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【115万PV超】異端者アルデラの魔導書《grimoire》  作者: unnamed fighter
【第二十一章】妖精の女王

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第178話 更新

 さて、これで身分証明書の問題はクリアした。後は冒険登録するだけだ。登録したら今日中にアイザムを出て北を目指す。かつてユウとラウラがたどってきた道を今度は戻るのだ。

 目的地はアルトと初めて出会った森の湖。正直言ってしまえば、そこでアルトに再会できるかどうかなんて分からない。


 アルトとカノンちゃんは奴隷商に捕まって、たまたま連行されてあの場所にいただけだ。

 

 しかし僕は彼女たちの住処すみかがそこまで離れた場所にあるとは思っていない。その根拠はアルトが里帰りする際に飛んで行った方角が、いつも北だったからである。故にインプの里はアイザムより北にあることは確実だ。


 おとぎ話や伝承によるとインプに限らず妖精の里は、現世ではなく幽世にあるらしい。今まで誰一人として自力でたどり着けた者はいない。妖精の案内なしでは決してたどり着けない聖域なのだ。


 となると、近くまで行って向こうから出てきてもらうしかないが、僕にはアルトが近づいてくるであろう秘策がある――、そんなことを考えながら地下室で着替えを済ませて出発の準備しているときだった。


『ユウよ……』


「なんだ?」


 ヴァルの声がいつもと違うことに僕は気付く。

 腑に落ちない、納得できない、そんな感じの憮然とした声色だ。

 まさか僕が地下室に閉じこもったことを根に持っているのか? しかしそこは譲れない。僕には友人を淫獣から守る責務があるのだ。


『昨晩、ミレアから受け取った仮面からどうにも余の嫌いな者の気配がするのだが……』


「ああ、それな。極刀の意識が保存されているんだよ」


『なんだと!?』


 こんなに狼狽するヴァルは初めてだ。マウントを取ったみたいでちょっと嬉しくなる。おもしろ。


「その仮面は何度か話に出てくるアルデラって奴が作ったんだ」


『しかし、一体どうやって意識を物質に保存したというのだ?』


「それを僕に聞くか? よく分からんけどアルデラは、『三級聖遺物ではこの程度の力が限界か』とか言っていたから、物に宿る極刀の記憶データかなんかを仮面にトレースしたんじゃないのか?」


『む……、なるほど。確かに所有物には所有者の記憶だけでなく意志が宿ることがある。それをサルベージして魔法陣を介し、物質に定着させたと……。やはり面白いことを考える。我はそのアルデラに興味が沸いた』


「勘弁してくれよ、そいつは僕とラウラを殺した宿敵だぞ」


『何を考え、何ができるのか、敵ならばこそ興味を持ち知る必要がある。兵法の基本だ』


 HEY-HOねぇ……。魔神さまに兵法なんて必要なのか? そもそもこいつボッチじゃん。軍と戦うことはあっても軍を率いる訳じゃないから必要ないんじゃね? ああ、でも一応ローレンブルクの王様だったのか、そういえば。


『これを装着すれば極刀の意識が現れるのだな……』と考え深げに、しんみりと言った。


「ああ、今の僕たちみたいにラウラと極刀の意識が交代するんだけど、それでもアルデラには敵わなかった」


『それはアルデラの言った通り、媒体が弱かったせいであろう。もし媒体が、たとえば極刀の刀だったなら、かの者に遅れを取ることはない』


 おぅ? ひょっとして悔しいのか? 自分を倒した極刀がアルデラに倒されたことが。意外だな、勝ち負けなんて無頓着だと思っていた。


『ユウよ、仮面を顔に当てるのだ』


「どうするつもりだ?」


『非常に不愉快で不本意だが、誰であろうとこの我を倒した極刀をその程度と侮られるのは承服できん』


 何をするつもりか知らないが、とりあえず言われたとおり仮面を顔に当てる。


 おう、久しぶりの感触。陶器がひんやりして気持ちいい。


 目の前が暗くなって光の文字が浮かび上がり走り出す。


 Update

□□□□□□□□□


「なんじゃこりゃ?」


 Update

■□□□□□□□□


『我があやつと戦った記憶を媒体にして情報を更新している』


「物じゃなく記憶で?」


 Update

■■□□□□□□□


『うむ、物体でなくとも情報が取り出せれば良いのだ。直接あやつと戦った我の記憶ならば、一級聖遺物と同等の情報量を持っているはずだ。あやつの記憶を呼び起こすなど非常に不愉快だが仕方あるまい』


 そんなに極刀が負けたのが許せないんだな。もはや一周回って大好きだろ、このツンデレさんめ……。


 Update complete

■■■■■■■■


 その直後、仮面の裏側に映像が投影された。

 目の前には夜の荒野、そして立ちはだかるは黒い巨人。体表から黒い煙のような物が立ち昇っている。


「これは……、ひょっとして魔神ヴァルヴォルグと戦っているときに極刀の視界なのか? じゃあこれがヴァル?」


 高速で繰り出される剣技、絶え間なく放たれる多種の魔法、互いの位置が激しく入れ替わり応酬が続く。


 空と大地が何度も逆転している。グルグルと回る視界、一人称視点のゲームを観ているみたいだけど、実際にプレイしていないから酔ってしまいそうだ。


 高く飛び上がり、魔神ヴァルヴォルグの顔が視界に入る。


 それはまるで剣道の面のような顔だった。黒い顔面に青白く光る線が格子状に走っている。それぞれの格子の中にギョロリと動く眼球――。


「うわ!? 超キモッ!!」


 僕は咄嗟に仮面を外して叫んだ。


『……人の顔を見てキモいとは失礼であるぞ』


「す、すまん……」


 だってキモいんだもん。


『とにかく、これで本来の極刀に近づいたはずだ。もうアルデラに遅れを取ることはあるまい』


 頂きました、今日二度目の「遅れは取るまい」です。


「うーん、でもなぁ、これ、僕は使えないんだよなぁ。はたして出番があるかどうか……ま、いっか」


「ロイよ、準備はできたかや?」


 隠し扉の外からリザが呼んでいる。


「あ、ああ……、今行くよ」


 階段を上がってひんやりした地下室を出た途端に、むわっとした熱気と湿度を帯びた空気が流れてきた。

 天使が描かれたステンドグラスの窓の外では蝉が鳴いている。


 これから季節は本格的な夏を迎える。



 日曜日はお休みします。

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