はなんて言った? ユウさんだって?


「ちょっと待ってくれ、カノンちゃんは僕が分かるのか? ユウ・ゼングウだってことが?」


 にこりと微笑み、彼女ははっきりとうなずいてみせた。

 

「はい、魂の色が一緒ですから。私たち妖精は容姿だけじゃなくて魂の色も見分けられるんです。だからユウさんだって気付くことができました」


「えッ!? そうだったの!? すげぇ……いや、今はそんなことより、どうしてカノンちゃんがここに?」


「漂ってきたこの匂いが記憶にあったからです。アルテミスが持ってきた串焼きの料理、ユウさんからもらったと聞いていました。偶然ここを通り掛かって、匂いがしてきて、まさかと思って来てみたら……」


「カノンちゃん! アルトはどこにいる? 呼んで来てくれないか? あいつに会いたいんだ!」


 カノンちゃんは表情を曇らせた。予想外の反応に不安が押し寄せる。


「ユウさん、アルテミスを助けてください!」

 

 切羽詰まった、今にも泣き出してしまいそうな顔で彼女は懇願してきた。


「それは……、一体どういう意味だ?」


「アルテミスは捕まって閉じ込められています」

「また奴隷商の奴らか?」


 彼女は首を左右に振った。


「違います。私の仲間たちにです」

「仲間に? 一体どうして? なにがあったんだ?」


「それは――」とカノンちゃんは語り出す。


 十五年前、里の跡目争いで極刀パーティから離れていたアルトは、アイザムに戻ってきたときに僕とラウラが死んだことを、ミレアから告げられて知ったそうだ。

 インプの里へと戻ってきたアルトは、しばらく塞ぎ込んで家に閉じこもっていたらしい。

 僕らが大変なときに一緒にいられなかった自分を責めて悔やんだ。


 あの日を境に人族と魔王軍との戦いは激しさを増していき、勢いに乗った魔王軍はリタニアス北部にまで侵攻してきた。リタニアス王国が猛攻にさらされているのを知ったアルトは、空位だった里長になることを決心し、仲間を率いて人族のために動き出す。

 

 幻惑魔法で魔人を惑わせ、魅了した。指揮を乱して部隊を混乱させ、魔王軍を撤退させることに成功する。

 さらに恒竜族の威圧プレッシャーも加わり、魔王軍は決め手を欠いたままリタニアスを攻めきれずに何年も過ぎていった。


 だが、それを快く思わないインプたちがいた。里長のアルトに反旗をひるがえししたその者たちによって、アルトは捕まり拘束されてしまう。


 アルテミスは里長の権限を乱用して仲間たちを人族と魔人族の戦いに巻き込んだ。彼女は他種族の争いには関わらないという妖精の慣わしを軽んじていると糾弾した。

 

 次の新月の夜、アルテミスの処分が決定する。

 無期限の幽閉か、もしくは妖精界からの追放。追放された妖精はすべての力を失う。魔法も使えないし空も飛べない。すぐに小動物の餌食になってしまう――。


「アルトは僕のために里長になったんだな……」僕は拳を握りしめた。


 ひとりだけ残されたアルトがどれだけ悲しんだことか。そのときの彼女の気持ちを考えると胸が張り裂けそうだ。

 彼女はひとりで立ち上がり、人族のために仲間を率いて戦い、今度は自分の仲間たちによって拘束されている。


「アルテミスはユウさんが守りたかった物を必死に守ろうとしていました」


 その言葉に僕の目頭が熱くなり、喉はチリチリと焼けるように痛い。


「すぐに僕をインプの里に連れていってくれ、アルトは必ず助ける」


「ありがとうございます! で、でも……その」


 視線を泳がせて彼女は言い淀んだ。僕には彼女が口にしなくても言いたいことは分かる。


「大丈夫、キミたちの仲間は決して傷付けない」


「でも……どうやって戦わずにアルテミスを助け出すのですか?」


「いや、戦うよ」

「え?」

「戦うのは僕とアルトだ」

「アルテミスと戦う?」


「そうだ。でも本気じゃない。僕とアルトで芝居をうつんだ。もちろんカノンちゃんにも協力してもらう」


「芝居ですか?」


「いいかい? 僕はインプの里を襲撃する。暴れ回ってキミたちの住処を壊しまくる。その間にキミは仲間たちを説得して、僕を撃退するにはアルトの力が必要だと言い聞かせるんだ。説得に成功して囚われているアルトを救出したら伝えてくれ、『キミは魔法少女だ。悪い魔神になんでもいいから魔法をぶちかませ』と」


「わかりました」


「僕はアルトに倒されたフリをする。里を窮地から救ったアルトは仲間たちの信頼を得るはずだ。もう誰もアルトを拘束しようなんて言い出さなくなる」


「はい!」


「リザはここで待機していてくれ」

「なぜじゃ?」


 夕飯をお預けされているリザの顔はあからさまに不満げだ。


「恒竜族が突如現れたらそれこそ本物のパニックになるだろ?」

 と、もっともらしいことを言ってみたけど、本音はリザが芝居に向いてないからだ。


「嫌じゃといったら?」


 僕とリザの視線が交錯する。彼女は本気だ。なにがあっても僕に付いてくる気だ。鬼気迫る意思を感じる。


「戻ったらキミの好物を何でもごちそうしよう」

「大人しく待っているのじゃ」


 僕はカノンちゃんに導かれて妖精の世界に入門する。 






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