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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十一章】妖精の女王

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第183話 再会

「はがッ!?」


 目を覚ましたアルスが体を跳ね上げて起きた。


「ど、どこだここは……、俺は確か首を斬られて死んだはず……」周囲を見回しながら自分の首に触れる。


 そう、確かに僕はアルスの首を跳ねた。スパーンときれいな放物線を描いて生首が飛んで行った。

 アルスが死んだことで亜空間から解放された僕は、ヴァルの力を借りて蘇生魔法で蘇らせたのである。


 蘇生魔法は便利だけど、なるべく使わない方が良いというが世界の共通認識だ。失った臓器などを魔力で無理矢理復元させるため、肉体への負担が大きいからだ。さらに生き返った後には後遺症が必ず現れる。簡単に言えばレベルダウンする。


 まあ、レベルダウンしようが生き返らせたいから使うのであって、そんなことを言っていられないけど。

 では、識者たちが何を訴えたいかと言うと、「死ぬ前に逃げろ」と言うことだ。


「どうじゃアルス! まいったか!」


 かっかっかっ! 高笑いをあげてリザが勝ち誇る。

 呆気に取られていたアルスは苦笑して頭をもたげて空を仰いだ。


「あ、ああ……、そいつはどえれぇ男だが……。今の俺じゃどう足掻いても勝てん」


「うむ、分かれば良いのじゃ!」と彼女はご立派なお胸を張る。


「リザ、勝負に負けちまった俺にはもうおめぇを止められねぇ。どこへなりとも行きやがれ」


「ではアルスよ、恒竜王をはじめ国のみなに伝言を頼むのじゃ」


「ああ、うけたまわる」


 アルスは主人に仕える騎士のように地面に片膝を付けて頭を下げた。


「妾はこの者の旅に同行する。そして旅が終わったらこの者と結婚して子を産むぞ!」


「「なっ!?」」僕とアルスは同時に声をあげる。


 あかーん! その爆弾発言もさることながらホームラン級の死亡フラグを立てやがった!?

 

「リザ、それはダメだ。縁起が悪い。今すぐ撤回するんだ」

「なんじゃ主よ、照れておるのか? い奴じゃ」リザは満面の笑みを浮かべた。


「そうじゃない! ジンクスなんだよ! 言い伝えなんだ! 縁起が悪いんだ、そういうこと言うヤツは死んじゃうんだぞ!」


「む? 妾はしきたりには従わん! そんなくだらぬ言い伝えなど跳ね返してやるのじゃ!」


「いやいや、先人の教えには従うべきだと思うよ。だからさ、そういう大事なことは胸の中にしまっておこうよ、ね?」


「ならぬ! 妾は主と結ばれて子を成すのじゃ! 成すといったらナスのじゃ!」


「ぐっ……、たまには僕の話も聞けよ!」


「いつも聞いておる!」リザは喰ってかかってきた。


「主がレイラ何某なにがしに拒否されて泣きべそを掻いておったときなど一晩中聞いておったではないか!」


「うぐっ!? それは言わない約束だろ……」

「ならば主も言うでない! お互い様なのじゃ!」


 言い争う僕らを眺めていたアルスが笑い出す。


「くかかっ……。まったく、悔しいがお前らお似合いだが」


 なにニヒルに笑ってるんだよ! カッコつけてる場合か!? 許嫁をNTRちゃうんだぞ!? もっと危機感もてよ! そもそも竜族と人族で子供ができるのか? エッチなことはできるだろうけど……。

 

 僕の喉がごくりと鳴る。


「リザ、おめぇの伝言確かに受け取った。恒竜王にはしっかり伝えておく」


「うむ!」


「だがな! おめぇらの間に娘ができたら俺の嫁に迎えたい!」


「はあ?」と僕は思わず顔を歪めた。


「約束してくれ、リザ」

「うむ、考えといてやるのじゃ!」


 いやいやいや、勝手に約束するなよ! む、娘はやらんぞッ!


「ありがてぇ……。丈夫でどえらい雌を生んでくれよな」

「任せるのじゃ!」


「「はーっはっはっはっは!」」

 リザとアルスのふたりは高笑いをあげる。


 もうダメだ……。恒竜族の阿呆なテンションに付いていけません……。



◇◇◇



 それからほどなくして自己回復したアルスは飛び去っていった。やはり脅威の再生能力だ。

 もう追手がくることはないだろう。いや、恒竜王が直々にリザを取り戻しにくる――、なんて展開はないよね? 


 僕らは再び馬に跨って進み、フィルの森にたどり着いたときには日が暮れ始めていた。できればもっと森の奥まで進みたかったけど仕方ない。水場も近いし、今夜はここで野営を張る。

 

 テントを設営した後で、アルトを引き寄せる秘策の支度に入った。

 まずは火を起こして炭に火を入れる。

 炭が白くなる前に、ここに来るまでに仕留めてさばいておいた鶏肉を一口大には切らず、敢えて部位のまま串に刺す。

 熱した網の上に置いて炭火でじっくり焼いていき、特性の和風ダレを鳥の羽根に染み込ませて何度も塗っていく。


 特性ダレの香ばしい香りが漂いはじめた。


「今日は一段と豪華じゃな!」

「まだ食べちゃダメだぞ」

「妾は生でも大丈夫じゃぞ?」


 待ち切れないリザの口角からヨダレが垂れている。


「そういうことじゃないんだ。こいつでおびき寄せられるんじゃないかと思ってさ」


「なにをじゃ?」


「ん、アルトを。この匂いに誘われて姿を見せるかもしれない」


「食い物に釣られるなど卑しいヤツじゃな」


 おま言う……。

 

 これが僕の作戦、作戦名は「くんかくんか、なんか良い匂いがする。あれ? この匂いってまさか!?」だ。


 異世界人の僕が作った焼き鳥をアルトは大好きだった。他の人間には生み出せない唯一無二のこの香りを彼女は覚えているはず。

 これをフィルの森の中で何度も繰り返して、どこかに潜むアルトを釣り上げるという訳だ。


 秘策なんて言ったけど、実際これでおびき寄せられるかどうかは分からない。しかし、他に良い策が思い付かない。やれることは全部やるしかない。

 

 たゆたう煙に乗って香ばしい香りが空に舞い上がっていく。

 

 月夜の空に変化はない。炭が爆ぜる音と梟の鳴き声が木霊している。

 さすがに初回では無理か……。


 そんなすぐにくる訳ないよな。何度も繰り返して気長に待つしかない」


「もう喰うてもいいかや?」


「……そうだな、僕もお腹が空いた。晩御飯にしよう」


 そのときだった。牡丹雪のようにふわふわと光の球体が空から舞い降りてくる。それは紛れもなく妖精の放つ幻想的な光に違いない。前世で何度も見たアルトの光――。


「ま、まさか――」


 本当に来た、間違いない、アメジスト色の羽根の妖精だ。

 彼女は僕たちから少し距離を取った上空で停止した。体長は十五センチほど、美しいプラチナブロンドのはねっ毛をした彼女は、くりっとした大きな瞳で僕を見ている。


「カノンちゃん!?」


 間違いない、アルテミスと一緒にいたインプのカノンちゃんだ。




 土日はお休みします。

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